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SS どうしようもなく好きなのに 後編(3)

2010.05.21 *Fri*
そのとき。

――くんっと腕を引っ張られた。

「へっ?」

突然に受けたその衝撃に耐えられず、私の体はベッドへと舞い戻る。
再度、甘い香りが鼻腔をくすぐる。あたたかいものが私を逃がさないように包み込む。
唯先輩に抱きしめられているのだ、と気がつくのに、そう時間はかからなかった。

「行っちゃヤダよ」

呟くような小さな声で、でも確かに唯先輩はそう言った。

「ヤダ、さよならなんて言わないで」
「何、言ってるんですか」

意味がわからない。自分から私を突き離しておいて、それでいて傍にいろ、と? 唯先輩のことが好きな中野梓は気持ち悪いけど、後輩としてのあずにゃんは必要だから?
唯先輩が我がままなのは知ってることだけど、そこまで傲慢な人だっただろうか。
私は力任せにその腕から抜け出す。

「唯先輩、言いましたよね。私のこと気持ち悪いって。女の子が好きな私を、おかしいって。じゃあ、もう私には構わないで――」

「言ってないよっ!」

至近距離で、耳をつんざくほどの大声で、唯先輩は叫んだ。
耳がキーンとなる。軽くツバが飛んできた。
いや、そんなことより。唯先輩が放った言葉の意味を考える。
言ってない? ええと、それって、つまり――

「……は?」

どういうこと? 考えてもわからなかった。いや、だって私は確かに聞いたじゃないか。「女の子同士で、おかしいよ」「こんなの気持ち悪いもん」。衝撃的過ぎて、嫌な感じに耳にこびりついている。
それなのに。

「あずにゃんのこと気持ち悪いなんて、おかしいなんて、言ってないし、思ってもないもん」

唯先輩はそう言う。一瞬、嘘を吐いているのかと思った。でも、目を見ればわかる。唯先輩は嘘が上手くないんだから。
本気だ。唯先輩は本気でそう言っている。
え、え、何がどうなってるの?

「だ、だって私が部屋に入ってきたとき言ったじゃないですか、女の子同士おかしいって、気持ち悪いって」
「え?」

唯先輩はきょとんとした顔になった、と思うと「あっ!」と声をあげ、首を横に振る。

「違うの! あれはあずにゃんに言ったんじゃないの!」

そっか、あずにゃんはあれを自分が言われたと思っちゃったのか。だからあんなことを――。一人納得したようにぶつぶつと言う唯先輩。
私はさっぱりわからない。

「ど、どういうことですか? 私にじゃないって、あの場には私しか――」

と口にして。一つの事実に気がついた。私しか居なかった? 
そんなわけがない。そう、もう一人居たんだ。
それは、それは他でもない。 

「あれは、自分に対しての言葉だよ」

そう、言葉を発した張本人、唯先輩。

そう、なんだ。私に言ったんじゃ、ないんだ。
良かった、本当に、良かった。唯先輩に気持ち悪いって思われてるんじゃないんだ。
安心のあまり、全身の力が抜ける。
良かったぁ~。何だか、泣いちゃいそうだ。
そっか、唯先輩、自分に言ってたんだ。そっか、そっ――

「自分に、対して?」

あの衝撃的な言葉が私に向けられたものでないということがわかって安堵してしまったから、重要な事を見落としそうになってしまった。

ちょっと待って。

あの言葉が私に、じゃなくて唯先輩が自身に言っていたのだとすると。
唯先輩が言った、女の子が好きでおかしいのは唯先輩自身のことで、気持ち悪いってのも唯先輩自身のこと。

「梓ちゃん」

私の中で答えが今にもはじき出されようというとき、唯先輩が慣れ親しんだニックネームでなく、私の名前をちゃんと呼んだ。

「は、はい」
「私も一つ、ううん二つ訊いていいかな?」
「ど、どうぞ」
「じゃあ、一個目。昨日、私がキスしたとき何で泣きだしたの?」

あまりにもじっと唯先輩が私を見てくるものだから、私は気圧されてしまう。声が上手く出ない。

「私ね、昨日あずにゃんが泣いてるのを見てから、ずっと後悔してたの。苦しかったの。あずにゃんのこと傷つけちゃったって」

本当に、苦しそうに、悲しそうに唯先輩は言う。

「嫌だったんだ、気持ち悪く思われたんだって思って。それで、落ち込んじゃった。それでね、昨日一晩中考えて決めたの」

一晩中。なるほど、目の下にクマが出来ていたのはそういうわけなのか。
唯先輩は言葉を一度区切って、目を閉じる。
それから、口を開いた。

「もう、あずにゃんの近くには行かない。距離を置こう」
「嫌ですよ、そんなの」

自然と、想いが口をついて出てきた。唯先輩はそんな私を見て、にこりと笑った。

「私だって、嫌だったよ。でも、そうしないと、もっと傷つけることになっちゃうと思ったから」

そんなこと、ない。唯先輩が離れていってしまうことの方が、ずっとずっと傷つく。

「だから、今日あずにゃんが来てくれたのには本当に吃驚したんだよ? どうしようって。でももう、そう決めてたから。私があずにゃんを無視しようとしたのは、そういうわけなんだけど」

ああ。
唯先輩は、そんなことを考えていたんだ。私のことをそこまで考えてくれていたんだ。
唯先輩は、ちゃんと自分のことを話してくれた。
今度は、私が真摯に答える番だ。

「……昨日私が泣いたのは、嫌だったとか、気持ち悪かったとか、そんなんじゃないんです」

そう、そんなわけない。唯先輩とのキス。どんなものだって、嬉しいはずだった。だけど。

「唯先輩」
「うん?」
「私は、あなたのことが『好き』です」

もう一度、私は私の想いを直接、言葉にする。

「『好き』だから、だからあんな簡単にキスされて悲しかったんです。唯先輩の好きと私の『好き』の違いを思い知らされたような気がして。それが、辛くて、苦しくて」

だから、泣いてしまった。その場に居られなくなって、飛び出していった。

「……そっか。ごめんね」

唯先輩はぎゅっと私を抱きしめた。

「私は、あずにゃんとキスできれば割と何でもよかったから」
「もう、何ですか、それ……」

心音が私の中に響く。私のものなのか、唯先輩のものなのか。いや、多分その両方。

「梓ちゃん」
「何ですか?」
「『好き』だよ」

『好き』。
その一言に心臓が一段と高く跳ねた。唯先輩にも伝わっただろう。
でも、早とちりのぬか喜びかもしれない。ちゃんと、訊いておかなきゃいけない。

「……それって、どんな『好き』ですか」

『好き』と言ったって、それには色々ある。友達への好き。家族への好き。
そして、愛する人への好き。

「私の『好き』はね――」

唯先輩は言う。

その甘い声で『唯先輩』と呼ばれるだけで嬉しくなってしまうほど、好き。
触れるとそこから体温が一気に上がってしまうほど、好き。
抱きつくとあたたかさや柔らかさで気が遠のいてしまいそうになるほど、好き。
それから。
その小さくて可愛らしい唇に口づけしたくなるほど、好き。
もっと色々なところに、誰にも許したことがないであろうようなところに触ってみたくなるほど、好き。

「――ずっと一緒に居たいって思うくらい、『好き』」

信じられない。夢みたい。

でも、感じるあたたかい唯先輩の体温が、これが現実だと教えてくれる。私はさらに強く唯先輩に抱きついた。先輩も抱きつき返してくる。
ずっとずっと、こうしてきていたかのように、これがあるべき姿であるかのように、全くの隙間も許さないほど、私達はぴったりと寄り添った。
こんなことってあるのだろうか。
こんな嬉しいことってあるのだろうか。
絶対に叶うことはないって思ってた想いなのに。諦めきってたのに。
相手も、自分と同じ気持ちだった。

「ねぇ、あずにゃん」
「はい?」
「ずっとずっとあなたのことが好きでした。もし良かったらお付き合いしてもらえないかな」
「……はい」

奇跡だと、思った。
それから、二人とも黙りこんでしばらく身を寄せ合っていた。
幸せな時間だった。

「ところで、訊きたいことは二つあるって言ってませんでした?」

ふと、私の頭に浮かんだ素朴な疑問。そう、一つ目の質問は昨日のこと。じゃあ、もう一つは?

「あ、ああ、そうそう。訊きたいこと、もう一個あったんだ」
「何ですか?」
「え、ええっとね、こっちは、その、ちょっと訊きにくいんだけどね」

もじもじしながら、唯先輩は言葉を発するのをしぶる。至近距離で見た顔は暗がりの部屋でも十分に判別できるほど真っ赤だった。
訊きにくいこと? この後に及んで、まだ何かそんなことがあるのだろうか。

「あ、あのさ、あずにゃんは、その」

ごくり、と生唾を飲み込む唯先輩。一体、何なのか、と私が思案を巡らせていると。

「私と、えっちなこと、したい?」

……………………………………………は、い?

「あのね、さっきあずにゃんキスしてきたでしょ? それがすごかったというかその後の手つきがちょっとえっちだったというかえと別にわたしはあずにゃんがそうしたいなら全然おっけーというか」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」

すごい剣幕で捲し立て出した唯先輩を私は慌てて止める。
いきなり何言ってんだこの人は! 

「えっと、あれはちょっと暴走しただけなんです!」
「え、じゃあ、あずにゃんは私とにゃんにゃんしたくないの?」
「したいですけど!!」

言わすなっ! ていうか、にゃんにゃんってあなたは昭和の人ですか!
ううぅ。顔が熱い。ものすごい恥ずかしい。

「よかった」
「え?」

唯先輩はほっとしたような表情を浮かべた。

「何がよかったんですか?」

理由がわからなくて当然、私は訊いた。

「うん、私だけがしたいと思ってるんじゃないんだね」

今、口にお茶でも含んでいたら間違いなくそこら中にぶちまけていただろう。自信がある。
唯先輩が私の耳元に口を寄せる。ぞわりと、背筋に電流が走ったような感覚があった。

「ねぇ、あずにゃん。続き、して」
「ち、ちゅづき??」

動揺のあまり噛んだ。
お、落ち着け、落ち着け私。ビークール。
私は唯先輩から体を離す。何せ、二人分の心音がうるさ過ぎてまともに会話もできない。

「あ、あのですね。まだ、お互いのこと気持ちがわかってすぐですし、そういうのは追々でいいんじゃないかと」
「え~、さっき襲ってきたの、あずにゃんじゃん」
「襲っ!? いや、まぁだからあれは唯先輩に拒まれたと思ったから、つい衝動的になってしまって」
「じゃあ、その衝動に身を任せちゃいなよ」

唯先輩は、冗談めかしたように、でも本気の目で私を見て言う。
その言葉は、じわりじわりと溶かしていく。

「私、あずにゃんにもっと触れたい。それに、触れてほしいよ」
「う、ぐ」

濡れた声で、唯先輩は囁く。じわりじわりと溶けていく。

「ねぇ、きて?」

そう言って両手を広げた唯先輩。

それを見て、私の頭の中で、何かが切れた音がした。

「はぁ……」

それは理性という名の糸が溶かされて、切れる音。

「もう、どうなってしりませんよ……」

私はうわ言のように呟くと、その腕の中へと溺れていった。




どうしようもなく好きなのに 後編(4)
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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

当ブログは、リンクフリーとさせていただきます。
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