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SS どうしようもなく好きなのに 後編(4)

2010.05.21 *Fri*
「「いただきま~す」」
「どうぞ、召し上がれ」

平沢家の食卓に、まさか二日連続でつくことになるとはよもや思いもしなかった。
いつの間にか陽はとっくに落ちていて、辺りは真っ暗になっていた。……それに気がつかないほど何に没頭していたのかは訊かないでほしい。
連絡もしてないから、慌てて家に帰ろうとしたんだけど、憂は当たり前のように三人分の夕飯を用意してくれていた。本当に優しい子だ。

「ん~、今日も憂の料理は最高だねっ!」
「もう、褒めたっておかわりくらいしか出ないよ?」

唯先輩の絶賛に憂は嬉しそうに手をぱたぱたさせて答える。てか、唯先輩はほぼ毎日食べてるでしょ。もしかして、毎回このやり取りしてるのかな。

それにしても。

私はちらり、と唯先輩の横顔を見る。
唯先輩は、本当においしそうにテーブル上の食べ物を消費していく。
どうしてそんなに平然と振舞えるの!? 私なんかさっきから、その、さっきまで映像が脳内でフラッシュバックして、食べることに集中できないというのに……。
とか思ってたら、唯先輩がこっちを向いた。

「ね、あずにゃん。このからあげとかおいしいよねっ!」
「そそ、そ、そうですね、はい」

私、挙動不審。

「梓ちゃん、顔赤いよ? 大丈夫?」
「へっ!? あ、大丈夫大丈夫、ちょっと考え事してただけだから……」

憂は相変わらず鋭い。
ふぅ。
よし、せっかく作ってくれた夕飯をおいしく頂くためにも、ここは唯先輩を見習って私も平常心、平常心。
ほら、お味噌汁でも飲んで、落ち着いて――

「それにしても、長い事お部屋にいたね~」
「ごはっ、げほ、げほっ」

むせた。それはもう盛大に、むせた。そう言えば、昨日も憂の言葉にやられて紅茶を吹いた気がする。何だ、狙ってるのか。

「ど、どうしたの?」
「ヤ、ヤマシイコトナンテシテマセンヨ?」
「何でカタコト?」

嘘です。ヤマシイコトしてました。
まぁ、ちゃんとしたやり方なんて知らなかったから、やりたいことをやっただけだけど。今度、ちゃんと調べてこようかな、なんて思って、そんなことを考えている自分にまた赤面する。

「変な梓ちゃん」

ふふっと憂は笑った。うう、仰る通り。

「あずにゃん、口元にご飯粒ついてるよ~」
「へ?」

いきなり言われて、私は口に手をやる。どこだろ、あれ、ない。

「そこじゃなくて、ああ、いいや、じっとしてて」

取ってくれるのかな。その言葉に従って私はじっとする。
って、あの、唯先輩何で顔が近づいて――
ぺろり。
私の唇の端を、唯先輩の舌がなぞった。
へ? ちょ、今。

「~~~っっ! 何するんですか~っ!」
「えへへ、今さら恥ずかしがることでもないじゃない」

そりゃあ、さっきは唇どころじゃなくて口では言えないような色々な場所を舐められましたけども!
憂が! 憂がいるでしょう!
うう、変に勘繰られるようなこと言わないで下さいよ……。
憂の方を見やる。ほら、変な目でこっちを見て――

「仲直りできたみたいだね!」

なかった。満面の笑みだ。仲直りって。元から私達の仲がこんなのだったみたいじゃないか。

「うん、憂のおかげだよ! ありがとう」
「ううん、お姉ちゃんと梓ちゃんが頑張ったからだよ」

微笑みあう姉妹。それを見て、私はようやく気がついた。
……ああ、なるほど、そういうことだったんだ。
これは、後で憂にちゃんと訊かなきゃならない。私は胸の内に決意を秘める。
まぁその前に。
いくら憂だとはいえ、あんまり恥ずかしいことは人前でしないように唯先輩に注意しておかなきゃね。
これからのことも考えて。

  ◇

「って、思ってたらこれだもんなぁ……」

私は溜め息を吐いた。
夕飯を終えるや否や、唯先輩は「お腹いっぱいになったら眠くなっちゃった……」と言うと眠り始めてしまったのだ。
しかも、ごろんと転がった先には私のふともも。
俗に言う『膝枕』というヤツです。文句を言おうとしたんだけど、あっという間に寝てしまうんだもん。あなたはのび太くんですか。
まぁ、でも。
私はそっとそのふわふわの髪を撫でる。唯先輩はくすぐったそうに身をよじった。
昨日、眠れなかったって言ってたもんね。私のことを考えて。
そう思えば、怒る気にもなれない。

「お姉ちゃん、寝ちゃった?」

憂が台所から出てきた。

「うん。……ごめんね、二日連続で押しかけて片づけも手伝わなくて」
「いいよいいよ」

にこやかに憂は言ってくれた。

さて、憂には、訊かなきゃいけないことがある。

私はすぅっと息を吸う。
今から、訊くことは、言うことは、これからの私と憂、私と唯先輩の関係を占う上でとても重要なことだ。

「ねぇ、憂」
「何、梓ちゃん」
「憂は、知ってたの?」

何が、とは言わない。言わなくても彼女なら理解してくれるだろう。

「……うん。知ってたよ。どっちも、ね」

どっちも、という言葉に反応して私は憂の顔を見る。そこにはいつものにこにこ顔じゃなくて、真剣で真っすぐな瞳があった。
どっちも、とはつまり――

「唯先輩の気持ちも、それから、私の気持ちもってこと?」
「そうだよ」
「そっか」

それほど驚きはしなかった。ただ、憂には敵わないな、とだけ思った。まだ私と唯先輩が恋人同士になったとも伝えてないのに、全てを察しているようだった。
もしかしたら、ある程度のことは憂の筋書き通りだったのかもしれない。
憂は私の隣の腰掛ける。

「梓ちゃんの方は、多分、だったけど、お姉ちゃんからは直接聞いてたし」
「え? そ、そうなの?」
「うん。『私、あずにゃんのこと好きになっちゃったんだけど、どうしよう』って相談されたから」

そう言うと、憂はさっき私がやったみたいに唯先輩の頭を慈しむよう撫でる。
何というか、唯先輩の憂への全幅の信頼が感じられる話だ。私だったら、家族には余計に言えない。自分の好きな人が女の子だなんて。
いや、ここまでは想定の範囲内だ。さっきの唯先輩と憂の会話から、何となく憂は事情をわかっているんじゃないか、という気はしていたし。

「それじゃあ」

私が一番訊きたいのはここからだ。

「憂は、女の子同士の恋愛について、どう思う?」
「……それ、昨日私が梓ちゃんにしたやつだね」

くすり、と憂は笑った。

「梓ちゃんは、どう思うの?」

質問に質問で返されてしまった。それは、昨日と同じ質問。昨日は自身を偽ってただひたすらに当たり障りのない回答を心掛けた。
でも、今は違う。
ここは、偽る場面じゃない。

「私は、みんなに受け入れてほしいと思ってるよ。でも、それが難しいのもわかってるつもり。だって、普通じゃないもん。異常だもん。世間の人が見る目のことを考えると、正直怖い……」

大好きな人と、同じ気持ちだったという奇跡。
だけど、その奇跡は言ってしまえば好きな人も私と同じく異常だった、というだけだ。
世間から受け入れてもらえる、なんて奇跡まではきっと起こらない。

「でも、好きになっちゃったんでしょ?」

憂の言葉に、私は首を縦に振ることしかできない。
そう。でも好きになってしまったんだ。どうしようもなく、好きなんだ。

「だったら、胸を張ろうよ」

憂は笑って言った。勇気を与えてくれるような、そんな笑顔だった。

「……憂は、気持ち悪いとか思わない?」
「全然。だって、大好きな親友と大好きなお姉ちゃんが好き合ってるなんて、こんな素敵なこと滅多にないでしょ?」

……ねぇ、憂。私、泣いてもいいかな。
私は衝動的に憂に両腕を回した。肩に顔を埋める。憂の優しさが嬉し過ぎて、どうにかなってしまいそうだ。
憂のあたたかい掌が、私の頭を優しく撫でてくれる。

「私ね、思うの」

憂がゆっくり語りだす。まるで、幼子をあやすような優しい声。

「人にはね、人のことを好きになるスイッチがあるんだよ」
「スイッチ?」
「そう、スイッチ。でね、それが一度入っちゃうと、もう止まらないの。頭の中がその人のことが好きって気持ちだけになって、他のことなんか考えられなくて。相手が、男の人だとか女の人だとかの境目もなくなっちゃう」
「それって、つまり昨日憂が言ってた――?」
「うん、好きな人がたまたま女の人だった、ってこと。一番大切なのは、その気持ちを大事にすることだと思う」

気持ちを、大事にすること。

「世間からの目とか、いずれ迎える難関とか、不安になることはいっぱいあるだろうけど。でも、『好き』って気持ちを大事にしてあげて? 自分のだけじゃなくて、相手の分も」

言葉で言うのは簡単だけど、それはとても難しいこと。嫌悪の、嘲弄の目に晒されても、それでも負けないほど強く、強くならなきゃいけない。

「大丈夫だよ。二人だけで戦わせたりなんか、絶対にしないから」
「え……?」

まるで私の心を見透かしたかのような言葉に、私は思わず顔をあげて憂を凝視してしまった。

「私達がついてるから」
「私『達』?」
「うん。私だけじゃない。和ちゃんも、律さんも、澪さんも、紬さんも、二人の味方だよ」

私は唖然とした。

「……先輩達にも、唯先輩は相談したの?」
「ううん。お姉ちゃんは私にしか相談してなかったみたい」

憂は首を横に振る。
でも、知っていた。気づいていた。

昨日私が飛び出していった後、唯先輩はショックで倒れ込んでしまった。
みんなが唯先輩を、私を、すごく心配してくれていたらしい。
そこで、憂は思った。
もう、隠しておけない。先輩達にも、唯先輩のことを話さなくちゃいけない。
だから、唯先輩を寝室に運んでから、憂はみんなに言ったのだ。

「お姉ちゃんは、梓ちゃんのことが好きなんです」

その『好き』の意味も、しっかりと説明した。決して、友達や後輩に抱く好きではないこと。もっともっと、深いものであること。
それから、多分私も唯先輩のことを『好き』なんだと思う、ということも。
憂は、姉と親友の居ない場で、言ってしまえば二人の秘密を暴露することになってしまった。
怖かった、と憂は言った。下手をすれば、姉の、親友の居場所がなくなってしまうかもしれない。二人から大好きな音楽を奪うことになるかもしれない。
でも、先輩達は。

「……やっぱ、そっか」と律先輩はにかっと笑ったという。
「まぁ、あの二人見てればわかるよ」と澪先輩はやれやれと肩をすくめて言ったという。
「すごく、お似合いだものね」とムギ先輩はふんわりとした笑みを浮かべたという。
「唯が梓ちゃんのことを好きなんてのは、結構前からわかってたけど」と和先輩は優しい声色で言ったという。

そして、口を揃えて言ってくれた。
「私達も二人のことを応援する」と。

ああ、そうか。
今日、部活がなかったのも。律先輩の電話の意味も。
そういうことだったんだ。

「難しく考えなくてもいいんだよ」

今度は憂から、私を抱きしめてくる。

「どうしても、自分達を悪く見る人達ばかりに目がいっちゃうかもしれないけど、でもね、ちゃんといるから。二人の味方は、ちゃんといるから」

みんな、二人のことが大好きだから。

涙が一筋、頬を伝った。
私は、受け入れられないことしか考えていなかった。みんなに拒絶されることしか考えていなかった。
でも、現実はどうだ? 
唯先輩は私の気持ちを受け入れてくれた。憂が、先輩達が、私を後押ししてくれた。応援してくれた。
見えていないことが多過ぎた。
世界は思っていたより私に寛容だった。

「梓ちゃんはきっと大丈夫だよ。梓ちゃんの『好き』は強いから」
「何で、そう思うの?」
「だってお昼休みに、私に面と向かって言ってくれたでしょ? お姉ちゃんのこと『好き』って」

ああ、なるほど、「梓ちゃんを信じてよかった」という言葉は、そういう意味だったのか。

「……そうだね。それに、大好きなみんなから応援してもらって、負けるわけにはいかないよね」

無駄に負けず嫌いでよかったと思う。ここまで支えてもらって、それでいて悪意の目に屈するなんて癪にも程がある。
絶対、絶対に負けられない。負けたくない。
私も憂を抱きしめ返した。

「ありがとう、憂」

心の底から、感謝の言葉を述べる。今までも、そしてこれからも、きっとこの子には頭が上がらないだろうな。
先輩達にも明日、お詫びと感謝の言葉を伝えよう。
支えてくれる人達に、精一杯の『ありがとう』を。

「ううん、お姉ちゃんのこと、よろしくね?」
「あはは、娘をお嫁さんに出すお母さんみたい」
「う~ん、心境は近いかも」

私達は顔を見合わせて笑う。

「ぅ、ん、はれ、二人とも、何笑ってるの?」

私の真下から声がした。
どうやら唯先輩が目を覚ましてしまったらしい。眠そうに目をごしごしと擦る。
けど、私と憂の様子を見るや、元々大きいその目をさらに大きく開いて私達に迫ってきた。

「って、ああ! 私が寝てる間に二人でいちゃいちゃしてたの!?」
「へ、いちゃいちゃって……」
「抱き合ったりしちゃって!」
「あ、ああ、これは」
「私もいちゃいちゃするー!

そう言うと、唯先輩は私と憂に思いっきり抱きついて、そのまま床に倒れ込んだ。

「ちょっと、唯先輩! 吃驚するでしょっ」
「お姉ちゃん、苦しいよ~」
「えへへー」

もう、ほんと唯先輩は。

好き。大好き。
もう、隠さない。逃げない。ちゃんと向き合おう。
みんなのために、唯先輩のために、私のために。
幸せなこれからのために。

私はこの『好き』を一生大事にしようと、心に誓った。

  ◇

「それじゃあ、そろそろ帰りますね」
「ええ、泊ってきなよ~」
「いやいや、いきなり泊りとか親が心配します。それに明日も普通に学校でしょ」
「ぶ~、あずにゃんのいけずぅ」


私はずっと悩んでいた。こんな歪で異常な想い、なくなってしまえばいいと思っていた。
どうにかしなきゃって思いながら、前にも後ろにも進む勇気がなかった。


「あ、そうだ。梓ちゃん、ちょっと待ってて…………はいこれ」
「え、絆創膏?」
「お母さんとか心配させたくないなら、首筋のそのキスマーク、隠しておいたほうがいいよ♪」
「キ、キ、キスマーク!?!?」


ねぇ、私。ずっと悩んでいた私。心配しなくていいよ。


「あ、ごめんね、あずにゃん。嬉しくてついつけちゃった」
「何ですかその、(・ω<)って顔は……」


ちゃんと気がつくから。私が本当に大切にするべきものに。私は独りじゃないってことに。


「梓ちゃん、お姉ちゃんとお幸せにね!」
「……うん。絶対、幸せになるから」


ちゃんと届けられるから。


「おお、あずにゃんが素直だ」
「悪かったですね。普段素直じゃなくて」


大切な。


「この際言っときますけど、私は唯先輩のことが世界で一番好きなんですよ」


大切な。


「えへ、知ってるよ」


大切な、想いを。


「大好きです、唯先輩」
「私も、あずにゃんのこと、大好き!」


(おわり)




これで三部作SSは終了です。
読んでくださった方に最大限の感謝を!


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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

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