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SS 淡い恋の終わり 後編

2010.06.24 *Thu*
※純→梓、唯梓、ちょっぴり純憂
※『どうしようもなく好きなのに』の続編です。
※純視点



『淡い恋の終わり』 後編

どうやって自分の家まで帰ってきたのか、よく覚えていない。
時計の短針は六を指す。もう日はとっぷり暮れ、闇が街を覆い尽くしていた。
私は自室に入るとニット帽と眼鏡を外した。疲れがどっと押し寄せてきて、ベッドに身を放りだす。
まだ頭の中が混乱している。理解が追いつかない。
私の脳内にさっきの光景が焼き付いて、消えない。何度も何度もフラッシュバックする。

梓と唯先輩。
私は今日一日、あの二人を尾行した。正確には追っていたのは梓だったんだけど。
二人で楽器店に行って。
二人でお昼を食べて。
二人で洋服を見に行って。
二人でアイス屋に行って。
確かに、憂の言っていた通りだ。梓は唯先輩と買い物に来ただけ。傍から見ても、仲良しの友達同士で遊んでいるのだとしか思えない。
だけど、私は梓を、中野梓という人間を知っている。
梓は誰かと手を繋いで歩くような女の子じゃない。梓はあんな緩んだ笑顔で外を歩いたりしない。梓はあんなに人にべったり寄り添ったりしない。
恥ずかしがり屋で、そっけなくて、誰にも懐かない、生真面目な子猫。
それが、梓だ。
だから私は尾けている間、ずっと違和感を感じていたんだ。あれは、本当に中野梓なのか。私の知っている梓なのか。

衝撃のシーンは最後に待っていた。

この辺りでも大きい公園。その中心から少し離れた遊歩道前のベンチ。
前に梓と憂と三人であの公園まで遊びに行ったとき「ここって結構いいデートスポットじゃない?」と私が言った場所。そのとき、梓は「そんなの調べても、相手がいないでしょ」って苦笑してたっけ。
そう、そんな場所で。

「……キス、してた」

それは、長い長いキスだった。
人が通っても、見られてもお構いなしだった。
全く、周りというものを寄せ付けない、そこには二人だけの世界があった。

私は遠くからしばらく呆然とその様子を眺めていたけど、気がつけば、私は二人と反対の方向に走り出していた。
逃げだしていた。

私の中で一つの解答がはじき出される。その解答が正解ならば、今日の、そしてここ最近の梓の様子も納得がいく。
それはつまり、梓と唯先輩が――。

「いやいやいや……」

私はかぶりを振った。
その結論を出すのは早急ではないだろうか。
別に女の子同士でデートだなんて珍しいことでもない。手を繋ぐことだって普通のことだし、女子高となればキスぐらい冗談でやってる子だって大勢いる。
梓と唯先輩も、ノリであんなことをやっていただけなんじゃないのか。
……いや、だから、梓はそんなタイプの子じゃないんだって。
でも、じゃあ、やっぱり。

悩んで悩んで、悩んで、ふと手に取った携帯電話。
自然、ごくり、と喉が鳴った。
もういっそ本人に単刀直入に訊いてしまおうか。
一度そんな考えをおこすと、何だかそれが一番いいという気がしてきた。悩んでたって答えは出ないわけだし、精神に悪いだけだ。
よし、善は急げ。勢いでいってしまえ。
私は、すぐさま携帯の電話帳から『中野 梓』を呼びだすと躊躇なく通話ボタンを押した。
携帯を耳に押し当てる。呼び出しのコールの音が鳴っている。
一回……二回……三回……四回。
もしかして出ないかな、と思った矢先、ぷつっとコール音が途切れて『もしもし』という聞き慣れた声が耳に届いた。

「やっほー」
『どうしたの、いきなり?』

不審そうな声色で、梓は訊ねてくる。さて、どっから切り出したものだろうか。

「いやね、ちょっと訊きたいことがあって」
『訊きたいこと? 明日提出の課題の答えだったら無理だよ。私も今からやるところだから』
「ううん、違うけど……って、え、何、明日なんか提出あったっけ?」
『うん。ほら、数学の問題集をやってこいって』
「あ、あああっ! 忘れてた!」

もう、今日一日何してたの、と呆れ口調で梓は言う。
あなた達の後を尾けてましたなんて、言えるわけない。
課題なんてもの、頭の片隅にも気にかけていなかった……。

「うう……よし。こんな時は頼りになる憂様に」
『あ、憂は今キッチンだから、電話しても出ないよ』
「そうなんだ~……」

それは残念無念。今から自分でやらなきゃいけないのかぁ。鬱だ。
もう夕飯の時間か。それにしても、憂は何作ってるのかな。あの子の作る料理はすっごくおいしいんだよね。またご相伴に預からせてもらいたいものだ。

……ん?
ちょっと待って。

「あれ? 何で梓がそんなこと知ってんの?」
『私、今唯先輩の家にいるから』

……ああ、そういうこと。
唯先輩、ね。胸の奥を針で突かれたような痛みが走った。
私はぐっとお腹に力を入れる。空いている方のてのひらを握りしめる。

訊こう。

梓にとって唯先輩がどういう存在なのか。

『それで、課題のことじゃないなら訊きたいことって何なの?』
「梓」

私はできる限り落ちついた声を発した、つもりだったけど出てきた声はわずかばかり上ずっていた。

「今日さ、私、町中で梓と、それから唯先輩が二人で歩いているところを見かけたんだ」

実際は見かけたどころか、終始見続けていたわけだけど。
電話越しに、梓が小さく息を呑む気配が伝わってきた。一瞬の沈黙の後、『それで?』と続きを促してくる。

「いや、そんときの梓がいつもと違ってなんか妙に浮ついているというか、しょっちゅう唯先輩の愚痴を言っている割にはべったりだったからさ。だから何か、妙な勘繰りをしちゃって」
『……妙な勘繰り?』

梓の声のトーンが少し低くなる。ちょっと怖い。生唾を飲み込む。緊張で、上手く言葉が出てこない。
それでも必死で平静を、何でもない風を装って、私は言った。

「えっとさ、もしかして梓と唯先輩が、その、付き合ってる、とか」

外で鳥が鳴いた。何の鳥だろう。なぜだかそんなことが気になって、一瞬そちらに気が向く。

『――』

だから、すぐに発せられた、私の言葉に対する梓の返答を聞き逃してしまった。

「え、ごめん、今何て?」
『……だから』

いや、聞き逃したというのは嘘だったかもしれない。だって、私は梓が何て答えるのかがわかっていた。わかってしまっていた。
その答えが私にとってあまりにも喜ばしくないものであるということも。
だから多分、脳が、心が理解することを拒んだんだと思う。
だけど、梓の言葉は容赦なく私を貫いた。

『付き合ってるよ』

その声は少しだけ震えていたけど、でも強い意志が、想いがそこには込められていた。

「そう、なんだ」

驚愕よりも、やっぱり、という思いの方が勝っていた。
梓と唯先輩、付き合ってるんだ。
そりゃそうか。今日の二人の様子を見ていれば、わかりきったことじゃないか。何かと可能性を探ってみたりしたけど、これですっきりした。
すっきり、したんだ。

「……はぐらかされるかと思った」

いくらでも誤魔化し様はあったはずなのに。私は一緒に歩いている二人を見たとしか言っていないんだから。
でも、梓はそうしなかった。
真っすぐに、真実を語ってきた。

『はぐらかさないよ。だって、もう覚悟は決めたから』

覚悟を決める。
梓が決めたのは、隠さない覚悟。隠さないということは、つまりありとあらゆる視線に晒されるということだ。
その覚悟を決めるというのは、口で言うほど容易いことじゃない。
女の子同士の恋愛はマイノリティ。
それは普遍的にまかり通っていることではない。世の中の常とは異なっている。
普通じゃなくて、異常だ。
どんなことを言われるのか、どんな態度を取られるのか、想像に難くない。

「大好きなんだね」
『え?』
「いや、梓、唯先輩のことすっごく好きなんだと思ってさ」

それでも、梓は決めたと言うんだ。
普通じゃなくて、異常で、世の中から批難を浴びるだろうけど、それでも、隠さないと。
それはつまり、それだけ梓が唯先輩を想っているということだろう。

『……うん、すごい好き』
「あはは、何か素直な梓って気持ち悪い」
『も、もう。ほっといてよ』

好き、か。
梓はきっと私のことも好きだと言ってくれるだろうけど、でもそれは唯先輩への『好き』とは全然違う。
私の梓に対する『好き』とも、全然違う。

――羨ましいな。

『純?』
「何でもない。良かったじゃん、幸せそうで何より」
『う、うん。……あのさ、純は私が唯先輩のこと好きって気がついてた?』

いや、どうだろう。
多分、目を逸らしていたんだ。よく目を凝らして梓を見れば、すぐに気がついただろう。
梓は唯先輩の話になると、目の輝きが変わる。声のトーンが上がる。表情が豊かになる。それが何を意味するのかなんて、深く考えなくてもわかっただろうに。
私はちゃんと梓を見ないで、自分の恋ばっかりを見ていたんだ。

「まぁ、何となくはね~。だって、梓、口を開けば唯先輩、唯先輩って言ってたし」

そんなことを言えるわけもないので、適当なことを言って誤魔化す。

『そっか。私、分かりやすいのかな……。先輩達にも憂にも気がつかれてたし』

ちょっとしょぼんとした声。

「梓は分かりやすいよ。素直じゃなさ過ぎて逆にね」
『むぅ。素直過ぎる純には言われたくないなぁ』
「ひどっ」
『あのさ、純』
「はい?」
『もう一個訊いてもいい?』
「ん、何」
『その、変だとか、気持ち悪いだとか思わない?』

梓の声からは不安も読みとれたけど、それよりも挑むような強い感情を感じた。
もし、ここで私が「変だ」と、「気持ち悪い」と言ったらどうなるのか。
多分、どうにもならないだろう。
そんなことを言ったところで、梓の気持ちが変わるわけも、決意が揺らぐわけもない。
私と梓を繋ぐ友情の糸が断ち切られるだけだ。
ちょっとだけ、それもいいかな、なんてことを思った。一つのけじめとして。私の梓に対する気持ちへの私自身の誠意として。
でも、思っただけだ。
結局、私の想いはその程度なんだろう。
何らかの後ろ盾がなければ告白もできない。繋がりを、関係性を変容させることを許容できない。
こんな中途半端な気持ちが、梓に届くわけがなかった。

「いや、別に。まぁ女子高だし、結構その手の話も聞くじゃん。こんな身近で起こるとは思ってもみなかったけど」
『そっか。……ありがと』
「いや、お礼言われても」
『ううん。拒絶しないでくれて、嬉しいから』
「――拒絶なんてしないよ」

だって私達は。私達の関係は。

「親友でしょ」
『……えへへ、うん。改めてそう言われると恥ずかしいかも』
「そうだね~。言った私も恥ずかしい」

梓が笑う。私も笑った。
私達は、どうしようもなく友達だった。

電話の向こうで、憂のものらしき声が聞こえた。

『あ、夕飯できたみたい』
「いいな~。憂のご飯」
『いや、えっと、何か今日は唯先輩が作るって言いだして……。憂はそのお手伝い。ほんと、大丈夫かなぁ……』
「ほほう。恋人自らの手料理とは、愛されてますな~」
『そ、そんなんじゃないって。ただの気まぐれじゃないの?』
「はいはい、ごちそうさまです。それじゃあ、またね」
『あ、純』
「どしたの?」
『本当に、ありがとう』
「……お幸せにね」
『うん。じゃあ』

ぷつっと電話が切れた。つー…つー…という電子音だけが残る。
私は携帯電話をベッドの脇に置いた。
いつの間にか、雨が降り出していたようだ。ぱらぱらと窓に叩きつけられる雨粒の音が部屋に響いている。
雨脚はあっという間に強くなった。
窓を叩く音はぱらぱらからばらばらへと変わっていく。大雨だ。
遠くで雷鳴が聞こえた。今夜は荒れるな。

雨は嫌いだ。

だけど、今はその雨音がありがたかった。

なぜなら。

「うっ、ひっく」

零れ出る嗚咽を掻き消してくれるから。

「うぇ、っく、うわぁぁぁぁぁぁぁん」

雨はより一層激しさを増す。まるで、私を包み込んでくれるように。
ちょっとだけ、雨が好きになった。

  ◇

次の日、私は学校を休んだ。

昨日一日の疲れから体調を崩してしまったのだ。朝起きて体がだるいなぁと思って熱を測れば三十七度四分。微熱があった。
薬を飲んでひと眠りした今はもう大分楽になってるけど。熱も引いてきたし、これなら明日には元気になれそう。
体の方は。気持ちの方は、まだ整理がついていない。
この体調不調に、失恋のショックが関係ないといえば嘘になる。
まだ引きずっている。考えると、気分が悪くなる。

窓の外を見る。灰色の世界。昨日から降り続く雨はまだ止まない。

玄関のチャイムが鳴った。
母親が対応しているようだ。「お邪魔します」という声がする。

『from.平沢憂 大丈夫~? 学校終わったからお見舞い行くね』

さっき送られてきたメールだ。バスに乗らないといけないような私の家までわざわざ来てもらうのはちょっと悪い気もして「別にいいよ」と送ったんだけど、『もうバス乗っちゃったし』と返されてはどうしようもない。
こんこん、と外側からドアがノックされた。

「どうぞ~」

がちゃりとノブが回されて、ドアが開く。隙間からひょっこりと親友の平沢憂が顔を出した。

「純ちゃん、大丈夫?」
「うん。もう大分マシ。熱も下がってきたし」
「よかった~」

憂は部屋の中に入ってくると、じっと私の顔を見てきた。

「な、何?」
「いや、寝癖が」
「うぅ、どうせ変なことになってますよ~だ。仕方ないじゃん。雨だし」
「ううん、何か可愛い!」
「……たまに憂の感性を疑うよ」

何で爆発した頭を見られて可愛いって言われなきゃならんのだ。

「あ、これお見舞いだよ」

憂はそう言ってベッドに腰かけると、手に持っていた袋からりんごゼリーを取り出す。

「熱あるって言ってたからこういうのがいいかなって」
「おおぉ、憂大明神様! ありがたや~」
「もう、大袈裟」

憂は微笑む。

「……ふふ、確かに大丈夫そう。明日は来れそうだね」
「だいじょぶ、だいじょぶ」

私も安心させるためにピースで返す。

「梓ちゃんも心配してたよ。遅くなるかもだけど、部活が終わってから来るって言ってた」

梓。

いきなり出てきたその人物名に、私は動揺する。
私の反応が鈍ったの見て、憂は「あっ……」と小さく声をあげる。

「純ちゃんも聞いたんだよね……? その、お姉ちゃんと梓ちゃんのこと」
「うん。聞いたよ」
「梓ちゃん、純ちゃんがわかってくれたこと、すごく喜んでたよ」
「……そっか」

心が痛かった。

梓が喜んでいるというのならそれでいい。頭でそう思いはしても、心の痛みまではどうにもならない。
体調が万全でないことも相まって、私の心はなんだかひどく弱ってしまっていた。
少しの刺激でも、十分にダメージとなる。

だからだろう。

「……憂はさ、失恋したことある?」

思わず、憂にそんなことを訊いてしまったのは。

突然の問いに憂は目を見開いて戸惑った様子を見せる。

「え、えと、ない、けど。急に、どうしたの?」

心配そうに私を覗き込む憂の大きな瞳。やっぱり似ている。あの人に似ている。

桜が丘高校三年生。
軽音部メインギター。
いつもにこにこ笑顔を振りまく、明るくかわいい人。
普段はだらけていて、どこか抜けている天然さん。
だけど、ここぞという時はしっかり決める。
本人の知らないところで、澪先輩ほどではないにしろ後輩からの人気も高い、年下キラー。

そして、梓の恋人になった人。
平沢唯先輩。

見ているのが辛くなって、目を逸らす。
その辛さから逃れたくて、私は口を開いた。
何か話せば、言葉にすれば、楽になれるかもしれないと思って。

「私、最近失恋したんだ」
「……え」

隣で憂が肩を強張らせた。顔は見ていないからわからないけど、驚愕の表情をしているに違いない。そんな気配だ。

「失恋ってさ、恋を失うって書くじゃん。変だって思ってたんだ。だって失っちゃうんだよ? ずっと一人の人のことが好きなのに、その人に恋しているのに、その気持ちを簡単に失うなんて、そんなことあるわけないって」

私は言葉を続ける。

「でも、失恋してみてわかったよ。失っちゃうのは恋そのものじゃなくて、恋の存在理由なんだね」
「存在理由?」
「うん。なんていうか、上手く言葉にできないんだけど、恋は恋のままじゃいられないっていうか。恋っていうのは次のステップに進むためにある過程で、その道が閉ざされちゃったら、もう存る意味はないんだなぁと」

そう、在る意味はもう無くなった。失った。だけど。

「だけど、さ。在る意味はなくても、でもまだ在るんだよね。恋する気持ちが。好きって気持ちが。それが、ね、もう、や、っかいで」

見慣れた部屋の風景が滲んだ。あれ、もう、なんで泣いてるの。昨日の夜、十分に泣いたでしょ。いきなり語りだして泣きだして、憂を困らせるだけじゃないか。
そう思っても、眼球を押し上げて零れ出てくる涙は止まらない。

「……そう、だったんだ」

ふわり、と温かさに体を包まれた。
憂に抱きしめられていた。
柔らかい髪が頬に触れる。優しい芳香がする。温かくて、気持ち良かった。
ふと、きっと唯先輩に抱きしめられてもこんな感じなんだろうな、と思った。しょっちゅう抱きつかれているという梓が落ちるのも仕方がないかも、なんて。

「純ちゃん、梓ちゃんのこと好きだったんだね」

ま、今の会話の流れからすればバレちゃうよね。別にそれでもいいと思って話したわけだから構わないけど。

「ごめんね」

突然、憂に謝られた。全く、訳がわからない。

「何で、憂が謝るの?」
「ちゃんと気づいてあげられなくて」

……ああ、なるほど。そういうことか。でも、それは謝ることじゃない。

「憂は梓とお姉さんのことで手一杯だったんでしょ」

詳しいことは知らないけど、多分、あの二人が付き合いだしたのには憂も一枚噛んでいるのだろう。
純粋に大切な人達の幸せを願える憂だから、色々手伝ったりしていたんじゃないだろうか。
もし、その最中で私の梓への想いにこの優しい子が気づいていたらきっと葛藤させてしまった。だから、これでよかったんだ。

「ううん、そんなの関係ない。ほんとに、ごめん」

それでも、憂は頑なに自分に非があったと言う。その声は泣き声になっていた。
……はぁ。もう、どこまで優しいんだ。この女の子は。
私はぐっと憂を抱き寄せるように、その背中に腕を回した。

「私って結構惚れっぽい女かもしれない」
「へ?」
「何でもないよ。じゃあさ、今度のお休み、遊びに行こう。もちろん梓も誘って。そんときに何か奢ってくれたらチャラにしてあげる」
「じゅ、純ちゃん」
「だからもう、ごめんなんて言わないで」

憂は何にも悪くないんだから。悪いのは、私。悠長に構えて、何も行動を起こそうとしなかった私。
恋を恋のままで終わらせてしまった私が悪いんだ。

「これ以上言われるとさ、私ももっと辛くなってくるから」
「……うん。ごめん」
「だから、もうごめんはナシだって」

私は少し憂から離れると、苦笑してその頭を撫でる。

「あ、そうだ。もう一つお願いがあるんだった」
「ん? 何?」
「今日提出だった課題の答え教えて下さい! 病欠してたって言えば明日でも受け付けてくれるだろうし」
「……も~、病人さんだから特別サービスだけど、ちゃんと自分でやらなきゃ駄目だよ~?」

瞳に涙を浮かべたまま憂は笑った。私もえへへと笑う。

「やっぱり純ちゃんは笑ってる顔が一番素敵だね」
「また臆面もなくさらっと恥ずかしいことを……。憂だって笑顔が一番だよ?」
「……あはは、言われると恥ずかしいかも」
「自分で言っておきながら」

私達は笑いあった。
心の痛みが、和らいだような気がした。

  ◇

憂に教えてもらいながら課題を片付けていると、チャイムの音がした。
またもやの来訪者に母親が対応する。聞こえてきた「お邪魔します」という声は梓のものだった。

「あれ、梓ちゃん早くない? 普通ならちょうど今ぐらいに部活が終わると思うんだけど」
「そういえば、そうだね」

そんな会話を交わした途端、携帯の着信音が鳴った。私の物ではない。ということは。

「あ、お姉ちゃんからメールだ」

梓が階段を上ってくる足音が聞こえる。

くすっと憂が笑みを零した。

「何、どうしたの」

その笑みのまま、憂は私にそのメールを見せてくる。

『from お姉ちゃん 何だかあずにゃんが友達を心配してそわそわしているので、先に帰らせたよ~。無事にそっちに到着したら連絡ちょうだい』

こんこん、と控えめなノックがあった。「どうぞ」と私は言う。

開いた扉から、部屋に入ってきたのは。

髪が綺麗で。
ちっちゃくて。
ギターがすごく上手くて。
何事にも一所懸命、努力家で。
なんだかんだいって優しくて。
とても可愛い。

そんな、私の親友。

「早かったね」
「え、えっと。あのね、今日は何だか先輩達に用事があったらしくて、それで少し早めに練習が終わったから、うん。別に、純が心配で早く来たってわけじゃ……って、な、何でそんなに二人ともにやにやしてるの?」

この素直じゃない猫ちゃんを、さて、どう弄ってあげたものかな。

今は何も考えないでおこう。友達の関係を楽しもう。
まだ、心に燻ぶる恋は私を痛めつけてくる。
でも、恋をして、失恋して、私は強くなれたんじゃないかと思う。それは、気のせいだと言われれば、そうかもと頷くしかない程度の曖昧な感覚だけど。
それでも、そう思うことが大事なんだ。
きっと次の恋は成就させてみせる。

こうして、私の淡い恋は終わりを告げた。




というわけで「純ちゃんは実はあずにゃんのことが好きだと思うよっ!」SSは完結。プロット段階ではもうちょっと違うお話になる予定でしたが、気づけばこんなんになってました。
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COMMENT

No title
お久しぶりです!
ていうか、また最後の方の憂の登場で泣きそうになりました・・・
純ちゃん良い子ですねぇ・・・
潔く・・・は私はむりですねw
ではっ また来ます!
2010/07/10(土) 17:42:13 | URL | 新 #- [Edit

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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

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