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SS アイスクリームシンドローム(1)

2010.08.18 *Wed*
※唯梓
※梓視点
※シリアス
※以前募集したネタより「アイス(たい焼きアイス)」のお話。でもあんまりアイス関係ないorz

『アイスクリームシンドローム』

夏って容赦がない。
降り注ぐ日差しの強さ、アスファルトから立ち昇るもわっとした熱い空気、耳にこびりつくほどに喚いている蝉の声。
何もかもが容赦なく私に襲いかかる。Tシャツが汗ばんでいる。額や鼻筋に浮かんだ汗をタオルハンカチで拭う。八月も半分を終えたというのに、本日の予想最高気温、三十六度。とにかく暑い。
あまりの暑さに、コンビニへと涼みに入ったときに買ったオレンジ味のアイスキャンデーをぱくりと口に含む。
正直、こんな猛暑日に外出したくなんてなかった。元々何の予定もない一日だったので、冷房の効いた自室でギターの練習に精を出していたのに。
私は携帯電話を取り出す。それから、私をこんな灼熱地獄に引っ張りださせた元凶のメールを開いた。

from.唯センパイ タイトル.あずにゃん、大発見だよ! 本文.すぐウチに来て!

「……はぁ」

思わず、溜め息が零れた。
唯先輩からメールが来て、何事かと思えば、こんな要領を得ない一文で。……まぁ、唯先輩のメールはいつもそんな感じなんだけれど。
それから『いきなり何ですか』とメールを返してみたものの『いいからいいから』と押し切られてしまった。

「やっぱり私、唯先輩に甘いかなぁ……」

甘やかしちゃいけない。ただでさえ、家にはお姉ちゃん大好きっこの憂がいるんだから、私ぐらいびしっと言ってあげないと。
そう、いつも思ってるんだけど、結局私もついつい甘やかしてしまうのだ。
実際、今だって別に行かなきゃいいだけの話だ。そんな意味のわからない呼び出しなんて、お断りしてしまえばいいのに。
でも、私が行かないことでしょんぼりしている唯先輩を想像すると、胸の中がもやもやして何だか落ち着かない。
やっぱり唯先輩には笑顔が一番似合うから。
ズルイなぁ。唯先輩は本当にズルイ。
いつも意味もなく元気いっぱいで、いつも「えへー」と可愛らしい笑みを振りまいて、いつも「あずにゃーん!」と私に抱きついてきて、いつも「大好きだよ~」なんて言ってきて。
そんな風にされて、私がどう思っているかなんて露知らない癖に。
元気いっぱいな唯先輩と一緒にいると退屈しなくて、あの笑顔を向けられるたびに心が安らいで、抱きつかれると心臓が壊れそうなくらい激しく暴れて、「大好き」という言葉を聞くたびに体が熱くなる。
一緒にいたくて、触れたくて触れられてくて、好きで好きでどうしようもなくて。
気がつけば、私は唯先輩に恋をしていた。
百歩譲って、澪先輩ならまだわかる。澪先輩相手なら、きっとそれは単なる憧れに過ぎないと、そう思えるのに。
……唯先輩に憧れる要素はないよね。なんて、本人に言ったら「あずにゃん、酷いよ~……」と落ち込みそうだけど。
私が一緒にいたいと思う相手は、触れたいと、触れられたいと思う相手は、恋焦がれている相手は、唯先輩だった。
どうやら、私は同性に恋することができる女の子だったようだ。不思議な事に、別にそのことに対してそれほど思い悩みはしなかった。そうだと自覚したとき「ああ、私、唯先輩のこと好きなんだ」と思っただけで、その想いを一般常識で打ち消そうとも思わなかった。
これは本気の恋。同性だからとかそんなことを考えるよりも、私はこの本気の恋を誇りたい。
ただ、そうは言っても、猪突猛進に「好きです! 唯先輩!」なんて言えるわけもない。この恋を誇りたいとは思うけど、この恋は受け入れられるものではないということもちゃんとわかってる。
私は私自身を受け入れる覚悟があるけど、恋というものは相手があるものだから。相手に、唯先輩にその覚悟を、私を受け入れる覚悟を決めさせるのは酷過ぎる。
唯先輩は優しいから、きっと悩ませてしまうだろう。それは嫌だから。だから、私はこの想いを言葉にできない。
恋を誇りたいという気持ちと、唯先輩を困らせたくないという気持ちが私の中でせめぎ合って、どうしようもない気持ちになる。
ここ最近、具体的には夏祭りの一件があってから、特に。
夏祭り、人ごみの中はぐれてしまった私達。離れてしまった手と手。終わってしまう幻想的な、夢のような打ち上げ花火。
その日家に帰ってから考えて、唯先輩との別れがそう遠くないことに私は気がついてしまった。
このままでいいのだろうか。このまま、そこそこに仲の良い先輩後輩の関係で、終わってしまっていいのか。
焦る。焦って、想いを告げようかと思って、でもやっぱり唯先輩を困らせたくなくて。
堂々巡り。出ない答え。募る焦燥。
私はだんだんと追い込まれていた。じりじりと、私の中の何かが溶けていく。溶けていって、きっといつか――

手の甲に冷たい水の感覚があって、意識が現実に引き戻される。何かと思えば、持っていたアイスキャンデーが溶け出していた。
私は慌てて、それを口にくわえた。

  ◇

「あずにゃん、いらっしゃ~いっ!」
「うわぁっ!」

玄関のドアが開くやいなや、私は唯先輩の熱烈な抱擁の歓迎を受けた。

「も、もう、びっくりするじゃないですか!」
「えへへ、だって来てくれて嬉しかったんだもん」

そう言って唯先輩はにこにこと笑う。その笑顔だけでここまで来た甲斐があったと思ってしまう私を、昔の私が見たらどう思うだろうか。

「ささ、入って入って」

促されるままに、家の中に招き入れられる。入ってすぐに、あることに気がついた。

「あれ、憂は?」

いつもの流れなら、唯先輩に続いて憂が「いらっしゃい、梓ちゃん」とお出迎えしてくれるのだが、今日は誰もいない。よく見れば、靴も唯先輩のものしかなかった。

「憂はお買い物に行ってるんだ」
「なるほど。唯先輩はお留守番してたんですね」
「そうそう。今日の夕飯ハンバーグ~♪」

妙な節を付けながら歌うように言う唯先輩が微笑ましくて、思わずくすりと笑みが零れてしまう。

「あ~、あずにゃん笑った~。渾身の作曲なのに……」
「そんなんじゃ、ムギ先輩には敵いませんよ」
「ムギちゃんと比べないでよ~。私じゃ勝てっこないじゃん」
「いやいや、もしかしたら唯先輩には隠れた作曲の才能があるかもしれないじゃないですか」
「ほんとに? お、あずにゃんに言われたらそんな気がしてきた!」
「単純ですね」

そんな会話をしながら、私は唯先輩に続いて階段を昇ってリビングへと入る。
軽音部としてだけじゃなく、憂の友達としても来るものだからすっかり見慣れてしまった部屋の様子。冷房はつけられていない。代わりに扇風機がせっせと首を回しながら部屋を少しでも涼しくしようと働いていた。
少し熱さを含んだ風が、開け放たれた窓から吹きこんでくる。そのとき、ちりーんという軽やかな音が響いた。
音の方向に目をやると、窓際に吊るされた青銅の鐘が風に静かに揺られていた。

「風鈴、ですか」
「あ、それね、お隣のおばあちゃんがくれたんだ~。涼しい気分になれるからって」
「へ~、いい音ですね」
「そうでしょ」

ちりーん。
私は床に腰を下ろすと、瞼を落としてその音色に耳を澄ます。
確かに、涼しげな音だ。聞いていると、風が心地よく感じる。夏の熱気や、うるさ過ぎる蝉時雨から遠ざかった場所にいるような気がした。
唯先輩も私の隣で風鈴の音を聞いているようだった。
静かな時間。時折聞こえる風鈴の音。別に気まずい空気が流れることもなく、ただ自然に私と唯先輩はその綺麗な音に聞き入っていた。
いつまでも、こうしていたい。
ふと、そんな考えが頭を過った。私の隣には唯先輩がいて、唯先輩の隣には私がいて、こうやって、いつまでもいつまでも。
それは難しいことだって、頭ではちゃんとわかっているんだけど。

「それで、唯先輩、一体何が大発見なんですか?」

自分の中に浮かんだ想いを断ち切るべく、私は呼び出された原因である『大発見』とやらが何かを訊ねることにした。

「あっ! そうだ! すっかり忘れてたよ~」
「忘れてたって……」

人をこんな暑い中呼び出しておいてそれはないんじゃないか、と思いつつ、でもそれがやっぱり唯先輩らしくて私はやれやれと肩を竦めるしかなかった。

「ちょっと待っててね」

唯先輩は立ち上がって、台所の方へと向かっていった。がらっ、がさがさと冷蔵庫を漁る慌ただしい音が聞こえてくる。それから、ばたんという冷蔵庫が閉まる音がして、唯先輩がリビングへと戻ってきた。
手を後ろに回していて、持っているものを隠している。

「えへへ、あずにゃん、きっとびっくりするよ~」
「はい?」

びっくり? 一体何を見せようというのか。私の中で興味が頭をもたげる。私は唯先輩が持っているものを覗き込もうとする。
だけど、唯先輩はひょいっと一歩下がってそれを見せてくれない。

「だめだよ、あずにゃん。すてい、だよ」

唯先輩はめっと人差し指を私の顔の前に出す。何だか馬鹿にされているみたいでむっとした。

「なんですか」
「ふっふっふ、今から私の言うことをきいてくれたら見せてあげるっ」
「じゃあ結構です」
「なんでーっ!?」

そりゃそうでしょう。唯先輩のことだから、妙なことを言い出すに決まってる。「言うこと聞きます」なんて唯先輩に言うのはお腹を空かせたライオンの目の前に肉を放りだすようなものだ。……いや、唯先輩がライオンっていうのもイメージしにくいか。子犬におもちゃってところかな。

「いいの? すっごいいいものだよ? きっとあずにゃん、感動のあまり私に惚れ直しちゃうよ?」
「そもそも自分が惚れられてるというその自信に感動ですよ」

まぁ、実際に惚れてるんだけど。まさかそんなことを言い出すわけにもいかない。
唯先輩は立ったままおろおろとしている。すごく情けない表情で、目じりにはちょっぴり涙が浮かんでいた。きっと私が断るなんて微塵も想定してなかったんだろうなぁ。
信頼されてる、と思っていいのかな。

「……いや、甘えられてるだけか」
「はぇ?」
「いえ、何でもないです。はぁ、わかりましたよ。すごく気になります。言うこと聞くので、唯先輩が持っているものを見せて下さい」

溜め息交じりに私がそう答えると、すぐに唯先輩は顔にぱぁっと満面の笑みを咲かせた。本当にわかりやすい人だ。

「うんうん、気になるでしょ~! じゃあねぇ、まず目を閉じて下さい」
「はい」

言われた通り、目を閉じる。ごそごそとまたもや何かを漁るような物音がした、かと思うと「あったあった♪」と嬉しそうな声。そして、頭にすぽっと何かを被せられた。
……ああ、この感覚にはよく憶えがある。というか、正直「またか」という感じだ。
唯先輩の中での私のあだ名が『あずにゃん』になった原因の物。今でもちょくちょくつけられては、遊ばれる、それはネコミミだった。
まぁ、ね。どうせそんなとこだろうと思ってましたよ。なぜかこの人は私が恥ずかしがるのを見ては楽しむ癖があるようで。だから、唯先輩の言うことに従うってことは恥ずかしい思いをするってことと同義なのだった。
別に、今は唯先輩しかいないからそこまで恥ずかしくはないし、いいけどね。さて、これでこの我がままな先輩は満足したかな。

「もう目、開けてもいいですよね?」
「あ、まだだめだよ」

……そうですか。
どうやら、まだお気に召さないらしい。心のどこかかに諦念じみた思いが生まれる。もう唯先輩の好きなようにしてもらおう。

「いや~、やっぱりネコミミあずにゃんは可愛いねぇ」
「もう、何言ってるんですか」
「ぎゅってしちゃお」
「ちょ、暑いです! やめてください!」
「私の言うことはきく、でしょ、あずにゃん」
「うぐ……」

口では我ながら素直なことを言ってないと思うけど、本音としては、こういう時間は楽しくて心が浮つく。気持ちが、唯先輩のことが好きだという想いが溢れそうになる。
好きな人と二人きりっていうのは、やっぱりすごく嬉しいことで、私は少し浮かれていた。だから、いつもなら突っぱねるようなこういう要求もすんなり受け入れているのかもしれない。

「はい、じゃあ、次は口を開けて~」

唯先輩は私から離れて、そんな指示を出してくる。私は言われた通り「こうですか」と口をあんぐりと開いた。
次の瞬間。

「むぐっ!?」

大きく開けた口に、何かを銜えさせられた。突然のことに驚いて、目を開く。
眼前にきらきら目を輝かせた唯先輩の姿があった。

「完璧だよ! あずにゃん! まさにお魚くわえた猫ちゃんだよ!」

とりあえず、私は銜えさせられたものを目線を下に向けて確認する。
これは……たい焼き?
いやでも、熱くない、というか冷たい。ああ、これってもしかして。
両手で掴んでから、むぐりと一口齧ってみる。皮の中には甘い餡子と、それからバニラアイスクリーム。お互いの甘さが絶妙に絡んでいて、とてもおいしい。うん、やっぱり。

「ねぇねぇ、どう? 驚いたでしょ~。これね、たい焼きアイスって言うんだよ~」
「ええ、そうですね」
「あ、あれ、反応が薄い……」
「え? いや、だって知ってますもん」
「な、なんだってー!?」
「そんなに驚かなくても……。結構有名じゃないですか、これ?」
「ば、ばかなぁ……」

唯先輩はがくっと崩れ落ちて、四つん這いになって落ち込んでしまった。

「『大発見』だなんて言ったり、人に言うこときかせたりした割にはしょぼいですね」

落ちこむ唯先輩を見て、私はついつい意地悪なことを言ってしまう。唯先輩は「ううぅ」と声を洩らした。

「アイス食べようと思って、冷蔵庫漁ってたらこれを見つけてさ。もうテンション上がっちゃって。だって、あずにゃんの大好物のたい焼きと、私の大好きなアイスが一緒になってるんだよ? さいきょーじゃん」
「さいきょーって」

その言い方がおもしろくて私は笑ってしまった。笑った私を見て、唯先輩もにへっと笑う。

「さいきょーだもん。私、あずにゃんと一緒にだったら何でもできる気がするし!」

いきなりの言葉に、どきりと心臓が高鳴った。

「だから、あずにゃんと私の好きなものが合体してるのも、さいきょーなの」

ふんすっと鼻息荒く言い切る唯先輩に、私は少し戸惑う。

「ど、どんな理屈ですか……」

そんな私が特別みたいな言い方をされると、どうしても意識してしまう。いや、唯先輩に他意はないのだろうけど。きっと相手が律先輩でも澪先輩でもムギ先輩でも憂でも和先輩でも、唯先輩は同じようなことを言うに違いない。
私は、はぁっと小さく息を吐いた。駄目だな。唯先輩の言動にいちいち反応してしまう。そんなのは疲れるだけだ。特にこの人は深く考えずに言葉を発する人だし。

「そっかぁ……。あずにゃん知ってたんだ。まぁいいや。じゃあ、一緒に食べようよ」

来るまでにもアイス食べたんだけどなぁと思いつつ、私と唯先輩は仲良く並んでたい焼きアイスを頬張ることにした。




アイスクリームシンドローム(2)
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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

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