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SS ボケとツッコミ

2010.05.05 *Wed*
※唯梓
※ギャグテイスト
※結構キャラ崩壊しています。


『ボケとツッコミ』

「梓、今日も先輩たちの教室に行くの?」

お昼休み、教科書を机に仕舞って席を立った私に声をかけてきたのはクラスメイトで親友の鈴木純だった。
私は「まぁね」とその声に生返事をすると、お弁当を鞄から取り出す。今から先輩たちのクラスに行ってお昼を一緒にするのだ。

「何ていうか、迷惑じゃないの? ほら、後輩がそんなにお邪魔してたら他の先輩たちも気を使いそうだし」

いきなり、妙に棘のある口調で突っかかられた。何か気に入らないのかな。

「え~、そう言われても先輩からの誘いだし……」

唯先輩が一週間くらい前に「あずにゃん、これからはいっしょにお昼を食べよう!」って言ってきたんだ。
しかし、三年生の教室に行くのはさすがに緊張する。だから最初はお断りしようと思ったんだけど。

「だって、いっしょの高校生活はもう後一年しかないんだよ。少しでも長くいっしょに過ごしたいじゃん」

なんて言われちゃ、ね。
全く、我がままで仕方のない先輩だ。そりゃあ、唯先輩の言うことにも一理あると思うし? ま、お昼をいっしょに過ごすぐらいしてあげてるものやぶさかではない。
私は唯先輩と違って大人なのだ。
だから。
本当は誘いを断る気は一ミクロンもなかったとか。
お弁当のおかずを唯先輩の好きな物ばかりにして、物欲しそうな目でこっちを見てくる先輩に「あ~ん」してあげるのが楽しみだったりとか。
そのお弁当は実はいつもより一時間以上早起きして自分で手作りしているのだとか。
満面の笑みで「おいしい!」って言いながら食べる先輩を見て「ああ、もういっそ私を食べてください!」なんて思ってたりとか。
そんなことあるわけないじゃないか。じゃないか。
それに、大人な私には唯先輩の傍に出来る限りいないといけない、重大な使命があるのだ。それは――

「まぁまぁ純ちゃん。寂しいからってそんな言い方しちゃ駄目だよ」
「んなっ!」

肩をびくりと跳ねあげた純の後ろから、ひょっこりと顔を出したのはこれまたクラスメイトで親友、そして唯先輩の妹、平沢憂。
その顔はいつも通りのにこにこ笑顔。この子の笑顔は見ていて何だか癒される。姉とそっくりだ。

「最近梓ちゃんがお昼ご飯を一緒に食べてくれないから、純ちゃん拗ねちゃってるんだ~」
「べ、別にそういうわけじゃなくって……っ!」

純は頬を染めて、慌てて誤魔化すような仕草をした。ふむ、なるほど。そういうことか。寂しかったんだね、純。
私は自分より少し高いその頭に手を置いてあやすように撫でて、言ってやった。

「ごめん、私、ツンデレ萌えじゃないから」

そして、踵を返してさっさと教室を後にした。後ろから純が何か喚いている声、宥めてる憂の声が聞こえたけど、気にしない。
ちなみに私の好みは可愛くてぽわぽわしていて天然で、普段はおっちょこちょいだけどいざという時はかっこ良い、年上の人なんで。ツンデレ同級生は守備範囲外だった。

   ◇

正直、気が乗らない。いつものことながら三年生、先輩たちのクラスに向かうのはやっぱり緊張することで。
今も三年生の教室のフロアを歩いているだけで、どうしてか、周りからじろじろと奇異の目で見られている。この視線には慣れない。
ライブとかで人からの視線には慣れてるはずなんだけど。
あ~あ、嫌だなぁ。行きたくないなぁ。

「ねぇ、びっくりするぐらい良い笑顔でスキップしてるあの二年生の子って軽音部の……?」
「ああ、何か、あの子最近ずっと来てるのよ……。いつもすごくご機嫌だし」

しかしお呼ばれしているという理由だけでなく、さっきも言ったように私には行かなくてはならない使命があるのだ。いや、もはや天命といっても良いだろう。
それは他でもない、唯先輩に関すること。
あの人はご存知の通り、なかなかの、少なくとも私の人生で出会った人の中では群を抜いた天然さんである。漫才で言えば、紛れもなく「ボケ」役なのだ。
さて。「ボケ」には相方が必要だ。その名を「ツッコミ」と言う。
では誰が唯先輩の「ツッコミ」役を務めるのか?
律先輩は言うまでもなく唯先輩と同じ「ボケ」役だ。
澪先輩は「ツッコミ」だが、基本的には律先輩専属。
ムギ先輩は傍観者、若しくは唯先輩、律先輩と同じサイド。
憂と和さんは、唯先輩の保護者。
そこまで考えて、私は気がついてしまったのだ。。
消去法の結果、余ったのはたった一人。FA,中野梓。驚愕の事実! 衝撃の展開! 私の運命やいかに!? です。
嘘です。知ってました。
まぁ、間違いなく軽音部のツッコミ役であるということはわかっていたんだけどね。確かによくよく考えてみれば軽音部の、というより唯先輩のという方がしっくりくる。
私、とくに最近は唯先輩にばっかりツッコんでる気がするし。
うん、そうだよね。私は唯先輩のツッコミ役なんだ。ツッコミ、ツッコむ、唯先輩に突っ込む……

「……うえへへ」
「な、何か、すっごいにやにやしてない?」
「ほんとだ……」

あ、また変な目で見られた。やっぱり二年生がここにいるのが珍しいんだろう。
でも、私はツッコミ役として唯先輩の傍にいなくてはならないのだ。その一言一向一挙一動身体髪膚全てを受けとめなくてはならないのだ。
しょうがない。これは神の、上の思し召しなのだから。山田監督お墨付き。
本当は嫌なんだけどね。ほら、そういうのって面倒臭いし。唯先輩の異次元クラスのボケにツッコむのは大変だし。全く、自分の付き合いの良さには呆れてしまう。
そうこう言っている(思っている)内に、唯先輩たちのクラスである3-2が見えた。はぁ、やっぱり気乗りしないなぁ。
私は重い足を前へと動かした。

「いきなり、すごいスタートダッシュを切った!?」
「ウサイン・ボルト顔負けね……」

人の声が聞こえた気がしたけど、風になった私には届かなかった。

   ◇

「あっずにゃ~ん!」
「にゃっ!?」

私が教室のドアを開くか開かないか、ぐらいのタイミングで唯先輩が目の前に現れて猛烈なハグをぶちかましてきた。
いやまぁ、さすがに開いてからだけど。

「……ドアをぶっ壊しかねない勢いで疾風のごとく入ってきた梓と、昼休みになるや否やドアの前に腕を広げて待機し始めた唯と、どっちにツッコむのが正解なんだろうな」
「さぁ……。梓は昨日もだったけど。そろそろ先生に怒られるんじゃ……」
「というか、唯ちゃんは梓ちゃん以外がドアを開いたらどうするつもりなのかしら」

律先輩、澪先輩、ムギ先輩の声が聞こえる。でも、今の私にはその声に反応している余裕はなかった。
温かい体温に触れて、私の体温がどんどん上がる。
心地よい心音を聞いて、私の心音もどんどんうるさくなる。
柔らかい体が私を包んで、どろどろに溶かされてしまいそう。
唯先輩の腕の中はやっぱり天国で。もうどこまでもイケそうな気がした。

「あずにゃん、会いたかったぁ~」

ああ、先輩。私も会いたかったです。もっと、もっと抱きついて、くっついて、少しの隙間も許さないほどに密着して……

はっ!
い、いけない。思考がどこか彼方へ飛んで行ってしまっていた。どうも最近意識が飛ぶことが多い。う~ん、疲れてるのかな?
とにかく私がここにきたのは、唯先輩にツッコミを入れるためなのだ!
しかも、今はちょうどツッコミを必要とする場面。いきなりこんな場所で後輩に抱きつく先輩に対して、一言物申さなくてはならない。

「もう、唯先輩ったら。人前で恥ずかしいですよぉ」
「ふふ、あずにゃんが可愛らし過ぎるのがいけないの」
「そ、そんなことないです。唯先輩の方がずっと可愛いです」
「いやいや、あずにゃんの方がずっとずっと可愛いよ。ていうか、あずにゃん以上に可愛い子なんてこの世にはいないんだよ?」
「それは間違いですね。だって現に私の目の前に世界で一番可愛い人がいるんですから」
「え~、あずにゃんの方が可愛いって」
「唯先輩の方が可愛いです。いやもうほんとにかわ唯です」
「なぁ、そろそろその甘々ボケボケしたやり取りはやめにして、飯食わないか?」

律先輩が何故か呆れたような顔で話しかけてきた。ボケボケとは失礼な。ボケているのは唯先輩だけで、私はしっかりとツッコんでいただけじゃないか。
唯先輩は「そうだ、お弁当お弁当♪」と弾むように言うと(それもまた可愛い)、自分の席に向かって歩き出した。
もちろん、私を抱きしめたままだ。

「何でその歩きづらそうな体勢で当たり前のようにしっかりと歩けるんだろな……」
「へ? 何が?」

   ◇

「最近、唯ちゃんと梓ちゃんはべったりね~」

放課後の部室、私達いつものようにまったりと過ごしていた。練習しなきゃ駄目だな~と思いつつ、春のうららかな陽気が眠気を誘う。
素晴らしい、お昼寝日和だ。こんな日には何にも考えずにまどろんでいたい、と思うのはこの部に、唯先輩に毒されてしまった結果なのだろう。

「そんなことないですよ。普通です、普通」
「どこが普通だよ。唯の膝枕の上で猫みたいに丸くなってるくせに」

律先輩が言うように今の私はソファで唯先輩の膝に頭を乗せてごろごろしながら、先輩から「あ~ん」されるクッキーにぱくついていた。別に普通じゃん。
タイツ越しの太ももの感触はあったかくて、柔らかくて気持ちいい。思わず「にゃあ」なんて声が漏れてしまう。

「それにしても、梓も変わったな」
「何がですか、RITZ先輩」
「口頭だと微妙にわかりにくい! しかし梓、私の名前をそのまま食べてもおいしいけど、好きな食材を組み合わせていろいろなバリエーションを楽しめるクラッカーみたいに言い間違えるな。私の名前は律だ」
「失礼。噛みました」
「違う、わざとだ……」
「噛みまみた」
「わざとじゃないっ!?」
「唯先輩神可愛い!」
「堂々と有名作品の言い回しをパクったあげく、オチが強引過ぎる!」

いやいや、どんな会話も『唯先輩可愛い』と言えばオチがつくのですよ。律先輩はわかってらっしゃらない。
ついでに言うと私は「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」のネタをやった方が良かったのかもしれない。猫的に考えて。
や、こっちはこっちで敬語黒髪ツインテの要素があるか。

「や~ん、あずにゃんったら。じゃあ、あずにゃんは仏可愛いよ♪」

なでなでと頭を撫でられる。
ああ、ホントヤバい。相変わらず病みつきになりそうな居心地だよ……。そろそろ中毒になってしまうかもしれない。膝枕中毒(※ただし唯先輩に限る)。

「いや、でも本当に梓は変わったよ。入部したばっかりの頃ならこんなだらけた状況を見るやいなや『練習しましょうよ!』ってツッコんでたじゃないか」

澪先輩が昔を懐かしむような目でそう言った。その表情はどこか切なげで、もう戻らない日々に想いを馳せているかのようだ。

「律もすっかりツッコミ役になっちゃって……。私の仕事が減ったのは嬉しいけどさ」
「私は全然嬉しくないぞ。出来ることなら前みたいに唯といっしょにふざけてたいよ。でも、なぁ」

澪先輩と律先輩の視線が同時にこっちを向いた。
そして、同時に呟く。

「「梓がこんなになってしまうとは……」」
「『こんな』って何ですか!?」

うわ、すっごい気になる言い方された! 私は思わず唯先輩の膝から体を跳ね起こしてしまった。

「そうだな、まぁ端的に言えば――」

澪先輩は、そこで一度言葉を区切る。続けるべき言葉を探している、というよりは言っていいのかどうかを悩んでいるといった感じだ。
……何か、聞くの怖いかも。
そして、澪先輩は意を決したように頷き私の目を見据えると、こう言った。

「梓、唯と同じになってるぞ」
「えっと、おっしゃってる意味がよくわからないんですが……」

同じ、とはどういうことだろう。

「だって、さっきも言ったけど昔は唯とか律のボケに対して梓がツッコむっていうパターンだったじゃないか。それが今じゃあ唯のボケに梓もボケて」
「エンドレスボケ、だな」

澪先輩の後に律先輩が続ける。
……ええっと、何だ、つまり、私がボケ役になっていると? いやいや。

「それはないでしょう。私、しっかり唯先輩にツッコミいれてますよ」

今日のお昼休みだって、終始私に抱きついていた唯先輩に対して色々言ったし。

「『先輩、口にハンバーグのソースついてますよ』
『ほんと? じゃあ、ん』」
『仕方ないですね~。じっとしててくださいよ……ほらとれた』
『えへへ~。ありがとー。でも……』
『でも、何ですか?』
『舐めて取って欲しかったなぁ、なんっちゃって♪』
『もう、何恥ずかしいこと言ってるんですか~。……それは二人きりのときに、ですよ』」

律先輩が奇妙に甘ったるい声色で一人芝居を始めた。うん、なんていうか。

「りっちゃんきも~い」
「弁当の時のお前らのやり取りだよ!」

唯先輩、率直過ぎます。私も思ったけど、口には出せませんでした。そんなところも素敵です。

「で、その会話がどうかしたんですか」
「この会話のどこにボケツッコミの漫才的要素があるってんだ!」
「え、『仕方ないですね~』って言ってますよ」
「ぬるいっ! ツッコミというものの定義がぬるすぎるっ!」

何ですと。私のツッコミスキルがぬるいとおっしゃるか。
軽音部に入部して早一年。先輩方の様々なボケにツッコミ続けたこの中野梓のツッコミスキルを。
まったく、舐められたものだ。

「……いいでしょう。そこまで言うなら本気を見せてやるです。唯先輩!」
「え、えと、何かな、あずにゃん」
「ボケてください」
「へ?」
「だから、今すぐボケて!」
「お、おい梓、一体何を」
「今から私のツッコミ力をみなさんに見せつけてやります!」
「ツッコミ力て……。大体、その行動がすでにツッコミ待ちのボケであることに気づいてくれ」

澪先輩が何か言った気がするけど、気がするだけなのできっと気のせいだろう。

「う、う~ん、と、無理だよぉ。そんないきなり言われても……」
「頑張ってください!」

うんうん唸ってる姿も可愛いです、先輩!

「というか、どうして梓ちゃんはそんなに唯ちゃんのツッコミ役に拘るのかしら?」

ムギ先輩からのふいの質問に私は面食らった。

「べ、別に、拘ってるわけじゃないですけど」
「そう? まぁ確かに今の梓ちゃんはツッコミ役とは言えないわね。りっちゃんや澪ちゃんが言うとおり、唯ちゃんのボケにボケで返してるだけですもの」
「そんなことないです! 私はちゃんとツッコんでますっ」

思わず語気を荒げてしまい、はっと口を押さえるものの時すでに遅し。

「ほら、やっぱり拘ってるじゃない」
「ううぅ」

ああ、もうそうですよ。
認めますよ。
仕方なく、みたいに言ってたけど。
乗り気じゃないとか言ってたけど。
面倒臭いとか言ってたけど。
本当は私は、自分から進んで唯先輩のツッコミ役をやりたいんだ。
頭の中で誰にでもなく言い訳をし続けていたけど、唯先輩のツッコミ役でいられることが嬉しいんだ。

「どうしてそんなに唯ちゃんのツッコミ役で居たいのかしら?」

もう一度、同じ質問を投げかけられる。

「どうしてって、そんなの――」

最近考えてしまう。私と唯先輩の関係って、何なんだろうって。
そしたら、気づいてしまった。
桜が丘高校の生徒同士、部活の先輩と後輩、放課後ティータイムの仲間。
それだけ。
私達の関係を表す言葉は、実はそれほど多くなかった。
まぁ普通なら、これでも十分だろう。桜ケ丘高校で、澪先輩に匹敵する人気を誇る唯先輩とこれだけ近い関係にいる後輩は、妹の憂を例外とすれば私だけなのだから。
でも、私はそれでは満足できないみたい。
ひとつでも多く、私と唯先輩の関係を定義する言葉が欲しい。その数で、私たちの絆の強さが決まるというわけじゃないんだろうけど、それでも。
ツッコミ役とボケ役ってのは、またひとつの関係性を表す言葉だから。

「――だから、私はとにかく唯先輩の特別になれる何かが欲しいんです、なんて言えるわけないじゃないですか」
「「…………」」
「♪~」

律先輩と澪先輩が唖然とした顔で、ムギ先輩がいっそ恐ろしいくらいの良い笑顔で、私の方を見てきた。
え? みなさん、一体どうしたんですか?
私が脳内にハテナマークを飛ばしていると、

「あずにゃ~んっ!」
「うにゃっ!」

まさに猪突猛進。唯先輩が一直線に私に飛びついてきた。
猪ってか、うりぼうですね。この愛らしさは。
じゃなくて。

「な、何ですか?」
「あずにゃんがそこまで私のことを想ってくれてたなんて……」
「へ? 唯先輩、一体何を――」
「え、だってあずにゃん、私の特別になりたいんでしょ?」

なん…だと……。
あ……ありのまま今起こった事を話します!
『いつの間にか唯先輩が私の気持ちを知っていた』
な……何を言ってるのかわからないと思いますが、私も何をされたのかわかりません。

あれ? 

ムギ先輩にツッコミ役に拘る理由を聞かれて。
それから、私はどうした? 何て答えた?
私は、さっきの私自身の行動を思い返す。思い返して――

「唯先輩、超能力者だったんですか!?」

私の行動には何も問題が見当たらなかったので、もうそんな答えしか出てこなかった。

「普通に自分から暴露してたじゃん!」

律先輩が何か言ったが、耳を傾けたら負けな気がしたので無視。
それより、なぜかはともかく唯先輩に私の気持ちを知られてしまったということの方が大問題だ。

「あの、唯先輩」
「ん、なぁに?」

唯先輩はさっきからずっと私に頬ずりをしている。
唯先輩の頬はマシュマロみたいにふわふわしていて、すごく気持ちが良い。この瞬間、まさにふわふわた~いむ。
じゃなくて。

「……気持ち悪くないですか?」

私が心に浮かんだ不安を口にすると、唯先輩は驚愕の表情になって、私から離れた。

「も、もしかしてほっぺたすりすりされるの、気持ち悪かった……?」

そして、涙目。俯きがちなので、上目遣いになっている。
これを打算なしにやってるってんだから、唯先輩、恐ろしい子!

「ち、違います! それはすっごい気持ちいいというか、もっとやってくださいというか」
「そうなの? じゃあ、遠慮なく」

またもや、私に抱きついてほっぺたすりすりを再開。
にゃ~、暖かい……じゃなくて。

「あのですね、私が訊きたかったのは――」
「あずにゃんの気持ちが、ってこと?」

至近距離でじっと見つめられる。澄んだ綺麗な瞳に私の顔が映った。ああ、何て情けない顔をしてるんだろう。私の心をそのまま映し出したような、今にも泣き出してしまいそうな表情。
そのまま、私は唯先輩の言葉を待つ。

「気持ち悪いだなんて、思うわけないよ」

唯先輩が口を開いた。そして、天使のような満面の笑みを浮かべる。

「私だって、あずにゃんの特別になりたいもん」
「えっ……」
 
唯先輩から笑顔が消えて、その表情が真剣味を帯びたものになる。まるで、ギターを弾いている時のような顔。
ヤバいヤバい、その表情は、やヴぁい。
カッコ良すぎる。普段のかわ唯先輩じゃなく、かっこ唯先輩になってる。それは反則だ。
顔が熱い。体内の熱がどんどんと上昇していく。
すっと、私の耳元に唯先輩の口が寄った。
そして、

「ねぇ、梓ちゃん。私とお付き合いしない?」

ぼんっと、私の脳内はショートした。

「はぇ? え、あの」
「私としては、もうあずにゃんとの仲は恋人同士みたいなものだと思ってたんだけどね~。でも、あずにゃんがそんな風に悩んでるなんて知らなかったよ。気づいてあげられなくてごめんね?」
「え、いや、その」
「私はあずにゃんのこと、梓ちゃんのこと大好きだよ。というかもう、愛してる」
「ふぇぇ」

完全に唯先輩にペースを握られている。何も言えない、何も考えられない。

「それで、どうかな。お返事は?」

いつもの、ほんわかとした笑顔とはちょっと違う、どこか大人びた笑顔で唯先輩は私に訊いてくる。

「ズルいですよ……」

本当にズルい。こんな時に、そんなカッコ良いなんて、
私は、自分からぎゅっと唯先輩に抱きつく。唯先輩も抱きしめ返してくれる。ああ、どうしてこの人の腕の中はこんなにも落ち着くのだろう。
そのまま深呼吸する。私の中が唯先輩でいっぱいになるような、そんな感じ。
幸せ。

「私も、唯先輩のこと大好きです。お付き合いして下さい」

こうして。
私たちは晴れて正式にカップルとなったのでした。

  ◇

「あいつら、私達の存在を完全に無視しやがって……。てか、付き合うってこれ以上いちゃつく気かよ」
「うふふ、こんな瞬間に立ち会えるなんて……。この一言を言わざるを得ないわ。キマシタワー!」
「……なぁ、ムギ。私さ、今日は本当にツッコミ疲れたんだ。ほんとはもう何も考えたくないんだよ。でもな、最初からずっとツッコミたかったことがあるんだ。それだけは言わせてもらう」
「あら、何かしら、りっちゃん」
「お前は何で一日中ビデオ回してんだ!」
「何で、とは愚問ね。唯ちゃんと梓ちゃんの愛の記録を余すことなく、完璧に記録するために決まってるじゃない」
「そのどや顔やめれ」
「あ、心配しなくてもりっちゃんと澪ちゃんの分は別にあるから」
「そんな心配してねーよ! つーか、そんなのあんのかい! ……はぁ、心配なのはムギの行く末だよ、全く」
「りっちゃんがもらってくれるんじゃないの?」
「ムギの受け入れ先って意味での行く末じゃねぇから」
「私は二号さんでも全然構わないわ」
「がぁ~! もう私一人じゃツッコミ切れねぇ! 澪、助け――」
「はぁ、私も唯と梓を見習って律と特別な……」
「あ、何か現状の軽音部には私を助けてくれる人は居ないっぽいや……あはは」
「これからもツッコミ頑張ってね。あ、ツッコミって言って卑猥な妄想しちゃめっよ、りっちゃん♪」
「……どうしてこうなった」

桜が丘高校軽音部は今日も平和です。




りっちゃんの最後のセリフは、そのまま私の心の叫び。
本当に、もっとギャグの勉強をしなければ……。

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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

当ブログは、リンクフリーとさせていただきます。
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