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SS どうしようもなく好きなのに 中編(1)

2010.05.13 *Thu*
※唯梓
※前編・中編・後編の三部に分かれるSSになります。
※梓視点



『どうしようもなく好きなのに』 中編

「お邪魔します」
「どうぞどうぞ」
「いらっしゃい、梓ちゃんっ」

来る日曜日、私は定刻より少し早めに平沢家に到着。姉妹揃ってのお出迎えを受けた。
そのままリビングへと招かれる。思えば、最近は軽音部のメンバーとしてよりも純と一緒に憂の友達として来ることが多かったな。今日みたいに大勢でここに集まるのは結構久々じゃないだろうか。

「こんにちは、梓ちゃん」

リビングでは和先輩が雑誌を読んでいた。私が入ると、顔を上げてあいさつをしてくれる。
桜が丘高校の生徒会長。真面目なしっかり者で澪先輩も頼りにしている、私たちの仲間内の中で最強の良心といっていいだろう。
ほんと、いつも唯先輩や律先輩のお守、お疲れ様です。

「こんにちは」

私は和先輩の横に腰を下ろさせてもらう。すると隣に唯先輩が座って「あずにゃ~ん」と、さも当然のように私に抱きついてきた。
もう、本当にこの人は人の気も知らないで……。

「ふふ、仲良いわね」
「仲良いというか、一方的に抱きつかれてるだけですけどね」

和先輩の言葉に、苦笑することしかできない。
とりあえず唯先輩は気にしない方向で、私は和先輩に話しかけた。

「他の先輩方はまだ来てないんですか」
「そうね。まぁ、私なんかは家がすぐそこだから早いだけだし。もうそろそろ来るんじゃないかしら」
「梓ちゃん、お茶入れるからちょっと待っててね。お姉ちゃんと和ちゃんも今お代わり用意するから」
「ほ~い」
「ありがとう、憂」
「あ、ありがと、って、え?」

私は思わず、キッチンの方へとてとてと歩いて行く憂と、憂に感謝の言葉を述べた和先輩を交互に見やる。
あれ、今、憂、和先輩のこと――

「ああ、憂は家族とか、特に親しい人しかいないときは私のこと昔の呼び方で呼ぶの」

私の疑問を察したらしく、和先輩が説明をしてくれる。

「私と憂と和ちゃんで仲良し幼馴染三人組だもんね~」

えへへ、と嬉しそうに唯先輩が和先輩に続く。そっか、唯先輩と和先輩が幼馴染であるように憂も和先輩と幼馴染なのか。
当たり前のことだけど、改めて確認するとどうも不思議な感じだ。それに同級生の友達が先輩、しかも生徒会長のことをちゃん付けにしているというのも。

「……って、あの、今は私居るんですけど」

納得しそうになったところで、一つの疑問が私の中に生じた。この場には、唯先輩曰くの仲良し幼馴染三人組だけじゃない。

「そういうことじゃないかしら」
「はい? あの、そういうことって?」

困惑する私の顔を見て、くすりと和先輩が笑う。

「だから、憂の中では梓ちゃんは唯や私と同じくらい親しい間柄ってこと」
「あ……」

頬が赤くなるのを感じた。
理屈はわかるけど、いきなりそんなことを言われたら照れてしまう。
ていうか、唯先輩と同じくらいってことはさすがにないんじゃないか。ほら、憂ってすごいお姉ちゃんっ子だし。
でも、もし憂が私のことをそこまで親しく思ってくれているのならば、とても嬉しい。私にとっても、憂はかけがえのない親友だから。

「これからも憂と仲良くしてあげてね」

和先輩は優しく微笑む。本当にできた人だ。実の姉よりもよっぽど姉らしい。
私も笑顔で和先輩に答える。

「はい。私も憂と一緒に居たいですから」
「そう言ってもらえたら、あの子も喜ぶわ。あの子、しっかりしてるようで抜けてるところがあるし、結構寂しがり屋さんだし」
「寂しがり屋、ですか?」

しっかりしてるようで抜けてるところがあるってのはわかるんだけど。

「ええ。合宿であなた達が居ない時なんて、ずっとウチに来て私にべったりなんだから」
「……そうなんだ」
「私も知らなかった」

私に続いて、唯先輩も意外そうな声を上げた。って、いやいや、何で妹のこと把握してないんですか。実の姉でしょう。
しかし、思い返せば修学旅行の時唯先輩が居ないだけで泣きだしてたな、憂。意外でもないのか。

「弟や妹の相手してくれるから、助かってるんだけどね。私自身も憂が来てくれるのは嬉しいし」
「なになに? 何のお話~?」

お盆にお茶を乗せた憂がリビングに戻ってきた。

「憂、気づいてあげられなくてごめんよ~!」

唯先輩がひしっと憂の腰の辺りに抱きつく。お盆が一瞬揺れたけど、憂が上手くバランスを取ったおかげでお茶をぶちまけるという惨事には至らなかった。
相変わらず行動の節々に器量の良さが出る子である。

「わっ! あ、危ないよ、お姉ちゃん。ほんとに、何のお話してたの?」
「唯や梓ちゃんが居ない時の憂の様子をちょこっと話しただけだけど」
「えっ!?」
「憂って、結構寂しがり屋さんなんだね」

私もからかうように言ってみる。

「~~~っ! もう、和ちゃんの意地悪! そんなこと言わなくてもいいでしょ!」
「あら、ごめんなさい」

おお、憂が顔を真っ赤にして声を張り上げてる……。これは珍しいものが見られた。
対する和先輩は涼しい顔。でも口元が緩んでいて、どこか楽しそう。意外と茶目っけのある人らしい。
それにしても、憂の和先輩への態度って他の誰に対するものとも違う気がする。具体的に言えと言われると難しいけど。
あれかな、和先輩はいつもみんなから頼られる立場の憂にとって数少ない頼れる人なのかもしれない。憂に言わせれば唯先輩だって頼れるお姉ちゃんらしいけど、あの子の言うそれは精神的な依存という意味だろう。もっと具体的に、頼れる、甘えられる存在が憂にとっての和先輩なのかな。

それからも繰り広げらる幼馴染トークを聞きながら時間を潰していると、玄関のベルが鳴った。

「あ、みんな来たかな」
「そうみたいね。さ、唯。勉強始めるわよ」
「うええ。もっとお喋りしてたい~」

唯先輩はぐでっと私にしなだれかかってきた。さ、さすがに苦しいです……。

「ほら、今日は勉強のために集まったんでしょう。いつまでもだらだらしてないの」

和先輩に引っ張り起こされる唯先輩。

「さ、お姉ちゃん。皆さんをお出迎えしにいかなきゃ」
「はいは~い」

そして、憂に手を引いてもらいながら玄関へと向かっていった。
幼馴染三人組というより、保護者二人に手のかかる子供が一人といったほうが正確なんじゃないかな。
本当に、唯先輩はどうしようもなくだらしない人なんだから。
何で好きになんかなっちゃったんだろうね。
私は大きな溜め息を一つ吐いた。

  ◇

私は今憂の部屋に居る。
先輩たちが勉強を始めて二時間ぐらい経っただろうか。時計を見れば、短針が「3」に近づこうとしている。そろそろおやつの時間かな。
一時間前に、憂と二人で様子を見に行ったときには私の当初の予想に反して真面目に勉強していたので驚いた。
まぁ、口ではあれこれ言っている唯先輩と律先輩だけど、胸の内はやっぱり澪先輩と一緒なんだろうな。
ただ、唯先輩が真剣に問題に取り組み過ぎて、私が話しかけてもまともに取り合ってくれなかったのはちょっぴり寂しい。一度集中すると途切れるまでそのことしか見えない、という唯先輩の性質はわかっているけど、それでもやっぱり。

(唯先輩が呼んだんだから、もうちょっと構ってくれてもいいのに)

思わず浮かんだそんな想い。しかし、それはあまりにも我がままなもので。私は頭を振ってそれを打ち消す。

(いやいや、ちゃんと勉強してくれるならそれが一番に決まってるじゃない。何言ってるの私)
「どうしたの? 梓ちゃん」
「へ? あ、な、何でもないよ」

憂が不思議そうに小首を傾げて訊ねてきた。そりゃ、いきなり友達が頭を振り出したら何事かと思うよね。
私は今度は両手を顔の前でぶんぶんと振って何でもないをアピールする。
ちなみに今は読書タイム。私は唯先輩の部屋にあった音楽雑誌を、憂は私が持ってきた漫画を読んでいる。憂が読みたがってた漫画を私が持っていたので、貸してあげることにしたのだ。
机の上には紅茶。ムギ先輩が持ってきてくれたものを一足お先にと憂が淹れてくれた。
まったりとした雰囲気が部屋を包んでいる。こんな風に気を休めて過ごすのも悪くない。
流れる空気に影響されてぼんやりとした頭で私は考える。
憂に、私の唯先輩への想いを打ち明けたら、どういう反応をされるんだろう。
もちろんそんなつもりは毛頭ない。私は隠し続けるって決めたんだから。だから、あくまでこれは仮定の話なんだけれど。

(やっぱり、気持ち悪いって思われるよね)

特に憂は唯先輩をすごく大切にしているから、そんな目で私が唯先輩を見ていると知れば最悪もう姉妹揃って縁を切られてしまうかも。
そんなのは絶対に嫌だ。
私は、唯先輩に対するものとはベクトルは違えど憂のことだって大好きだから。
うん、やっぱり、何があっても言わないようにしよう。大丈夫。黙ってればきっとばれないよ。私が女の子を好きになる女の子だってことなんて。
そういう結論を出すと私は紅茶のティーカップに口をつける。

「あのさ、梓ちゃん」
「ん~?」

さわやかな味と芳しい香りが、私の中に広がっていく。何ていう紅茶なのかな。やっぱり高いのかな。

「女の子が女の子を好きになるのって、どう思う?」
「ごはっ、げほ、げほっ」

突拍子もなく憂の口から放たれた言葉によって、私は盛大にむせた。せっかくの紅茶の味も香りも吹っ飛んでしまった。

「わ! 梓ちゃん、どうしたの!?」

どうしたのってのはこっちのセリフですよ! 何!? 何でいきなりそんなピンポイントな質問してくるのかな、この子は!?
手渡されたハンカチで口元を拭うと、私は憂に問い返す。

「い、いきなり何言ってるの」

まさかとは思うけど、私が唯先輩のことを好きだって勘付いてるとか……?
ごくり、と唾を飲み込んで憂の返答を待つ。

「えっとね、この漫画に女の子が好きな子が出てくるでしょ?」

憂は両手でページを開いたままの漫画を顔の高さまで持ち上げて言う。
ああ、そう言われれば脇役に居たなぁ、女の子大好きな女の子。若干ネタ要員と化してるんだけど。
何だ、私の気持ちに気付いたとかではないのか。
はぁ、吃驚した。

「それで、本当にふと思ったんだけど。こういうの、梓ちゃんはどう思ってるのかなって」

……どう思ってるのかもなにも、私自身がそういう人なんだけど。
しかしいくら憂にとはいっても、そんなこと、言えるわけがない。
だから。

「別に頭ごなしに否定するつもりはないけど、まぁ周りからは歓迎されないかもね。普通じゃないし。変なんじゃない?」

一般論。当たり障りのない言い回し。陳腐な回答。
私は『正しい』理論で自身を武装する。例えその正しさが私の内から見れば『間違い』だとしても、私は構わない。
その矛盾とこれからずっと付き合っていく覚悟は決めたつもりだ。

「え~、変、かぁ。でも、好きになった人が女の子だったってことはあるかもしれないよ」

憂、それは綺麗事だよ。
『女の子が好きというわけじゃない、好きになった人が女の子だっただけだ』なんて言ったところで、それだけで世間様の目が優しくなるわけじゃないんだから。

「いやいや、実際その漫画の中でもその子は報われてないじゃない。そういうことでしょ」
「う~ん、そっか」

憂は顎に手をやって、うぅむと考え込む。というか、本当にふと思いついて聞いてきただけなのだろうか。もしかして何か思うところがあったんじゃ――

梓ちゃん、難しく考え過ぎてるんじゃないかな。

「へ?」

小さな呟きが聞こえた気がして、私は間抜けな声を出す。今、憂、何て。
しかし、私が問おうとした途端に憂は立ち上がり「そろそろみんなのおやつの準備しよっか。紬先輩が色々持ってきてくれたもんねぇ~」と言って部屋を出ていく。
私は喉から出かかった質問の言葉を引っ込めて、大人しくその後について行くことしかできなかった。

  ◇

「うわぁ……」

午後六時半。
夕飯の支度が整ったことを告げるために唯先輩の部屋に入ると、まさに死屍累々の絵図が広がっていた。
とはいっても、死んでいるのは当事者である唯先輩と律先輩、それから二人に熱血指導を行っていたのであろう澪先輩の三人でムギ先輩と和先輩は楽しそうにお喋りしていた。タフだなぁ。

「梓ちゃん、どうしたの?」

私が部屋の惨状を呆然と見ていると、ムギ先輩が私に気がついて声をかけてきた。

「あ、夕飯ができたんで呼びに来たんですけど」
「わかったわ。ほら、唯も律も、それから澪もしっかりして。夕飯よ」

和先輩が各々の肩を揺さぶる。
へんじがない。ただのしかばねのようだ。

「もう……。精魂使い果たしちゃって。梓ちゃん、悪いんだけど、この三人を運ぶの手伝ってくれる?」
「はい、わかりました」

和先輩は澪先輩を、ムギ先輩は律先輩を抱え起こす。
澪先輩は「そうじゃないだろ、そこはこっちの公式を使って……」なんてぶつぶつ言っていて何だか怖い。律先輩なんかは「to不定詞を微分すると、あり・おり・侍り・いまそかり……」と、もう支離滅裂だ。おやつタイムのときはまだ大丈夫だったのに、あれからどんな死闘を繰り広げたというのだろうか……。

「じゃあ、唯はお願い」

って、何でよりによって私に唯先輩を任せるんですか!? いや、他意はないのだろうけど、でも。
机に突っ伏した唯先輩を見る。運ぶ、ということは当然、体を密着させる必要があるわけで。
ううぅ、でもここで挙動不審になると怪しいし。ここはぐっと堪えて、何でもないように振舞わなきゃ。

「ゆ、唯先輩~、起きてくださ~い」

へんじがない。ただのしかばねのようだ。

「あの、私あんまり力ないんで、できれば自力で下まで降りてくれると助かるんですけど~」

へんじがない。ただのしかばねのようだ。

「えっと、じゃあ抱えますよ~」

よっと、私はテーブルに突っ伏している唯先輩のお腹の辺りに後ろから手を回す。
まるで、いつもとは逆に私が唯先輩に抱きついているみたいだ。

(うわ、あったかいし、なんかいい匂い……)

ああ、駄目だ。やっぱり私、変な事考えてる。
でも、抱きつかれるというのにはある程度の耐性はできていても、自分から抱きつくなんてのはやったことがない。意識するな、なんて無理というものだった。

「ぅん~、ほえ、あずにゃん……?」
「ひゃわっ!」
「あいたっ!」

急に唯先輩が目を覚ますものだから、私は驚いて回していた腕を離してしまった。少し浮かせていた唯先輩の腰が、べたんと床に落ちる。

「痛いよ、あずにゃ~ん」
「あ、えと、ごめんなさい……」
「あら、唯は意識戻ったのね。もう夕飯だそうよ」
「何ですと!? おおぉ、ついに、ついに待ちわびたこの時がっ……」

唯先輩は勢い良く立ち上がると、今までぶっ倒れていた人とは思えないほど軽やかな足取りで下の階へと下りていく。
……ちょっとだけ、あのまま私が抱いて運んで行きたかったと思ったのは内緒だ。

「それじゃあ、私達も行きましょうか」

ムギ先輩に言われて、私達もリビングへと向かう。
律先輩と澪先輩は本当にどれだけ集中すればこうなってしまうんだ、というほど意識が朦朧としていた。もう、階段ではちゃんと支えていないと落ちてしまわないか心配になるくらい。
しかし、リビングに入るや否や二人の瞳には光彩が戻った。
なぜかって?
それは――

「うは~……」
「相変わらず、すごいな……」

まさに豪華絢爛というにぴったりな夕飯が、食卓にところ狭しと並べられているからだ。

「もう、みんな遅いよー。早く食べようよ~」

先に降りてきていた唯先輩はお茶碗をお箸で叩きながら、頬をリスのように膨らませている。可愛らしいけど何とも子供っぽいなと、私は笑ってしまった。
私達も食卓を囲む。
別に狙ったわけではないけど、私は唯先輩の隣になった。

「唯先輩、勉強お疲れさまです」
「本当に疲れたよ~。もうコードとかギー太の弾き方とかを忘れちゃいそうなくらい、いっぱい詰め込んだんだからね」

やめてください。あなたが言うと冗談に聞こえませんから。

「お代わりもあるんで、いっぱい食べてくださいね!」
「憂ちゃん、ほんとサンキューな」

律先輩が満面の笑みで、憂に感謝を告げる。

「いえいえ。というか、別に私だけで作ったわけじゃないですから。ね、梓ちゃん」
「え? あ、いや、私は憂のお手伝いしただけだよ……」

実際憂の手際の良さに呆気に取られてばっかりだった。いやぁ、やっぱりすごかったなぁ。
私が憂の料理テクを思い返して、何もできなかった自分を情けなく思っていると、いきなりふんわりとした優しい感覚が頭に降ってきた。

「あずにゃんも、お疲れさま」

何かと思えば、唯先輩が私の頭を撫でてくれていた。その表情は私を撫でる手つきそのままにとても優しい。
ああ、もう。
この人はどうして私をこんなにも惑わすのだろう。こんなにも嬉しくさせるんだろう。こんなにも好きにさせるんだろう。

「うふふ、梓ちゃん。お顔が真っ赤よ?」
「にゃっ!? そ、そんなことないです! それより、早く食べましょっ。せっかくのご飯が冷めちゃいます!」
「全く、梓は照れ屋だなぁ。ま、じゃあ頂くとしますか。はい、手を合わせて!」

律先輩の元気な掛け声に合わせて、みんなで両手を合わせる。

「いただきます!」
「「「いただきます」」」

楽しい夕飯の時間の始まりだ。

  ◇

「はぁ、食った食った~」
「食ったぁー」
「律、唯。食べてすぐに寝転がるな」
「牛になるってヤツ? あはは、私はだいじょぶだよ、澪ちゃん。太らないから」
「「羨まし過ぎる!!」」

唯先輩の発言に対して澪先輩とムギ先輩が同時に叫んだ。まぁ、そうでもなければあんだけ喰っちゃ寝できませんよねぇ。
台所からは、食器を洗う音、楽しそうな会話が聞こえてくる。後片付けは私達も手伝うと言ったのだけど「キッチン狭いですし」ということで結局憂と勝手を知ってる和先輩の二人がやってくれている。幼馴染とはいえ、住人の唯先輩がごろごろしてるというのに、和先輩は本当に面倒見がいい。
図らずも、リビングには軽音部のメンバーだけが残っていた。

「それにしても、もう受験生なんだなぁ」
「何だ律、今さら自覚したのか」
「たはは、さすがに今日これだけやらされるとな」
「自覚があったならあんな点数とりませんよね」
「くっ、梓も言うようになりやがって……」

いつもからかわれているお返しです。

「でも受験まであと二、三ヵ月で、それが終われば卒業だろ。何かあっという間の三年間だったな、と思ってさ」
「……そうだな」
「高校生活ともあとちょっとでお別れなのね……」

神妙な面持ちになってしみじみと先輩たちは言う。思い出の詰まった高校生活との別れに想いを馳せて、みんなどこか物悲しげだ。
ただ一人、唯先輩を除いて。

「唯先輩は何だか平気そうですね」
「へ? や、そりゃあ、高校生活が終わっちゃうのは寂しいし、平気ってことはないけど」

唯先輩は考え込むようにう~んと唸ってから、言葉を続ける。

「でも、大学に行けばきっとたくさんの素敵な出会いがあると思うんだ。高校に入って、こうやって私が軽音に出会えたみたいに、みんなに出会えたみたいに」

きらきらと輝くその瞳には一切の曇りも偽りもない。心の底からそう思っているのだということが伝わってくる。
唯先輩はとても良いこと言っている。未来に希望を持つ。新たな出会いに胸を躍らせる。素晴らしいことじゃないか。
実際、暗い雰囲気になりかけていたこの場も、その一言で明るさを取り戻した。
律先輩が「何、恥ずかしいこと言ってんだコイツぅ」と唯先輩の首に腕を回して、唯先輩を揺さぶっている。あわあわしている唯先輩を見て澪先輩とムギ先輩も笑顔になる。
でも、私はどうにも上手く笑うことができなかった。
だって、唯先輩の言うことがあまりにも正し過ぎたから。
唯先輩は大学に行けば、もっと色々な場所に出向くだろう。行く先々で色々なものを見て、色々な出会いをするだろう。
そしていつか、その瞳に大切な人を映すようになるだろう。
そして、その大切な人は当然、異性なのだろう。
それが普通なんだ。
道を逸れてしまったのは私で。必死になってレールに戻ろうとするけど、もうレールの場所がわからない。
いや、そもそも私の人生にレールなんてものは敷かれていたのだろうか。
私はどうしようもなく異常で、そして欠陥品なのかもしれなかった。

ああ、駄目駄目。こんな辛気臭い顔をしていたら――

「あずにゃん、どうしたの? 浮かない顔して」

ほら、気づかれてしまった。唯先輩のそういう、人の心に機敏なところは好きだけど、気づいて欲しくないところまで気づくのはやめてほしい。

「べ、別に浮かない顔なんて」
「ははぁ、わかったぞ。私達が卒業した後の軽音部のこと考えてたんだろ」

律先輩がこれで間違いないって自信満々の顔で私に同意を求めてくる。違うんだけど、それも気にならないといえば嘘なのでそう思っておいてもらうことにしよう。

「大丈夫よ、梓ちゃん。きっと次は新入生入ってくれるわよ」
「私達もできる限り顔出すから。梓だけに頑張らせるなんてことはしないよ」
「そうそう。なんたって梓は私達の代の唯一の後輩だからな~」

口ぐちに先輩たちは私への言葉をかけてくれる。

「いざとなったらきっと憂も手伝ってくれるよ。憂、私よりもギターのこと知ってるんだよ~」
「それもどうかと思いますが……」

もちろん、唯先輩も。
みんな私を心配してくれている。気づかってくれている。
優しい先輩たち。
こんな優しい人たちを騙している私は、やっぱりどうしようもない人間だと思った。



どうしようもなく好きなのに 中編(2)
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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

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コメント、拍手等でご報告いただければ、相互リンクさせていただきたいと思います。



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