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SS 大人になるということ

2010.06.15 *Tue*
※唯梓
※けいおん!!十話ネタ込み
※あんまり百合百合してません
※梓視点



『大人になるということ』

暑い。
私は教室の開かれた窓から、澄み渡った蒼い空を見る。どこまでも快晴だ。さんさんと輝く太陽は、天頂から少し傾き始めている。中庭にできた蜃気楼は、まるで高い高い建造物であるかのようだった。
例年より少し早めの梅雨明け宣言をテレビで聞いたのはほんの二、三日前のこと。まるで計ったかのように、その次の日から油蝉が鳴き出した。
夏が本番を迎えようとしている。
乾いた、熱い風が私の顔を撫でた。

「梓、帰ろ~」

後ろから急にかけられた声に、私は振り返る。そこには親友の鈴木純と平沢憂の姿があった。
期末試験が終了して、学校はすでに夏休み前の短縮授業の時期に入っている。午前中の授業だけで、今日の学校はもう終わり。
だから帰ってしまってもいいのだけど。

「えっと、ごめん。私、ちょっと音楽室に寄っていくよ」

私はその申し出を断った。

「あれ、梓ちゃん、さっき今日の部活は無くなった言ってなかった?」

憂が不思議そうに首を傾けた。そう、さっきの休み時間に我らが軽音部部長である律先輩から、本日の練習は中止、というメールが回ってきたのだ。
何でも、律先輩と澪先輩に用事があるそうで。まぁ、先輩が中止と決めたのだったら仕方がない。

「そうなんだけどね。ちょっと自主練をしていこうかなって」

でも、私個人としては練習がしたかった。

「うへぇ。梓、やっぱ真面目。……そういうところが私との実力差になるんだろなぁ。私とか、ジャズ研今日休みだって聞いてめっちゃ喜んでたのに」
「純はもっと練習しなよ……」

怠惰なことを言う親友にじとっとした目線を向けてから、私は二人に別れを告げて音楽室へと向かった。

練習がしたいってのは、真面目だからというより今のモチベーションの問題だと思う。
この前、私達は昔の桜が丘高校軽音部のバンド『DEATH DEVIL』の演奏を聞く機会があった。
そのレベルの違いに、ただただ圧倒されるばかりだった。さわ子先生、のりみさん、それに他の二人も本当に上手かった。何より、バンドメンバーだけじゃなく会場全体を包み込んでしまうような、その一体感が、迫力がすごかった。

私達と、あの人達の違いは何なのだろう。

当然、積み重ねてきた練習量が違う。それ故、技術が違う。そもそもの音楽性が違う。それはよくわかってる。
でも、本当にそれだけ?
あの人達の音楽には、そんな目に見え、耳に聞こえるような表立ったものではない『何か』があった。
この『何か』は、実は今までにも感じたことがある。それは、両親に連れられてプロのジャズバンドの演奏を聞きに行ったときのことだ。
素晴らしい演奏の興奮の中で、どうやったらあんな音が出せるのかと不思議に思った。その後、必死で練習してマネしてみようとしても、全然同じ音は出なかった。
単なる練習不足だろう。そのときは、そう片づけたのだけど。
でもそれだけじゃない、と今の私は思う。

音楽室まで上がる階段。その手すりにはウサギと亀のお話を模した置物が置かれている。
私は何となしに、亀の置物にそっと触れた。
いつも、この亀からある人物を連想する。……亀から、なんてちょっと失礼なのかもしれないけど。
でも、ゆっくりのろのろまったり、それでもしっかりと上を目指して歩いて行くその姿勢がそっくりなのだ。
いつも笑顔で、明るくて、みんなに元気をくれる先輩。あの人は、この前の演奏を聞いて何を思ったんだろう。
そんなことに思いを馳せながら、階段を上って音楽室の扉の前に立った、ちょうどそのとき。
部屋の中から聞き慣れたギターの音が響いてきた。
思わず、くすりと笑みが零れてしまう。
何だ、先輩も来てたんだ。
私は奏でられるその音に耳を澄ませる。
『ふでペン~ボールペン~』
私が去年の夏合宿のときにあの人と練習した曲、そしてつい先日、演芸大会でアレンジバージョンを披露した曲。
上手くなったな、と思う。
後輩が偉そうに、と自分でも思うが、それでも純粋に上手くなったと思う。
ゆっくりのろのろまったり、それでもしっかりと上を目指して。この人は一体どこに行きつくのだろう。
見てみたい。見ていたい。そんなよくわからない欲求が私の中に渦巻いている。

知りたい。知らなきゃいけない。もっと、もっと。

ふいに、音が止んだ。
私は訝しむ。
まだ、曲は終わっていない。区切りの良いフレーズでもない。別にミスをしたわけじゃない。それは、本当にふいにだった。
ドアノブを捻って、音楽室へと入る。室内は窓を全開にしているおかげか、それほど暑くない。
中にいたのは当然私が思い描いていた通りの人物。いつものソファに座って、ギターのギー太を構えている。
その人、平沢唯先輩は私を見ると少し驚いたような表情になって、でもすぐにいつものふにゃっとした笑みを浮かべた。

「あずにゃんも来たんだ~」
「はい、まぁ。唯先輩だけですか? 律先輩と澪先輩は聞いてましたけど、ムギ先輩は?」
「何かね、あの二人だけじゃなくてムギちゃんもお家の用事なんだって。私一人が暇になっちゃったから、ちょっと自主練でもしていこうかなと」
「そうなんですか。ふふ、唯先輩が自主練習だなんて、珍しいですね」
「ひどいっ。私だってやるときはやってるんだよぅ」

唯先輩はぷくっとその頬を膨らませた。ころころと変わるその顔が百面相のようで、おもしろい。
私は荷物を置いて、唯先輩の傍らに腰を下ろした。

「何で、止めちゃったんですか?」
「はぇ?」

率直に訊いてみる。
しかし、その質問の意味がわからなかったのか、唯先輩は大きな瞳をきょとんとさせた。

「えっと、さっきまでふでペン弾いてたじゃないですか」
「ああ、そういうこと」

聞かれてんだぁ。唯先輩はえへへ、と照れるように笑ってからその視線を巡らせる。宙のある一点に定められて、少し目が細まった。

「う~ん、とね、全然違うなぁって」
「え?」

今度は私が訊き返す番だった。

「違うって、一体何がですか?」
「あれだよ、ほら」

唯先輩は視線を空中に向けたまま、指をくるくると回した。

「この前の、さわちゃんとかのりみさん達の演奏と」
「……ああ」

それは、さっきまで私が考えていたこと。私がここに来た理由。唯先輩も同じことを思っていたんだ。
私達と、あの人達の違い。

「唯先輩は、あの人達と私達、何が違うと思いました? あの、技術とかそういうのは置いておいて」

私は思わずそんな質問をしていた。
唯先輩は、どう思ってるんだろう。何で、あんなにも音が違うのか。私が感じた『何か』は何だったのか。
一瞬、唯先輩は黙りこくる。
まぁ、いきなりこんなことを言われても困るよね。私だって、何が違うのかわからないし、そもそも明確な答えがあるようなものでもない。
私が諦めて、別の話題を振らんと口を開こうとしたとき。

「大人、だからかな」

ぽつり、唯先輩がそんなことを呟いた。返答があったのだと気づくのに若干の時間を要した。

「……おとな?」
「うん」

唯先輩は、両腕をまっすぐ伸ばした。まるで何かを掴もうとしているような、掴みあぐねているような、そんな仕草だった。

「私と違って、さわちゃんは、のりみさんは大人だから。だから、あんな演奏ができるのかなって」

……なるほど、と思った。
無茶苦茶な理論ではある。
大人だから心に響く良い演奏ができる。子供だから幼稚な演奏しかできない。そんなわけ、ない。
音楽は、年齢で人を選んだりはしない。
だけど。
今の唯先輩の言葉を聞いて、すとんと腑に落ちる感覚があったのは確かだった。

「わかんないけどね。ていうか、ちゃんと大人になれるのかもわかんないし」

唯先輩の視線が私を捉えた。じっと見つめられる。その瞳には唯先輩らしからぬ感情が見て取れた。
それは、不安。

「ねぇ、あずにゃん。あずにゃんは大人になるってどういうことだと思う?」

大人になるって、どういうことだろう。
二十歳になることが、大人? 自立して、自分でお金を稼ぐことが大人? 自分以外の誰かを愛することが大人?
そこにはちゃんとした定義なんてないと思う。
だから、今から私が話すことは単に普段私が何となく思っていること。だからこそ、唯先輩が言った『大人』という言葉に、私達とあの人達の演奏の違いの訳を見いだしたんだけど。
私は、私を見つめる瞳を見つめ返して、言葉を紡ぎ始める。

「知らないことを知るってことじゃないでしょうか」
「知らないことを知ること?」
「はい」

オウム返しされた言葉に、私は頷いた。

「私達は、知らないことが多過ぎると思うんです。えっと、上手く言えないんですけど、単なる技術的なこととか知識とかだけじゃなくて。例えば、躰に染み込む経験とか、感情とか、想いとか。それから、自分への理解とかも。そういうものが、さわ子先生やのりみさん達に比べて全然足りないっていうか」

あの人達の音楽には、厚みがあった。熱みがあった。
音楽は自己表現だ。自分という人間がそのまま、形になって表に現れる。
私達よりも、より色々な経験を、感情を、想いを知っている人の方が心を揺さぶる音を奏でられるに違いない。私が感じた『何か』をそう捉えれば、割とすんなり理解できる。

「もし、私達とあの人達の違いを大人と子供っていう風に考えるなら、それは知らないことの数の差なんですよ。きっと」

言い切って、私は少し頬が染まるのを感じた。わかったような気取ったことを言ってしまった。恥ずかしくて、ついと目を逸らす。

「ま、まぁ、勝手に私がそう思ってるだけですけどね」
「ううん、素敵な考えだと思う」
「へ? 素敵ですか?」

そうだろうか。そんなにロマンチックなことでもないと思うんだけど。

「うん。素敵だよ。だって。知らないってわくわくするじゃん」
「わくわく……」
「そう。今知らなくても、これから知っていけるって、そういうのなんかわくわくしない?」

何とも、唯先輩らしい発想だ。知らないことを知ること。確かに、それは胸躍ることなのかもしれない。

「そう考えれば、大人になるのも楽しみだね」
「そうですね。知らないことを知って、大人になって、それであんな演奏ができるのなら、いいですね」

私が同意した途端、柔らかな感覚が私を包み込んだ。唯先輩が抱きついてきたのだ。
さすがに、暑い。ここはまだマシな暑さとはいえ、この季節、人の体温が密着してくるのは耐え難い。
だから、すぐに離れてもらおうと思ったのだけれど。

「あずにゃん、ありがとう」

耳もとで囁かれた声が、今にも泣き出してしまいそうなものだったから私は動くことができなかった。

「唯先輩……?」

急な事に、狼狽することしかできない。

「あのね、不安だったんだ」

その声は震えを帯びていて、顔は見えないけど、もしかしたら本当に泣いているのかもしれない。

「もちろん、大人になったら大人になれるのかっていう不安もあったんだけど、それと同じくらい大人になったら今のことは忘れちゃうのかなって不安もあったの」

私を抱きしめる腕にぎゅっと力がこもった。

「だって、私は今が大好きなんだもん。絶対に忘れたくないよ。もし、忘れることが大人になることなんだったら、大人になんかならなくてもいい」

それは、無理だ。人は大人にならなきゃいけない。いつまで経っても子供でいることなんてできやしないんだ。
私が思ったことが聞こえたわけではないだろうけど、唯先輩はこくりと頷いた。

「でも、あずにゃんの言う通りなら、大人になることが知らないことを知ることなら、私は頑張って大人になるよ。何も知らないままなんて、嫌だから」

この世界には知らないことばっかりだ。
それは悪いこと。無知は恥ずべきこと。私はそう思ってたんだけど。
でも、知らないってことはわくわくすることだと唯先輩は言った。唯先輩の考えと私の考えを足せば、大人になるってことはすごく楽しいことな気がしてくる。

……いや。

本音を言えば、そう考えないとやっていられないだけだ。
唯先輩の不安はよくわかる。
私だって、今が、この日々が大好きだから。ずっとずっと続けばいいのにって、そんな叶わぬことを願ってしまうぐらい。
青春の日々は残酷だ。
何もかもが目まぐるしく変わってしまって、何もかもがそのままではいられない。留まることも、立ち止ることも許されない。
室内に風が吹きこんだ。
熱気を含んだ、夏の風。この熱気が緩やかになって涼しいと思うようになれば秋が来る。肌を刺すような冷たい痛みを伴えば冬がくる。
そして。
全てを包み込むような温かさを運んでくる頃には、先輩達は卒業してしまう。
本当に、残酷で無情な年代だ。
暑さにも構わず、私は唯先輩抱きしめ返した。先輩は一瞬驚いたように体を硬直させて、でもすぐに嬉しそうにすり寄ってくる。

「おぉ、あずにゃんが抱きしめ返してくれるなんて珍しい」
「……気まぐれですよ」

私の中に生まれた寂しさを埋めるように、私も唯先輩に体を寄せる。
多分、これは乗り越えなきゃいけないものなんだと思う。大人になるために知らなきゃいけないことなんだと思う。
きっとさわ子先生達は乗り越えてきたんだ。
それでいて、まだ繋がっている。高校生のときみたいにずっと一緒ではないにしても、あの人達は繋がっている。集まって演奏をすれば、あんなすごい音が出せるくらい深い絆で。
私達もそうなれるかな。そうなることを、みんなは望んでくれるかな。

今は、考え過ぎない方がいいのかもしれないとは思う。考えるなと言われても、つい考えてしまうようなことだけど。
でも、この大好きな今を、一瞬で終わってしまいそうな儚い今を、精一杯生きて色々なことを知って、それで大人になっていけばいい。
それが、青春だ。
そしてその中で大人になっても変わらない本当に大事な何かに出会えたら、それは幸せなことだと思う。

またわかったようなことを、と思って私は小さく息を吐いた。

「あ、私、今一つ大人に近づいたよ」
「はい?」
「うふふ、あずにゃんに抱きつかれる気持ち良さを知っちゃった。癖になりそう」
「今だけですから」
「ええ、そんなぁ」

私も今日、一つ大人になれた気がする。
いつもは天真爛漫な唯先輩が、大人になるってことに不安を抱えていたということを知った。これで一つ、知らないことが減った。その分だけ、私の奏でる音は人の心に近づけたかもしれない。
唯先輩の息遣いが耳に触れてくすぐったい。暑さもかなりのものになって汗ばんできたけど、それでも離れようとは思わなかった。
こうしていると、心が満たされて、寂しさも小さくなって、体の中が甘く疼く。
ずっとこうしていたい。

私はまだ知らない。
この気持ちの正体を。それを知った時、私はまた一つ大人になれるのかもしれなかった。
それもまた、青春だった。




唯の将来への不安が書きたかっただけ。まぁあずにゃんがもらってくれるので心配することは(ry
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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

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