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SS どうしようもなく好きなのに 後編(1)

2010.05.21 *Fri*
※唯梓
※前編・中編・後編の三部に分かれる中編SSになります。
※梓視点



澪先輩がいる。
律先輩がいる。
ムギ先輩がいる。
さわ子先生がいる。
和先輩がいる。
憂がいる。
仲の良い友達達がいる。
お母さんがいる。
お父さんがいる。

そして、私の隣には唯先輩がいる。

みんな笑っている。とても楽しそうに、幸せそうに笑っている。
そんなみんなを見ていると、私も楽しくなってくる。幸せになってくる。
楽しくなって、幸せな気分になって。
私は思い切って唯先輩に飛びついた。

途端に、世界は暗転する。

ひたすらの闇。ひたすらの黒。
空虚な、何もない世界。みんなの姿も、私が掴んだはずの唯先輩の姿も、ない。
私が呆然と立ち尽くしていると、眼前に「目」が現れた。
人の目なのか、猫の目なのか、犬の目なのか、はたまたもっと違うナニカの目なのか。
目は最初は一つだけだったのに、どんどんその数を増やしていく。
十……百……千……数えきれないほど、たくさん。
大小様々、形も微妙に違うその目。
ただ、それらの目には一つだけ共通していることがある。

(やめて)

それは。

(見ないで)

私をじっと見ているということ。

(そんな目で、見ないで)

そして、私を責め立てるような、嘲弄するような、そんな目だということ。



『どうしようもなく好きなのに』 後編



じりりりりっ……

「……嫌な夢」

最悪の目覚めだった。
鳴り響く目覚まし時計のベルを止める。
窓を叩く雨粒の音を耳が捉えた。昨日の夜は晴れていたというのに、どうやら深夜に振り出したらしい。
体が気だるい。
当たり前か。私はどちらかといえば、いやどちらかということもなくインドア派なんだから。昨日の夜中の全力疾走は相当に堪えた。
あれからウチに辿り着くまでの記憶があやふやだ。冷静になって考えてみれば、我ながら危ないことをしたものだと思う。
私は、ベッドから身を起こすと大きく息を吐いた。

「久しぶりに、あの夢見たな」

大量の、目。私を蔑むような、目。
唯先輩のことを好きだと自覚するようになったころに、幾度か見た夢だった。
私は学者でも何でもないから、夢分析なんてことはできないけど。でも、想像はつく。
あれは、きっと私の中の『常識』からの、奇異の眼差し。マジョリティ思想からの、マイノリティに対する視線。
女の子が女の子を好きになるなんて、おかしい。変だ。気持ち悪い。だけど、それのおかしな、変な、気持ち悪い人間が、私なのだった。
最近、というか、唯先輩への想いを隠し続けようと決意した日からは見ることもなくなってたのに。

昨日、あんなことがあったから。

唯先輩とのキス。私はそっと唇に触れる。一晩経った今でも、鮮明に思い出すことができる。
その柔らかさも。
そのあたたかさも。
そして、感じた心の痛みも。

時間に余裕もないので、私はのっそりと立ち上がる。ふと机の上の携帯を見ると、着信を知らせるランプが点滅していた。

(電話の着信が一件、とメールが一件……)

相手を確認する。憂だった。
時間は……両方私が昨日寝入ってからだ。何せ、帰って適当にシャワーを浴びただけで倒れ込んでしまったものだから、気がつかなかった。
メールの内容は、

『落ち着いたら、連絡ください』

……はぁ、やっぱり心配かけちゃってるんだな。

(今日、どんな顔してみんなと会えばいいんだろ)

いきなり泣き出して、いきなり平沢家を飛び出していった私。変に思われてる、絶対。
理由を追及されたら、何て答えたものか。
う~ん……。
本当のことを言うわけにはいかないし、かといってうまい言い訳もみつからない。

(まぁ、いいや)

適当なこと言って、誤魔化しちゃおう。こういうのは下手に考えて取り繕うとするより、開き直って流れに身を任せた方がうまくいくのだ。いくはずだ。……いく気がする。
自信なくなってきた。
ただ、何にせよみんなに余計な心配をかけるのだけは嫌だった。
なんとかうまく振舞ってみせよう。
私はそう決意を固めると、身支度を整えるために洗面所へと向かっていった。

  ◇

「おはよう」
「あ、梓、おはよ~」
「お、おはよ、梓ちゃん」

クラスに着いて、私は純と憂に朝の挨拶をした。憂は私の顔を見ると、ほっと胸を撫で下ろすような表情になった。
私がちゃんと学校に来たことに安堵したのだろうか。
ごめんね、憂。もう大丈夫だから。あんな失態は二度と演じないから。

「う~、眠い……」
「朝っぱらから元気ないね、純」
「宿題やってないって昨日寝る前に気がついてさぁ~。結局夜中の十一時まで起きてたんだ。もう眠くって眠くって」
「十一時で遅いって……。純は寝過ぎなんじゃない?」
「いやいや、寝る子は育つんですよ、梓さん」
「……どこ見てんの」

悪かったですね、発育不良で。

「あはは、それはそれで需要あるって。で、梓は宿題ちゃんとやった?」
「うん、昨日憂の家に行ったからそのときに、ね、憂」
「へ? あ、う、うん」
「ええ! いいなぁ~。私も行きたかった! 何で呼んでくれなかったの!?」
「だって、名目上は軽音部の先輩達の勉強会だったからなぁ」
「うう、そうですか、私は部外者ってことですか」

純と冗談交じりに軽い会話を交わす。ほら、問題ないでしょう? いつもと何も変わらないでしょ? 心配しなくてもいいよ、憂。
私は大丈夫だから。
私は何事もなかったかのように振舞う。
……いや、違う。
何事もなかったんだ。
今日も、いつもと変わらない、普通の日々。私が大切にしている、守りたい、今。
何事もなかったんだから、私は何も考える必要はない。
いつも通り、授業を受ける。うつらうつらしている純が先生に指名されて慌てているのを意地悪く眺める。
いつも通り、お昼を食べる。憂が作ってくるお弁当の可愛らしさを褒めながら、純も含めてお互いの弁当の食べ比べをする。
いつも通り、部活に行く。先輩達とティータイムをする。澪先輩と一緒に唯先輩や律先輩、ムギ先輩のボケにツッコむ。一通りお小言を言わせてもらってから、練習をする。
いつも通り、帰宅する。今日も楽しかったなって満足感に浸りながら、帰り道を歩く。
そう、いつも通りだ。
それでいい。私の中で、私が取るべき行動の正解はすでに出ている。
ちょっぴりイレギュラーな出来事は起こったかもしれないけど、私の平穏を脅かすほどじゃあない。
私はこれからも変わらない日常を送っていく。

だから、これで今回のお話はおしまいなはずだった。
そう、はずだったのに。おしまいにするつもりだったのに。

事は私が思ってもいないような方向に転がり出していた。

一時間目、板書の写しもそこそこに私はぼぅっと純を、正確には純の頭でゆれる二つに縛られた髪を眺めていた。今日は雨で湿気があるから、天然パーマは一段とくるくるだ。
眠い、と言ったのも本当のようで、純はいつも以上に大きい動きでゆらりと首を上下にさせている。先生に注意されるのも時間の問題だな。
そんなことを思っていたとき。

ヴー、ヴー、ヴー……

(わっ!)

私の携帯のバイブレーションが鳴りだした。慌ててスカートのポケットに手を突っ込むと、ボタンを押して振動を止める。
幸い、先生に気づかれることはなかった。周りのクラスメイト数人が私の方に目をやった程度。ふぅ、助かった。
それしても、こんな時にメール? 誰だろ。
私は机の下で、こそこそと携帯を開く。

(って、憂?)

メールを送ってきた人物は、意外なことに今同じ教室で授業を受けている憂だった。
私は憂の方向を見る。憂もこちらを見ていて、目が合った。憂は小さく両手を合わせると、目で『ごめんね』と訴えかけてきた。
まぁこれが純だったら何かのおふざけだろう、ということで片づけられるんだけど、憂となると話は別だ。
何か、どうしても私にメールを送らなければならない用があったのに違いない。
私は小さく頷くと、携帯に目を落とす。受信ボックスを開く。
そして、メールの中身を読むと――

  ◇

「話したいことがあるから昼休みに音楽室に来て、だけなんだもんなぁ」

私がぽつりと零した言葉は、静寂にかき消される。下の階の賑わう声、しとしとと降り続ける雨の音がやけに大きく聞こえた。
お昼休み。一時間目に来たメールに従って私は音楽室に居た。当たり前だけど、人は私以外に誰もいない。内緒の話をするにはもってこいだ。
さて、部室なんかに呼びだして、一体、憂は私に何を言うつもりなのか。
わざわざ授業中に送ってくるぐらいだから、誰にも、純にさえも言いたくないようなことなのだろう。そう思ったから、休み時間に聞くこともできず。
私は悶々としながら今までの時間を過ごすことになった。
とはいっても、心当たりがないわけじゃない。多分、昨日のことだろう。
何で昨日いきなり帰ってしまったのか、急に泣き出したのはどうして。そんなことを聞かれるんじゃないだろうか。
さて、ただそうだとすると何て答えたものかな。
私が考え込んでいると、がちゃり、ノブを捻る音がした。ドアの方を見ると、憂が顔を出す。

「純は撒けたの?」
「え? あ、えと、お姉ちゃんに用事があるからって言って……」

なるほど。ちなみに私は軽音部関係のことで先輩に話があるからってことにした。可哀そうに、純は今頃教室で一人ぼっちでお弁当だろうか。
さっさと話を聞いて、戻ってあげなきゃね。
私は憂の目をじっと見つめる。憂は少し、戸惑った様子で私のことを窺い見てくる。

「あの、梓ちゃん」
「何?」
「……怒ってない?」

はい? 怒る? 私が? 何に対して?
全く要領を得ない質問に、私は虚をつかれた。

「ええっと、なんで?」
「いや、ちょっと顔が怖かったから……」

憂は慌てるように言った。
私、そんなに難しい顔をしてたかな……?

「ううん、怒ってないよ。それより、わざわざ私をここに呼んだ理由は何? 人前ではしたくない話?」
「ええと、そういうわけでもないんだけど……」

憂は眉を八の字に寄せて、語尾を曖昧にぼかした。言いたいことがあるのだけれど、どう言っていいものか悩んでいる。そんな表情だ。
しかし、頭を振ると意を決したように私の顔を、目をまっすぐに見つめ返して、やがて憂は口を開いた。

「あのね、今日、お姉ちゃん、学校をお休みしてるんだ」
「え、唯先輩が?」

そ、そうなんだ。昨日の感じだと全く体調が悪いようには見えなかったけど。

「それでね」
「う、うん」

あまりにも憂が鬼気迫る様子で詰め寄ってくるので、私は思わず一歩後ずさってしまう。
一体何だというのか。
憂の口から放たれようとしている言葉が想像できない。全く、できない。それだけに、怖い。
混乱する私。
そして、憂はゆっくりと言った。

「お見舞いに、来てほしいの」

……その時の私の脳内の様子を表すに最適な日本語、それは『拍子抜け』だった。

「えと、別にいいよ」
「ほんと!? よかったぁ~!」

憂は、心底ほっとしたような安堵の表情を浮かべた。え、なんでそんなに喜ぶの?

「部活の先輩がお休みしてるんだからお見舞いに行くのぐらい普通だと思うけど……」

もしかして、私って憂に結構情に薄い人間だと思われてる? と軽く凹みそうになったんだけど。

「え、えっとね、昨日のことがあって、梓ちゃん、お姉ちゃんに会い辛いかなぁって思って……」

――ああ、なるほど。そこでその話に繋がるわけですか。得心が行った。そりゃあ、お見舞いに来てほしいと言うだけなら、わざわざ二人きりになる必要はないもんね。
さて、と私は考える。
私は唯先輩と会うことを気まずいと思うだろうか。
……答えは考えるまでもない。

気まずいに、決まってるじゃないか。

正直、唯先輩が今何を思っているのかがわからない。昨日あんな風に泣きだした、飛び出した私に対して、何を思っているのか。
どんな反応をされるかわからないから、私も会ったところでどうしていいやらわからない。
ただ、それでも。
私は、私の今を守りたい。大好きな日常を守りたい。
だから、私はうまく対応してみせる。みんなを不安にさせないように、いつもと変わらない私をアピールするために。

「昨日はちょっと吃驚しちゃっただけだから。もう、唯先輩ったらほんとにスキンシップ過剰だよね~。されるこっちの身にもなってほしいよ。まぁ昨日は律先輩のおふざけが原因でもあるけど。あ、ごめんね、あの後碌に連絡もしないで」
「ううん、それはいいんだけど。……でも、本当に、大丈夫?」

憂はじっと私を見てくる。そのまっすぐな澄んだ瞳は、私を見透かしてしまそうな瞳は、夢に見た無数の『目』と容易に重なる。
私を見ないでほしい。見つめないでほしい。正体を暴こうとしないでほしい。
私はその視線に耐えきれなくなって、思わず目を逸らした。

「もう、何をそんなに心配してるの? あれぐらい大したことじゃないよ。本当に、大丈夫だから」

言いながら、何て説得力がないんだろう、と思った。それぐらい、私の声には力がなかった。
駄目じゃない、私。安心させるつもりが、これ以上心配させてどうするの。
私も憂も何も言わない。怖くて目を見ることができないから、憂がどんな表情をしているのかは窺い知れない。

「そっか……」

沈黙を破ったのは憂だった。

「わかった。梓ちゃんが大丈夫って言うなら、私も大丈夫って思うことにする。……あのね、一つ、訊いてもいい?」
「……なに?」
「梓ちゃんは、お姉ちゃんのこと、好き?」
「え?」

突然の質問に、私は言葉を詰まらせた。
どうして急にそんなことを訊いてくるんだ? 
脈絡がないにもほどがある。意図がわからない。
ただ、それでも。
問いの意味や意図は置いておいて、その質問に対して純粋に誠実に回答するというのなら。
私は解答をたった一つしか持ち合わせていなかった。

「……『好き』だよ。嫌いなわけないじゃない」

その好きという言葉が内包する意味がどういうものであれ。間違いなく私は唯先輩のことが『好き』だ。少なくとも、嫌いになんかなれそうもない。
私はしっかりと顔を上げて、憂の顔を見た。なぜか、今度はちゃんと見ることができた。
私の言葉を聞いた憂は、満面に花のようなふわりとした笑顔を咲かせていた。

「やっぱり梓ちゃんを信じてよかった」

憂は意味深に呟くと、私の手をぎゅっと握る。そして、くるりと踵を返した。

「よし、教室に戻ろっ!」
「えっ、ちょ、ちょっと、憂」

訳も分からないまま、私は駆けだした憂に引っ張られる。私は困惑するだけだ。結局のところ、憂が私を呼んだ目的が何だったのかは判然としないまま。
……ま、でも、憂は納得したようだし、それなら別にいいのかな。
私の手を引く憂の後ろ姿が、唯先輩と重なって見える。やっぱり、似ていないようで、似たもの姉妹なんだと思った。

教室に戻ると、純は他の友達とお昼を食べていた。友達甲斐がないなぁ、って言ったら「あんた達が私を放っていったんでしょ!」と怒られた。
もっともだと思って、私は笑った。




どうしようもなく好きなのに 後編(2)
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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

当ブログは、リンクフリーとさせていただきます。
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