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SS アイスクリームシンドローム(2)

2010.08.18 *Wed*
何となしに点けたテレビでは甲子園がやっている。全く野球には興味がないものの、他に見たいものもないし夏っぽいなと思ってチャンネルを変えずそのままにしている。
アイスを食べながら、私たちは色々話した。
勉強のことや。
ギターのことや。
みんなで遊んだときのことや。
二学期のことや。
楽しかった。よく考えたら、こうやって二人っきりで会って長々とおしゃべりというのはあまりしたことがない。長電話とかならたまにするけど。
私の隣で、笑顔で話す唯先輩。
やっぱり、唯先輩には笑顔が一番似合う。
ああ、この表情を、目に映る唯先輩の全てを私だけのものにしたい。焼きつけて、永遠に変わらない姿のままで。
このまま時が止まってしまえば。
またもや、そんな考えが頭の中に沸いてくる。

「ねぇ、りっちゃん、ひどいよね~」
「唯先輩も悪いと思いますけど……って、口にアイスついてますよ」

唯先輩の上唇が、バニラアイスで白くなっていたのでそのことを指摘する。唯先輩は「え、ほんと?」と口を拭おうとして――やめて、私に向かって少し唇をつき出してきた。

「あずにゃん、とって~♪」
「なっ!?」

目を閉じて、「ん~」と私に向かって唇を向けてくる。その仕草は、私にはキスを待っているようにしか見えなかった。
だけど、実際のところはそれは単なるスキンシップ。そんなわけはない。
胸がずきりと痛んだ。
きっと、いつか唯先輩はこの表情を本当に好きになった人に向けるのだろう。この顔で、この瑞々しい唇を相手に捧げるのだろう。
風が吹く。
ちりりーんと、風鈴の音が響く。
テレビから歓声が上がる。
遠くで蝉の声がする。
唯先輩の後ろに見える外の景色に、飛行機雲が見える。
どこか夢のような、幻想的な空間。それは、夏祭りのことを思い起こさせる。
人ごみの中はぐれてしまった私達。離れてしまった手と手。終わってしまう幻想的な、夢のような打ち上げ花火。
このままじゃ、唯先輩はいつか消えていってしまう。私じゃない、誰かと一緒に、私の手の届かない場所へ。

そんなのは、嫌だ。だったら、誰かにとられちゃうなら、その前に。

私の中で、私を抑えていた何かが、溶けきった。もう、止まらなかった。
すっと、唯先輩の頬に手を添える。「へ?」と目を開いて、唯先輩が私を見る。

「今、とってあげます」

私は自分でもびっくりするくらい、冷静な声で一言そう言ってから。

唯先輩の唇に、私の唇を重ねた。

アイスクリームで濡れた唇は冷たくて、甘い。体中の意識が、そこに集中する。
唯先輩の鼓動以外何も聞こえなくなって、唯先輩の姿以外何も見えなくなって。
世界には二人だけで、その他のものなんてなんにもない。そんな錯覚に陥る。
でも、それも一瞬のことで。
私がすっと離れると、すぐに音も景色も戻ってきた。
そこで、すぐに私の中に浮かんだのは、「やってしまった」という後悔だった。
キス、してしまった。
衝動的に、突発的に、想いのままに。今まで必死で押しとどめてきたものが、溢れだしてしまった。

「……」
「……」

唯先輩は何が起こったかわからない、というぽかんと呆けた表情をしていた。私も何も言えない。
先に動いたのは唯先輩だった。私に口付けられた唇をすっと撫でる。そして、「えへへ」と笑ってこう言うのだ。

「あずにゃんにキスされちゃった~」

何でもないことのように。ごく自然なことのように。
そっか。
そうなんだ。
唯先輩にとって私とのキスはそういうものなんだ。
意識しているのは私だけ。だったら、好都合だ。今ならまだ間に合う。ほら、一言笑顔でおどけて「ほら、とってあげましたよ」なんて言って誤魔化してしまえばいいんだ。
女子高のノリ。ふざけ合った友人同士のキス。そういうものとして片づけてしまえばいい。
わかってる。頭では、ちゃんとわかっている。
それなのに、私の口から言葉は出てこない。喉が詰まる。
唯先輩が、ひどく遠く見えた。私が見ている世界とこの人が見ている世界は違う。今、この場に一緒にいるはずなのに、遠い。
視界がぼやけた。

「あず、にゃん?」

心配そうに、唯先輩は私の目を覗き込む。どこまでも無垢で純真な瞳が私を写す。
駄目だ。
この人を、悩ませたくない。この瞳に昏い影を落とすことなんて、したくない。
私は袖でぐっと、目に滲む涙を拭った。
でも、目の前の唯先輩を見るとまたすぐに涙が浮かんできて、止まらなくて。もう、どうしたらいいかわからない。
そのとき、いきなり、慣れ親しんだ温かい感触に包まれた。
唯先輩が抱きしめてくれている。
温かくて、柔らかくて、心が安らげる場所。私はしがみつくように、離さないように、唯先輩の胸に顔を埋めて、泣いた。

  ◇

「すいませんでした……」

ひとしきり泣いたあと、私は唯先輩から体を離した。

「落ち着いた?」

そう訊ねてくる唯先輩に、とりあえず首肯する。本当はまだ胸の中がもやもやしていて、気持ちは晴れていない。でも、何だか少しだけ楽にはなったような気がする。
唯先輩は私の頭に手を置くと、幼子をあやすようにゆっくりと撫でてくる。
何も訊いてこない。
多分、私が話すのを待っているんだろう。話したくないことだったら、無理に言わなくてもいいよって言われているような気がする。
結局、普段どれだけ偉そうに言ってみても、いざという時は私が唯先輩に甘やかされているのだ。

「私、不安なんです」

だから、せめて伝えよう。何も言わないなんて、本当にただの甘えだから。
私の気持ちを全部伝えるわけにはいかないけど、それでも私が思っている、想っていることの一端でもいいから、唯先輩には伝えておきたかった。

「先輩達は後半年もすれば卒業で、そのあとは一人ぼっちになっちゃうんだなって……。いや、もちろん憂とか純とかはいるんですけど、でも唯先輩達と過ごす時間はまた特別ですから」

唯先輩は何も言わない。私の頭に手を乗せたまま、じっと私の目を見つめて、私の言葉を聞いている。

「先輩達がいなくなっちゃうことが怖くて、それで最近ナイーブになっちゃってて――ううん」

いや。
違うな。
私はそこで言葉を止めた。
私の言葉は、正しくはあるけど正確ではない。ゆっくりと首を横に振ると、私は唯先輩と視線を合わせた。

「私は、唯先輩と離れることが怖いんです」

澪先輩とも、律先輩とも、ムギ先輩とも、離れたくない。そんなのは当たり前。
でも、いなくなった後を想像したとき、怖いと、まるで私自身が消えてしまうかのような喪失感を覚えるのは、唯先輩に対してだった。
唯先輩に想いを伝えらないまま別れてしまったらどうのだろう。唯先輩に大切な人ができたらどうなるのだろう。
そうなったとき、私は私でいられるのか。
私は、それが怖い。

「そっか」

すっと、撫でるようにしながら唯先輩の手が降りてくる。そのまま頬にその手が添えられる。
唯先輩の表情は穏やかで、どこか大人びていて、いつもと違う分、何を思っているのかがわからない。

「だからキスしたの?」

……それを言われると、ちょっと苦しい。その理由を正確に話すことは、告白するのと同じだ。
どうしたものだろうと悩んで口が開けないでいる私を見据えて、唯先輩はにっこりと笑った。

「大丈夫だよ」
「何が、ですか」
「ずっと一緒にいるから」

私は一瞬、言葉を失った。
ずっと、一緒にいる。何でそんな重い言葉を軽々しく口にできるのか。憤るよりも、悲しむよりも、ただただ不思議に思う気持ちの方が強かった。
私はかぶりを振って、その言葉を否定する。

「無理ですよ。ずっとだなんて、そんなの」
「何で無理なの?」
「何でって、そりゃあ、唯先輩は卒業しちゃって私は学校に残るし、大学に行ってから新しい仲間とか大切な人ができるだろうし、そうなったらもう私は隣にいられないから……」
「あずにゃんは私と一緒にいたくないの?」
「だからいたいんですって」
「じゃあ、いいじゃん。いっしょにいようよ。私だってあずにゃんとずっといっしょにいたいよ。あずにゃんが望む限り――ううん、もしかしたらあずにゃんが望まなくても私はあずにゃんの隣にいたい」

真剣な目で、見つめられる。
本気なんだ。唯先輩は本気で、そう思ってるんだ。
大事なのは、私が、唯先輩がどう思うかで『普通』なんてのは考えなくてもいいんだって。
そして、私の隣にいたいって言ってくれた。それがどこまでの深さを持つ言葉なのか一向に判然としないけど、それでも十分過ぎるほど嬉しかった。
望んで、いいのだろうか。ずっといっしょにいたいだなんて我がまま。
答えはまだ出ない。

「じゃあさ、誓おう」
「へ?」

唯先輩が言った言葉の意味がわからなくて、呆気に取られる。その一瞬後。

私の唇に、唯先輩の唇が重ねられた。

「んむっ」

それだけじゃなくて、するりと舌が私の口内に侵入してくる。バニラと餡子の、甘い味が広がった。
甘い、甘い、甘い。
ただひたすらに甘くて、何でいきなりキスされてるんだろうとか、いい匂いだとか、唯先輩の舌がすごい柔らかいだとか、色々考えて、でももう何だか全てがどうでもよくなって、唯先輩の背中に手を回そうとして――
がちゃっという玄関の鍵が開く音で、私は我に返った。多分、憂が帰ってきたのだ。
唯先輩は焦ることもなく、ゆっくり私から離れる。さっきまで私の中に入っていた舌をちろっと出して唇を舐めるその仕草が艶っぽい。
心臓がばくばく暴れている。周りの音が何も聞こえなくなるくらい、うるさい。
唯先輩は悪戯っぽく笑う。

「ずっといっしょにいようねっていう、誓いのキス」

それから「うい~、おかえり~」といつもの調子に戻ってリビングを出ていってしまった。
いきなりのこと過ぎて頭がついていかないけど。
何だか順番が色々とおかしい気もするけど。
どうやら、私は「ずっといっしょにいる」という誓いを唯先輩と立ててしまったらしい。
濡れた唇を撫でる。
さっきのキスを思いだして、顔が熱くなる。
期待しても、いいのかな。唯先輩は、私を受け入れてくれるって。気持ちを、想いを伝えることに躊躇しなくていいのかな。
何だか心が軽い。のしかかっていた重しが取れたような、そんな感じ。
とりあえず、ちゃんと「好き」って言おう。今すぐ、はちょっと私の心の準備もできていないけど。
でも、時間ならあるんだよね。
だって、ずっといっしょにいてくれるらしいから。

ふと、手に濡れた感触。手に持っていたたい焼きアイスが溶け始めている。
私は慌てて、それを口にくわえた。




ようやく書けた……。ネタはるんるるんさんから頂きました! ありがとうございます! 某有名ゆいあずSSサイトさんのお名前でもあります「たい焼きアイス」。勝手に使わせて頂きました(笑) 
タイトルはポケモンの映画主題歌で、スキマスイッチの「アイスクリームシンドローム」より。素晴らしい曲です。穿った見方をすれば、歌詞が同性愛を歌っているように思えないこともなかったりします。
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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

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