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SS どうしようもなく好きなのに 前編

2010.05.10 *Mon*
※唯梓
※前編・中編・後編の三部に分かれるSSになります。
※梓視点



『どうしようもなく好きなのに』 前編

「お前ら、そんなことでどうするんだっ」

先輩たちにとって最後の文化祭ライブが終わって、しばらくしたある日のこと。
私、中野梓が部室に入って聞いた第一声は、澪先輩の半ば怒鳴り声のような、そんな声だった。
澪先輩は両手を腰に当てて、仁王立ち。そして、その目の前には。

「すまんのぅ、すまんのぅ」
「どうかお許しを、お代官様ぁ」

土下座でもするかのように、両膝を地につける唯先輩と律先輩の姿があった。
何やってんだ、あの人たち。

「私に謝っても仕方がないだろ。お前たち自身のことなんだから。大体、いっつもお前らは――」

スーパーお説教タイムハジマタ。
またあの二人は澪先輩を怒らせるようなことをしでかしたのだろうか。私は事の成り行きをお茶を飲みながら見守るムギ先輩の隣までそろりそろりと近づいていく。

「あの、どうかしたんですか?」
「あら、梓ちゃん。実はね――」
「おお、あずにゃ~ん! 助けて~」
「にゃっ!」

唯先輩は私に気がつくといつもの如く、がばっと抱きついてきた。

「こら、唯! まだ、説教は終わってないぞ!」
「え~、もうヤダよぉ……。あ、ほら、あずにゃんも来たことだし、練習しよ、練習!」
「逃げ道に練習を使わないでください」
「ううぅ。あずにゃんが冷たい……」
「それで、澪先輩は何でそんなに怒ってるんですか?」
「……梓、こいつを見てくれ。どう思う?」
「ああ、後輩には、梓だけには見せないでくだせぇ!」

律先輩が喚くのを無視して、澪先輩が私に二枚の紙を手渡してきた。
どうやら模擬試験の結果表のようだ。三年生ほど頻繁ではないにしろ私達も受けたことがあるので見覚えがある。
名前の欄を見れば、『平沢唯』『田井中律』と書いてある。
当然、二人の点数や全国順位、偏差値が載っているわけだけど。

「すごく……悲惨です……」

唯先輩も律先輩も、私達のバンド『放課後ティータイム』を続けるため、澪先輩、ムギ先輩と共にN女子大に進学すると決めたのは最近のこと。
そうなれば、当然勉強もしなくちゃならない。が、しかし。
いやいやいや、N女子大ってそこそこ偏差値高いお嬢様学校じゃないんですか? 
全然無理っしょ、これ。判定も普通に最低のEだし。マジ受験舐めてますね。

「いやぁ。勉強しようとは思ってるんだよ? 家でも一応机の前に座って、よしやるぞって気合いを入れるんだけど……なぜか、気がつくとギー太を構えてて」

その光景がありありと想像できてしまう。妹の憂も唯先輩に甘いからお小言も言われないだろうし。やっぱり、びしっと言ってあげなきゃいけないと思うんだけど。

「あ~、でも私も勉強しようと思ってもすぐに他の事が気になって、そっち行っちゃうなぁ」
「ほんと、集中力のないヤツらだな……」

呆れたという顔で、額に手を当てて溜め息を吐く澪先輩。激しく同感です。

「要は、勉強する習慣が身についてないんですよね」
「だって、今までのテストは一夜漬けでも大概何とかなってきたし」

そこ、胸を張らない。全く褒められたことじゃないですから。

「それにしても、この成績のままじゃN女子大は大変じゃないですか? もし、唯先輩と律先輩が落ちちゃったりしたらそのまま放課後ティータイムは……」
「そ、そんな……」

私がふと思い浮かべて口に出した最悪の結末に、真っ青になって反応したのは澪先輩だった。

「いやぁ、何とかなるしょっ!」
「うんうん、例え落ちてもその程度で崩れるほど私達の絆はヤワじゃないよ!」

何でこの人たち無駄にポジティブなの!? 前向きなのは良い事ですけど、でも、それ、全く解決になってませんから。

「わかった。よぉくわかった」

澪先輩はゆらぁっと、まるで幽霊のような足取りで律先輩に近づくと、両肩をがっしりと掴んだ。

「み、澪ちゅわん……?」
「お前らの能天気っぷりはよくわかった」
「怖いよ? 顔、怖いよ? ほら、笑って。私は笑ってる澪が好きなんだ(キリッ」
「だ・ま・れ」

おおぅ。本当に怖い。
しかし、澪先輩の気持ちは痛いほどよくわかる。一緒に進学して、一緒にバンド続けたい。それは私だって思ってる。
残念ながら私はみんなより一つ下だから一緒に進学はできないけど、後を追って、追いつくことはできる。私としても追いついたその先に放課後ティータイムがないなんてことは絶対にあって欲しくない。
だからこそ、唯先輩にも律先輩にも頑張ってほしい。それなのに、当の二人がこんな様子なんだもんなぁ。

「ああ、もう。どうしたらコイツらに勉強させられるんだ……?」
「あ、じゃあ、今度の日曜日に勉強会をするとかはどう?」
「「勉強会?」」

ムギ先輩の提案に、唯先輩と律先輩が目を輝かせる。……目を輝かせる?

「ええ。みんなでなら、勉強も楽しくやれるんじゃないかしら」
「……なるほど、それは良い考えかもしれないな。ちゃんと見張っておけばサボらないだろうし」
「いいね、いいね! 日曜日はウチ空いてるよ! あ、憂に言っといてごちそう作ってもらおう!」
「あ、じゃあ私ゲームソフト持ってくな! 今度こそ憂ちゃんに勝ってやる!」
「遊ぶ気満々!?」

思わず大声でツッコミを入れてしまった。
これはひどい。目を輝かせていた理由は、なるほどそういうことか。
いやまぁ、この人たちじゃあそうなるよね。みんなで勉強すれば楽しいだろうけど、楽しくなれば遊ぶ!って人達だし。
でも、そんなこと言ったら澪先輩の鉄拳制裁が――

「ふふふ、そうはさせるか」

と思っていたのだけど、予想外に澪先輩は怒りだすことなく、冷静な声を発した。
そして、鞄から受験生用の問題集を数冊取り出して、ばんっと机に叩きつける。

「学校指定のヤツだから、お前たちも持ってるだろ。今から私が指定するページを日曜日までにやってくること。やってこなかったら……そうだな」

澪先輩はそこで一端言葉を区切る。そして、

「一週間、ティータイムは禁止だ」
「「んなっ!?」」

唯先輩と律先輩には死刑宣告と同等であろう宣言をした。

「当日はその中でお前たちがわからなかった問題を私とムギと、それからできれば和にも来てもらってじっくりと教えてやる。遊んでる時間なんてあると思うなよ」
「「うへっ!?」」

うわぁ、澪先輩、目がマジだ……。

「澪、横暴だぞ!」
「そうだそうだぁ!」

口ぐちに反論をしようとする律先輩と唯先輩。が、しかし、

「文句あるか?」

澪先輩はそのマジな目でぎろりと唯先輩と律先輩を睨みつけた。あ~あ、こうなってはもう唯先輩と律先輩には太刀打ちする術はない。

「「ありません……」」

二人はがくがくと震えながら、ぶんぶんと首を横に振った。
唯先輩も律先輩も、本当に相変わらずだ。ムギ先輩はムギ先輩で楽しそうににこにことその様子を見ている。
澪先輩の心情、みんなでバンドを続けたいという気持ちをよくわかってるからだろう。確かに、それを思えばこの光景の何と微笑ましいことか。

(ああ、)

私は、そんなやり取りを見ながら思う。

(羨ましいなぁ)

さっきも言ったけど、私はまだ二年生だから。先輩たちとは立場が、状況が違う。
この場に一緒に居はするけど、ただ居るだけというか。練習になれば私にもバンドメンバーの一人としての立場があるから輪の中にすんなりと入っていけるが、学校の、しかも受験の話となれば事情は変わってくる。三年生の話は、私には関係がないんだ。
正直に言えば、寂しい。そういえば、同じような感情を先輩達の修学旅行の時にも抱いたっけ。
今回の日曜日の勉強会だって、この流れなら私は行く必要はないだろう。当然だ。三年生の勉強会に二年生が行ったってしょうがないんだから。
わかってるんだけど、やっぱり疎外感を感じる。
そんな、ちょっぴりネガティブな気持ちが私の中に沸き上がってきて、小さく、本当に小さく息を吐いた。
すると。

「あずにゃんは日曜日に用事あったりする?」
「へ?」

唯先輩がいきなりそんなことを訊いてきて、私は面食らった。

「な、何で私の予定を訊くんですか?」
「え? あずにゃん来ないの?」

え、どうしてそんな悲しそうな顔するんですか。

「だって私は二年生ですし、行ってもお邪魔になるだけだと思うんですけど……」
「ええ~! やだよ、あずにゃんも来てよ~」

唯先輩はまるで駄々っ子のように言う。普通に聞けば、いつもの唯先輩の我がままなんだろうけど。
……もしかして、唯先輩には私の気持ちがバレちゃってるんだろうか。私が寂しいって思ってるって気がついて、気にかけてくれてるんだろうか。
普段はぽわぽわしてる人だけど、意外と鋭いところもあるからあながち間違いでもないかもしれない。というか、間違いじゃないだろう。
はぁ。
いや、そうだとしても、きっとこの人にとってはたわいもない、後輩への気遣い。
それ以上でも以下でもないはずだ。
……そう、そのはずなのに、嬉しいと思う自分がいるから、質が悪いったらありゃしない。
そんなことされちゃ、勘違いしてしまいそうになるじゃないか。
私は唯先輩に特別に想ってもらってるんじゃないか、なんて。
そんな有りもしない幻想を抱いてしまいそうになるじゃないか。

この際だから、カミングアウトしておこうと思う。
私は唯先輩が好きだ。
この『好き』というのは、単なる先輩への好きや友達への好きとは違う。
あの甘い声で『あずにゃん』と呼ばれるだけで嬉しくなってしまうほど、好き。
触れられるとそこから体温が一気に上がってしまうほど、好き。
抱きつかれるとあたたかさや柔らかさで気が遠のいてしまいそうになるほど、好き。
そして。
あの桜色の形の良い唇に口づけしたくなるほど、好き。
もっと色々なところに、誰にも許したことがないであろうようなところに触ってみたくなるほど、好き。
ずっと一緒に居たいって思うくらい、好き。
私の好きは有り体に言って、LOVEなのだ。
この想いに最初に気づかされたのは、多分一年前の文化祭ライブ。あの時の唯先輩体調不良事件で、私の中での唯先輩の大きさを知った。
あの人が居ないだけで、自分がどれほど悲しい、寂しい思いをするかを知った。
その時に点いた恋の火。それはあれからまた一年間、春夏秋冬を軽音部で過ごしてく内に、私の中でどんどん燃え上がって。熱くなって。
大きくなり過ぎた火は炎となって、次第に私を焼き焦がしていった。
だから、私は冷静になる。
客観的に、世間一般、マジョリティの視点で私自身を、私の恋を見つめて、冷やすように。水を浴びせかけるように。

私の想いはキモチワルイ。
私は女の子で、唯先輩も女の子で。それなのに、私は唯先輩に対して劣情を催している。
はっきり言って、異常だ。
歪で、非生産的で、そしてどこまでも間違っている。
居てもたってもいられなくて、インターネットで調べたりもした。そこである言葉を見つけた。
『思春期同性愛』。
それは思春期の終わりと共に失われる一過性のもので、別段珍しいことではないと、あるホームページに書いてあった。
私は、歓喜したものだ。よかった。私の想いは本物じゃないんだ。もう苦しまなくてもいいんだって。

でも、それが違うということは、簡単に証明された。

私の想いは消えることなく、それどころか時間が経つにつれてどんどん強さを増していったんだ。そして、その邪さも。
よく調べたら『思春期同性愛』とは、女子は精神の成熟が早い分、同年代の男子の子供っぽさに辟易して同性に関心を向けやすい、とのことらしい。
私の場合には当てはまらないことが多かった。
私の想いは、多分本物。
そもそも、どう足掻いたところで私が今、唯先輩のことを好きだということには変わりがない。それが、本物であるとか偽物であるとかは関係なく。
私はやっぱりどうしても異常なのだった。

だから、決めた。私は騙し続ける。先輩達を、友人達を、家族を、そして、私を。
私は臆病だから、この異常性を表向きに出して堂々と生きていくことなんてできない。隠すことしかできない。
私は絶対に今の唯先輩との関係を、仲間との関係を壊さない。
それが、私の決めた生き方。

「唯先輩」
「ん、なぁに?」
「さすがにそろそろ離れてほしいんですけど……」
 
最初に私に抱きついてからずっと抱きついたままだった唯先輩に、わざと非難の色を強めて言う。
これ以上、密着し続けられると私の心がもたない。燃え上がる炎に焼かれてしまいそうになる。

「ぶ~、まだあずにゃん分を補給し切れてないのにぃ」

なんて、ブ―たれながらも唯先輩は私から離れた。
唯先輩が離れてしまって残念なんて、全然思っていない。もっと抱きついてて欲しかったなんて、微塵も思っていない。

「それで、あずにゃんも日曜日来てくれる?」

にこにこと笑って唯先輩は言うけど、その顔には『当然来てくれるよね?』と書かれていた。全く、強引な人なんだから。
そんな強引な優しさも好きだったりなんて、しない。

「……わかりました。行きます。でも、勉強のお邪魔にならないように憂と別の部屋に居ますから」
「ええ、あずにゃん、助けてくれないの~」
「私が何を助けられるっていうんですか」
「ええと、怒った澪ちゃんを宥める役とか……」
「私が参加したら絶対に澪先輩側に付きますよ? ていうか、そもそも澪先輩怒らせなきゃいいんですよ」
「う、それもそうだけど……」

唯先輩はしゅんと小さくなってしまった。
はぁ、まったく仕方のない先輩だ。

「たまに様子見に行ったりしてあげますから。放課後ティータイムの未来のためにも頑張ってください」
「うう、あずにゃんにそう言われちゃ頑張るしかないよ」

苦笑いで答える唯先輩に、私も「はい、頑張ってください」と笑って返した。

「よし、それじゃあ梓も参加するということで、次の日曜日の昼過ぎに唯の家、でいいか?」
「うん、おっけー」

澪先輩の最終確認に、唯先輩がピースで返事する。

「よし、じゃあそういうことで。唯も律もしっかり問題集やってくるんだぞ」
「えへへ、憂に何作ってもらおうかなぁ~♪」
「あ、カードゲームも持ってこっと」
「……お前ら、もうさっきの約束忘れたのか?」
「「ごめんなさい、ちゃんとやってきます」」

……しかし、果たして澪先輩の思惑通りまともな勉強会になるのだろうか。

「あ、じゃあ私はお茶とお菓子を持っていくわね~」
「マジで!? ナイスだ、ムギ!」
「わぁい、ムギちゃんありがとー」
「……ムギ」

うん、無理な気がしてきた。
まぁ、私も微力ながら唯先輩たちがちゃんと勉強できるようお手伝いさせてもらおう。
せっかく呼んでもらったんだし、ね。

この時の私は想像もしていなかったんだ。想像できるはずもなかったのだけれど。
あんなことになるなんて。

この日曜日をきっかけに。
私が守ろうとした今の生活は、関係は、終わりを告げることになった。




中編に続く!
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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

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