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きみにとどけ

2010.04.23 *Fri*
というわけで、さっそくひとつ上げてみたいと思います。
唯梓の百合SSです。
何分、執筆したのが二カ月ほど前ということもあって内容がバレンタインものっていう……。
春だなんだと言っておきながら、なんという季節感の無さ!
ちなみに、二月ごろの受験生たちの動き方がよくわからなかったので、その辺は割と適当です。



『きみにとどけ』

私、平沢唯は今年のバレンタインデイ、初めて本命チョコというものを作ってしまいました。
本命でなくともチョコを自分で作ったことなんてない。でも、今年は何としても作りたい。
だって、大好きなあの子に私の想いを届けたいから。高校生活ももう終わりだもん。動かなきゃ、始まらない。その一心で始めたチョコレート作り。
妹の憂に一から教えてもらっての作業は休日丸一日を使ってしまった。受験勉強なんてそっちのけ。直前だってのに、これでいいのか、受験生。
……いいんだよ、きっと。恋は女の子にとって最優先事項なんです。
私は、大きめのハート型のチョコレートを冷蔵庫に入れて、憂と笑顔で顔を合わせた。
ちなみに、憂も作ってる。何でも、和ちゃんにあげるんだとか。

「うまくいくといいよね、お姉ちゃん!」
「うん!」

私は、心の中でそっと呟く。
『この想いが、あの子に、あずにゃんに届きますように』

   ◇

放課後の音楽室。私はん~と大きく背を伸ばした。はぁ、勉強しんどいよ~…。
私たち三年生はもうとっくに自由登校ということになっていて、学校に来る必要はない。でも、放課後になれば、相変わらず私たちは音楽室に集まるんだ。
特に理由もないのに放課後になったらわざわざ、家から、予備校から学校に来る私たちって、傍から見たら変かもしれない。
でも、それが私たち『放課後ティータイム』なのです。
まぁ、今日の私には学校に来る大きな目的があるわけだけど。家にいてもその『目的』のことを考えると、そわそわして落ち着かないから、思わず学校に来てしまった。
だから、一足お先に音楽室に来てお勉強をしていたというわけだ。
昨日一生懸命作ったチョコが入った通学鞄に目を落とす。はぁ、あずにゃん、よろこんでくれるかな。
あの子のことだから、表向きは素っ気ない態度をとるんだろうな。『せっかく作って頂いたんですし、ありがたく頂いておきます』って感じに。
それでも、きっと顔は真っ赤なんだ。ばればれな照れ隠しの態度を取りながら受け取ってくれるはずだ。そんなあずにゃんの様子がありありと思い描けて思わず顔が綻ぶ。
でも。
でも、私が受け取って欲しいのは、チョコレートだけじゃないんだ。大切なのはチョコレートに込めた、私の想いなんだ。
それを受けとってもらえるかどうかはわかんない。それを伝えなきゃ、受け取ってもらえなきゃ、意味がない。バレンタインデイって届けたい想いを伝える日だから。
だから、『お菓子メーカーの陰謀』だなんて言っちゃ、めっだよ。りっちゃん。
……あ~、ようやく集中出来てきたところだったのに、こんな気分じゃもう勉強は無理かな~。よし、せっかくだし、気分転換の意味を込めてギー太でも――
そう思って私が椅子を立ち上がろうと腰を浮かせたのと、音楽室の扉が開いたのは、ほとんど同時だった。

「――っと、あ、あれ、唯先輩? 何でこんなに早く」

どきんっと心臓が跳ねた。
愛らしい、ツインテールの小柄な女の子。私の軽音部の仲間で、後輩で、そして、想い人。中野梓ちゃん。
ああ、大変だ。昨日からずっとあずにゃんのことばっかり考えてたから、いざこう顔を合わすとなると、何か照れる。すっごい照れる。顔が熱くなってきた。
落ち着け、私。そう、ここは先輩らしくきりっとしなきゃ、きりっと。よし、表情を引き締めて――
ああ、やっぱ無理……。顔が真っ赤になってる気がする。だってこれから、本命チョコを渡すんだよ!? 緊張するに決まってるじゃん! 
う~、ライブの時とかでも緊張したことなんてなかったのにぃ。

「……先輩、何、中腰で百面相してるんですか」
「はっ!? 私、変な人になってた!?」
「大丈夫ですよ、元からですって」
「ひどい!」

意地悪気な笑みを浮かべるあずにゃん。こっちはこんなにも一途にあなたを想っているというのに!
あずにゃんが、まぁ当たり前だけど、いつもと変わらない態度をとってくれたおかげでちょっとは落ち着けた。そうだね、自然体、自然体。
そう思って、軽く息を吐いて、部屋に入ってきたあずにゃんを見た時、それに気がついた。

「え、えっと、あずにゃん。その手に持ってるまるでチョコレートのようなものは何かな?」
「あ、あ~、これは、その、あ、あはは。実はさっき三年生の方に呼び出されて、もらっちゃって」 

……三年生にもらった? あずにゃんが?
私はそれを、あずにゃんが大事そうに手に持っているチョコレートをじっと見る。
作った人の気持ちが見て取れる丁寧で、かわいらしいラッピングの四角い箱。
昨日一日それを作ろうと頑張った私だからこそわかる。
それは、まるで。

「……本命チョコ、みたいだね」
「本命、らしいです」

あっさりと。でも、顔を朱に染めながら、嬉しそうにあずにゃんは言った。

「吃驚しましたよ、朝、下駄箱をみたら手紙が入ってて――」

そっか。そうだよね。今日はバレンタインデイ。届けたい気持ちを届ける日。

「何かと思えば、放課後屋上に来てください、なんて書いてあるんですよ――」

そう、それは当然私だけじゃなくて。みんなにとってもそうなわけで。

「私は知らない方だったんですけどね。何でも、ライブの演奏を聞いてくれてて、それで一目惚れだって――」

ああ、でも。でも。悔しいな。本当は、私が、この子をこんな照れた、かわいい顔にしてみせるつもりだったのに。

「卒業する前に気持ちを伝えておきたかったなんて言われちゃって、って先輩? 話聞いてます?」
「っ! ごめん、聞いてるよ」
「ごめん、聞いてるよって何か矛盾してます」
「あぅ、ごめん……」

ああ、何かヤダ。あずにゃんが嬉しそうなのがヤダ。そんなことを思う自分がもっとヤダ。持ち前のポジティブシンキングも、すっかり弱ってる。

「どうしたんですか?」
「う、ううん、どうもしないよ?」

ヤダから、それは表に出さない。必死で押し隠す。この子は鋭いから、やっぱり変に思われちゃうかもだけど、それでもこの暗い感情は絶対に外に出したくない。なのに。

「そうですか……。あっ、それでですね。先輩はどう思います?」
「へ、何が?」
「だからですね」

次の彼女の一言は、私の心に大きすぎる衝撃を与えた。

「もし、私がその人と付き合うって言ったら、先輩はどう思いますか?」

目の前の少女が何を言っているのか、理解できなかった。理解したくなかった。でも、否応なしに、私の頭は考えを紡ぎ出す。
それは、つまり、そのつもりがある、ってこと? あずにゃんが、私の隣にいなくなるってこと? この想いの行き先が、なくなるってこと?

「あ、もしも、の話ですよ? というか、もうことわ――」
「……だ」
「え?」

ああ、もう、止まんないよ。

「そんなの、絶対にヤダ!!!」

私は鞄を手に取ると、逃げるように音楽室から飛び出してしまった。

   ◇

「う~…」

斜陽に照らされた教室で、私は机に突っ伏していた。
思わず、勢いだけで飛び出したきちゃったから、勉強道具だの、ギー太だのを完全に放置してきてしまったので帰るに帰れない。
でも、今どんな顔をしてあずにゃんの所に行けばいいのかもわからない。結局、校内をうろついて行きついた先は自分の教室だった。
はぁ。
深いため息が漏れる。絶対おかしく思われたよね。

「なんであんなこと言っちゃったんだろう……」

どうしてだろう。苦しい。さっきのあずにゃんのはにかむような笑顔を思い出すと、たまらなく苦しくなる。
おかしいな。あの子の笑顔、私は大好きなはずなんだけど。
……ううん。本当は気がついてる。似たような気持ちになったことは、何度もあるから。
例えば、澪ちゃんに憧れの眼差しを向けるあずにゃん。
例えば、りっちゃんに絡まれて、鬱陶しそうにしつつどこか楽しげなあずにゃん。
例えば、ムギちゃんの優雅なお嬢様然とした振舞いに見惚れるあずにゃん。
そんなあずにゃんを見るたびに、心のどこかにこのモヤモヤした感情が生まれた。
あずにゃんの全部が私に向けられたらいいのに、なんて思って、そんなことを思う自分に自己嫌悪を感じたのは一度や二度じゃない。
結局、嫉妬、なんだ。ヤダな。こんなの。
でも、好きだから。
あの子のことが、大好きだから。
しかも、今日は、今日こそはちゃんと気持ちを形にして、伝えようって意気込んでたのに。なのに、誰かに先を越されたなんて、悔しかった。
だから、抑えられなかったんだ。
私は、鞄からあずにゃんにあげるつもりだったチョコレートを取り出す。

「こんな私じゃ、これをあげる資格はないよね」

乱雑にラッピングのリボンをほどいて、包んである紙を取り払う。
もうヤケだった。作り方を教えてくれた憂には悪いけど、このチョコレートはなかったことにしよう。
それで、何食わぬ顔で音楽室に戻ろう。そろそろみんなも来るかもしれないし。
あずにゃんには適当なことを言ってはぐらかそう。多分嘘だってばれるけど、あずにゃんは優しいから無駄な詮索はしてこないはずだ。
そうだよ、こんなイヤな気持ちになるなら、なかったことにしてしまえばいいんだ。
チョコも、想いも。
私はハート型のチョコレートを真ん中からぱっきり半分に割って、一口で食べられるぐらいの大きさにする。
割れたチョコを見て、まるで今の私の心みたいなんて思いながら、投遣りにそれを口に放り込んだ。

「……あまひ」

甘い。甘い。とろける程に甘い。
チョコレートだから? まぁ、そりゃ、そうなんだけど。
でも、きっとそれだけじゃない。私が想いをたくさんたくさん込めて作ったから、こんなに甘いんだ。
これは私の想いの味。

「無理、だよ」

忘れることなんか、なかったことになんかできやしない。だって、こんなにも甘いのに。
この想いは何よりも大切なものなのに。
頬に一滴の涙がつたうのを感じた。
ごめんね、あずにゃん。こんな先輩で。あなたを独り占めしたいって。ずっとずっと隣に居てほしいなんて。そんなことばっかり考えてて。
迷惑かけちゃ駄目だとわかってても、でもあきらめることもできなくて。

「最悪だね、私」

何となしに、窓越しの夕焼け空を眺めながらぽつり呟く。
ここは私以外誰もいない放課後の教室。当然、その言葉に対する反応はない。
はずだった。

「何が、最悪、なん、ですか」

私が一番聞きたくて、でも今は一番聞きたくない大好きな声が、荒い息遣いを交えながら私の耳に届いた。
反射的に声の方、教室の入口に顔を向ける。

「あず、にゃん」
「もー、いきなり出ってちゃうんですから。学校中探し回りましたよ」

あずにゃんは膝に両手をついて、まるで体育の授業で短距離走を全力で走った後みたいな様子だった。
目と目が合う。と、あずにゃんはその目を大きく見開いた。
ああ、そうだよね。変なこと叫んで部屋を飛び出していった先輩が、見つけてみれば誰もいない教室で一人泣きそうな顔をしながらチョコレートを食べてたんだもん。
そりゃあ、びっくりするよ。
あずにゃんはゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。私も席から立ち上がった。大丈夫かな。上手く笑えるだろうか。

「ごめんね、あずにゃん。わざわざ探してもらっちゃって。みんなもう来た?」

あずにゃんは私の目の前まで来ると立ち止った。元々私の方が背が高いし、その上あずにゃんが俯き気味だから表情は伺えない。
さぁ、何を聞いてくる? できれば、何も聞かないでほしいんだけど。まだ、私の中で気持ちの整理ができてないから。
あずにゃんは数秒、何も言わないで黙っていたけど、キッと顔を上げると真っすぐ私の目を見て口を開いた。

「そのチョコ、誰にもらったんですか!?」
「へ?」

あずにゃんの口から放たれた言葉は、私の想定しないものだった。
そのチョコ。そのチョコって――

「えっと、これのこと?」
「……そうです」

私が手に持ってる、私があずにゃんのために作ったチョコレート、の半分。
う~んと、どう答えたものだろう。
本当の事を言う? これは私があずにゃんのために作ったチョコだよ、って。でも、じゃあ何で自分食べてるんだって話だし。
その話をするには、嫉妬のことも言わなきゃだし。
しかし、嘘を吐こうにも、こんな咄嗟に説得力のある嘘なんて思いつかない。これは参った。
じぃっと、妙に粘っこい視線があずにゃんから私に送られてきている。わわ、とりあえず何か適当に。

「こ、これはね、私が自分用に作ったんだ」
「嘘ですね」
「即否定!?」
「唯先輩が、自分用にとはいえどもお菓子を作るとは思えませんし」

あ、そういうこと言うんだ。さすがにちょっとむっときた。昨日一日、君のためにずっとお菓子作りしてたんだけどなぁ、あずにゃん。
それにしても、なぜだかあずにゃんは少し苛々している感じだ。腕を組んで、片足は落ち着きなくリズムを踏んでいる。

「嘘を吐いてまで隠したいんですね。一体、どこのどいつですか。唯先輩にチョコレートを渡して、あまつさえ泣かせる輩は」
「泣いてなんか」
「それも、嘘です」

あぅ、今日のあずにゃんはいつもに比べて三割増で強気な調子だ。本当に参った。
ずずい、ともう一歩。ほとんど零距離まであずにゃんは私に詰め寄ってきた。

「さぁ、言ってください。唯先輩。誰、誰なんですか!」
「もぅ、あずにゃん、しつこいよ!」

このままじゃ言い逃れできなくなっちゃう、という焦りから私が発した言葉、それは思いの他、棘のあるものになってしまった。

「あ……」

あずにゃんは、はっとした表情を浮かべた。そのまま、2,3歩後ろずさっていく。
私は何も言えなかった。というか、頭の中がぐちゃぐちゃで、どうすればいいのか、まともに判断できない。

「すいませんでした……」

あぁ、あずにゃんがすっごい悲しそうな顔をしてる。何か言わなきゃ。でも、何を?
くるりと彼女は振り返って、そのまま歩き出す。
行っちゃ駄目。待って。違うの。私はあずにゃんにそんな顔はさせたくないの。だって、だって笑ってるあなたが大好きだから。
ゆっくりと、その背中が遠ざかっていく。
なんで、こうなっちゃうんだろう。私は、あの子に想いを届けたいだけなのに。どうしてうまくいかないの?
難しい、と思う。気持ちや想いを伝えることは難しい。
じゃあ、今までの私は難しいことに直面したとき、どうしてきた?
答えは――

「待って、あずにゃん!」

ああ、良かった。ちゃんと声出たよ。
私の声に反応して、あずにゃんはぴたっと立ち止る。それから、少しだけ顔をこちらに向けた。

「あずにゃんは勘違いしてるよ」
「勘違い、ですか?」

あずにゃんの声は震えていて、今にも泣き出しそうな程だ。ごめんね。
私は軽く深呼吸をする。気持ちを整える。
私は、ちょっと悩み過ぎてるのかもしれない。こんなの私らしくない。もっと素直に、思った通りにやろう。
それが、私、平沢唯のスタンスだと思うから。

「このチョコは、人からもらったんじゃないよ。本当に自分で作ったの」
「だ、だから――」
「うん、自分に、ってのは嘘」

夕焼けに染まった教室は静寂に包まれている。この時間なら聞こえてきそうな、吹奏楽部や合唱部の音も聞こえてこない。
まるで、私と目の前の少女のためだけに用意されたかのような空間。私は一つ息を吸ってから、言葉を紡いだ。

「このチョコはね、私があずにゃんのために作ったの」
「……え?」

あずにゃんは、ぽかんと口を小さく開けて、呆けてしまった。何をいってるのか、わからないって顔だ。

「昨日一日かけてね、憂に教えてもらいながら作ったんだ。あずにゃんに私の作ったチョコを食べてほしかったから」

だって、私はあずにゃんが大好きだから。だから、頑張ったんだよ?
ようやく私の言葉の意味を理解したのか、あずにゃんの顔はだんだんと赤みを帯びっていく。
けど、ぶんぶんと頭を振ると、ぴっと人差し指で私が持つチョコレートを差した。

「じゃ、じゃ、じゃあ、何で、その、わ、私にくれるっていうそのチョコを自分で食べちゃってるんですか! おかしいでしょう!」

はぁ、やっぱり聞かれるよね。言いたくはない、けど。
素直にならなきゃ。それで嫌われても、仕方がない。

「ちょっとヤケになっちゃたから」
「ヤケ?」

不思議そうにあずにゃんは訊ね返してくる。

「うん。あずにゃんが本命チョコをもらったって聞いて、ね。だって、あずにゃん、すっごい嬉しそうだったんだもん」

その時の、あずにゃんの顔を思い浮かべる。やっぱり、胸がちくってした。

「しかもその後、付き合うのをどう思うか、なんて聞いてくるからさ。全然私の知らない人とあずにゃんが楽しそうにしてるのを想像しちゃったんだ」

だから、音楽室を飛び出した。その想像が、あまりにも私の心を動揺させたから。

「えと、それって、つまり」
「嫉妬してたの。それで、そんな自分が嫌で、こんな自分じゃあずにゃんにチョコは渡せないって思って、ヤケになっちゃった」

ううぅ、言ってしまった。言っちゃったよ。裏ではこんな事を思ってる人間ですって。こんな暗い気持ちを持ってるんだって。
どんな反応されるんだろ……。まともにあずにゃんの顔を見ることができない。
俯いて、ただあずにゃんの言葉を待つ。
ふと気がつくと、すぐ目の前に人の気配。と、同時に。
温かい感触が私を包んだ。

「あ、あずにゃん?」

あずにゃんが、私を抱きしめている。頭の理解が追いつかない。え? え? どういうこと?
あわあわして、どうしたらいいかわかんなくなっていると、あずにゃんは肩を小刻みに震わせだした。へ、あ、あずにゃん、もしかして泣いて――

「ふ、ふふ」

なかった。笑ってるみたいだ。

「ど、どしたの」
「だって、嫉妬してヤケになって、それで渡そうとしてたチョコ食べちゃうなんて」
「む~、どうせ変な子ですよ」

私が拗ねた口調でそういうと、あずにゃんは顔を上げた。

「確かに変ですけど、でもかわいいですよ」

その顔は真っ赤で、夕焼けに染まった教室でもはっきりとわかるほど、見事までに朱に染まっている。
まぁ、私だって人のことはいえない。顔が熱い。頭から湯気が出そうだ。だって、こんなにも間近で、あずにゃんと見つめあってるんだから。
しかも、かわいい、だなんて言われてしまった。
あずにゃんは、また私の肩に顔をうずめる。

「嬉しいです」

唐突にそんなことを言うもんだから、私は面食らった。

「な、何が?」
「嫉妬、してくれたことですよ」

そして、その回答に、またまた私は面食らった。
もしかして、あずにゃんは私のこの感情をちゃんと理解してないのかも。

「なんで? だって、私、下心いっぱいなんだよ? 独り占めしたいんだよ? 嫌われてもおかしくないくらい、あずにゃんの全部がほしいんだよ?」
「………」

あ、あれ、あずにゃんが黙ってしまった。……そうだよね。さすがに、ここまで言われたら普通は引いちゃうよね。
素直に気持ちをぶつけてみたはいいけど、もうちょっとオブラートに包んだ方が良かったなぁ。
なんて、後悔しているとようやくあずにゃんが口を開いた。

「せんぱぁい、それ、言ってて恥ずかしくないですか……。私、すごい恥ずかしいんですけど」

ん? 恥ずかしい?
まぁ、私の後ろ暗い気持ちを言ってしまったという意味では恥ずかしいけど、あずにゃんまで恥ずかしがる理由がわからない。
うーん? どゆこと?
密着していたあずにゃんが、すっと私から離れる。

「私だって、嫉妬したんですからね」
「な、何が?」
「その先輩が手に持ってるチョコレート、誰かが先輩にあげたものだって思ったときですよ」
「へ?」
「それを口にしている唯先輩を見て、そのチョコを渡した人のことを考えながら食べてるんだと思ったら、いてもたってもいられなくて。思わず、キツい口調になっちゃったんです」

 あずにゃんはそう言うと、一端顔を伏せた。

「……きっと先輩の比にならないくらいですよ、私の下心。だって、他の先輩たちと仲良くしてる唯先輩を見たって嫉妬しちゃうぐらいですもん。でも、私はそれでいいと思ってます。下心はあって当然なものなんですよ。だって――」

だって。そこで言葉を区切ると、あずにゃんはゆっくりと顔を上げた。

「だって、下心も『心』ですから」

その言葉に、がつん、と頭を打ち付けたような衝撃を受けた。
そっか。そうなんだ。
下心。あずにゃんを独り占めしたいって気持ちも、全部自分のものにしたいって気持ちも、私の心。私の想い。
チョコレートに込めた、届けたい私の想いの一部なんだ。

「まぁ、ある漫画の受け売りなんですけどね」

照れくさそうに言うあずにゃん。

「素敵な漫画だね」

私は、そんな彼女を見て笑う。彼女も、えへへ、と笑い返してくれた。
……あれ? 何か、引っかかる。ちょっと待って。さっき、あずにゃんは何て言った?
『私だって、嫉妬したんですからね』。誰に?
『他の先輩たちと仲良くしてる唯先輩を見たって嫉妬しちゃうぐらいですもん』。私、に?
どうして? そもそも、嫉妬って好きな人が他の人と仲良くしてたら感じるものだよね。うん、だから私はあずにゃんが本命チョコをもらったって聞いて嫉妬したんだ。
あれ、あれ? あずにゃんが嫉妬? 相手は、私? それじゃ、まるで――
あずにゃんは制服のポケットから何かを取り出した。
かわいらしい、ハート柄の模様が散りばめられた青い袋。彼女は、それを両手ですっと私に差し出してきた。

「チョコレート、受け取ってください、唯先輩」

呆然としながら、反射的にそれを受け取る。あずにゃんは、そんな私を見ながら、満面の笑みを咲かせてこう言った。

「好きです」

……嘘。だって、だって。

「あ、あずにゃん、本命チョコもらったって!」
「もらっただけじゃないですか」
「でも、嬉しそうだったし!」
「好意を持って頂けるってのは、そりゃ嬉しいですよ」
「その後、付き合ったらどう思うかって!」
「唯先輩が、女の子同士の恋愛についてどう思ってるか聞いてみたくて。どのみちもうお断りしましたし」

それは、現に私が女の子であるあずにゃんに恋をしている以上否定することはないけど、ってそうじゃなくて。
ああ、もう。どうして、こんな時に私の頭はうまく回ってくれないんだろう。
言葉が出てこない。ただ、嬉しくて。ひたすらに、幸せな気分で。泣いてしまいそう。
でも、まだ私にはやらなきゃ、言わなきゃいけないことがある。よし、行くぞ!

「あずにゃん!」
「は、はい」

私がいきなり大声を上げたからだろう、あずにゃんはびくっと肩を跳ねさせた。

「私も、私はあずにゃんのことが、大好き! これ、受け取ってください!」

私は、さっきからずっと手に持ってたチョコレートをあずにゃんに差し出す。届けるために。伝えるために。想いを言葉に、チョコに乗せて。

「……はい」

あずにゃんは、恥ずかしそうに、でも嬉しそうな笑顔で受け取ってくれた。
ああ、やっぱりこの笑顔は独り占めしてたい。私が本当に大好きな、彼女の笑顔。

「半分しかないですね」
「うぐ、ご、ごめん。食べちゃったから……」

今思えば、別になかったことにするにしても食べてしまう必要はなかった。ああ、ちゃんとしたのを渡したかった……。
また作ろっかなぁ。

「じゃあ、半分の代償として、これ、もらっちゃいますね」
「え? これって?」

あずにゃんがよくわからないことを言ったかと思うと、あっという間に、私の目と鼻の先にあずにゃんのかわいらしい顔が現れた。
え? え? 一体何が――
あずにゃんがくっとつま先立ちになる。6センチの私達の差はそれだけで埋まって。
私の口元をあずにゃんがぺろりと舐めた。
………………は、い? 今、あ、あずにゃん、舐めた。私の口を。これって。

「~~~~~っ!!!」
「ん、甘いですね」
「あ、あ、あずにゃん、何をいきなり……っ!」
「だって、唯先輩、ずっとそこにチョコレートつけてましたよ。せっかくだから、頂こうかと」

ニマニマとチェシャ猫のような笑みを浮かべてあずにゃんは言った。
って、チョコレートついてた? あれ、じゃあもしかして私、今までのやりとりをずっとそんな間抜けな状態でやってたの?
うわぁ、最悪……。

「な、何で言ってくれなかったの、あずにゃん!」
「いや、言うタイミングなかったですし。それに、唯先輩らしくてかわいかったですから」
「う、うぐ」

そ、そんなこと言われちゃ怒るに怒れないよ。
でも、でもだよ。
私はあずにゃんの肩をぐっと掴んで、自らに抱き寄せる。

「ファーストキスぐらい、もっとちゃんと心の準備をしてからさせて欲しかったよ」
「え、今のってキスにカウントしますか? 舐めただけでですよ?」
「……じゃあ、しないことにする。だから、あずにゃん」

私は、あずにゃんを見つめる。あずにゃんもしっかりと私を見つめ返してくる。今は、お互いの全部がお互いに向き合っている。
それが、とっても嬉しい。

「先輩。ずっと一緒にいてください」
「こちらこそ、お願いします」
「多分、すっごい嫉妬とか、わがままだとかしちゃうと思います」
「うん、それもお互い様だよ」
「大好きです、唯先輩」
「大好きだよ、あずにゃん」

黄昏の教室、長く伸びた影が一つに重なった。




ふぅ。
まだまだ修行中の身ですが、精一杯頑張っていい百合、ゆいあず小説を書いていけたらいいな、と思っております。

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Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

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