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SS ウェザーリポート(1)

2011.01.30 *Sun*
※唯梓
※梓視点
※シリアス・悪口とか


『ウェザーリポート』

天気予報のように、人生予報みたいなものがあればいいのにと思う。

「明日は登校中に唯先輩と憂に出会うでしょう」
「明日は二時間目の数学の時間に当てられるでしょう」
「明日のお昼休みは純が私と憂に『英語の宿題、写させて!』と必死に頼みこんでくるでしょう」
「明日の放課後はいつも通りティータイムを楽しめるでしょう」

そうすれば、どんなことにだって対応できるし、何が起こったって驚かないでいられる。きっと可能な限り正しい選択をすることができるだろうし、失敗なんてほとんどしなくなるだろう。
だけどまぁ、人生そんなに甘くない。
何が起こるかわからない。何が正しいかわからない。
人生って、未来って、そういうもんだ。

だけど、天気予報を見て、しかもそれが正しかったとき、ふとそんなことを思ってしまうのだ。
天気予報みたいに、人生も予報してくれたらいいのに、なんて。

本日の夕方頃まで雨は続きますが、その後は晴れて夜には星空が顔を見せるでしょう。

朝、いつも見ているテレビ番組の中でやっている天気予報で、気象予報士のお姉さんが言っていたセリフ。
天気予報というやつは百パーセント的中するわけではないにしろ、概ね正しい。晴れだと言って雨が降ることや雨だと言って晴れることは、ないとは言わないが、年間を通してもそう多くはない。
今日の天気も、ばっちり正解のようだ。
学校を出た頃にはぱらぱらとちらついていた雨も、今ではすっかり上がってしまった。白と赤のタイルで舗装された道には依然大小の水たまりが残っているけど、空を見上げれば所々に雲の切れ間も見ることができる。
この調子なら天気は予報通り回復していくだろう。
道行く人達も次々と傘を閉じていく。そりゃあ雨具として使う傘である以上、雨が上がれば差す意味もないのだから当然なのだけど。

「そろそろ傘を閉じてもいいんじゃないですか、唯先輩」
「えー、やだよー」

そんな中で、未だに傘を差して歩いているのが、私、中野梓と、隣を歩く平沢唯先輩だった。
隣、と言うのも、一人一本の傘を持って並んで歩いているわけではない。
一本の傘に、二人分の体。

「せっかくあずにゃんと相合い傘してるのに」

そう、相合い傘。
人とすれ違う度に「あの子達、もう雨上がってるのに」「仲良いわねー」みたいな視線を受けるのが少し恥ずかしい。そういう気持ちもあって、一応「閉じてもいいんじゃないですか」と提案してみたのだけど、予想通りというかなんというか、唯先輩は満面の笑みで拒否してきた。
まぁ、私も別に嫌じゃないけど。

むしろ、今はできる限り近くにいたい気分だった。

「はぁ、相合い傘って素晴らしいネーミングセンスだよね」
「え、どういうことですか?」
「だって相合いって愛するの『愛』で『愛愛』とも書けるじゃん」
「まぁ、音だけなら」
「すごいよねー。愛愛傘。LOVELOVE傘だよ? 私とあずにゃん、絶賛らぶらぶ中! みたいな」

にこにこと笑いながらそんなことを言われて、頬が少し熱くなるのを感じる。
照れ隠しに「はいはい、よかったですね」とツンとした反応を返してみたけど、バレバレらしく「照れてる照れてる」なんてからかわれてしまった。   

「よっ、ほっ」

突然、唯先輩がステップを踏み出した。相変わらず行動の読めない人だ。

「何ですか、いきなり」
「えっとね、タイルの赤いところだけ踏んでいこうかなって」
「もう、また小学生みたいなことを」
「よし、じゃあ、あずにゃんも赤いところだけだからね!」
「え、ちょっと!」

唯先輩はぴょんと、前へとステップを踏む。私は一瞬戸惑ったのものの「やれやれ仕方ない、付き合ってあげよう」と思うと、赤いタイルだけを踏むように歩みを進める。
女子高生二人が、雨も降ってないのに相合い傘。しかもその上、二人仲良く踊るようにステップを踏んでいるのだから、傍目から見てそれはそれは珍妙な光景だろうなと思った。

唯先輩は笑っていて。
「マンホールはセーフだからね」とか「あ、水たまりに靴ひもが!」とか言ってはしゃいで。
だから私も笑うけど。

でも、唯先輩。

あなたは今、本当に心から笑っていますか?
その笑みの裏側に何かを隠していませんか?

それがわからないから、私は心から笑えない。不安は棘になって私の心を刺す。じくじくと痛む。

だってあんなことがあったのに。
だってあんなことを言われたのに。

そんな表情でいられるような心境じゃないはずなのに。

どうしてあなたは笑っていられるの?

  ◇

「中野さん、あなたのことが好きです。付き合ってくれない?」

登校中に唯先輩と憂に出会って一緒に登校し。
二時間目の数学の時間に当てられた問題がちょっと難しくて困って。
お昼休みに純が私と憂に『英語の宿題、写させて!』と必死に頼みこんできて。
放課後はいつも通りティータイムを楽しんだ。
そんないつもと変わり映えのない普通の一日の終わりのことだった。

私は告白された。

どうしてそんなことになったのか。思い返しても、本当に突然のことだったと思う。
練習を終えて、私は先輩達と一緒に帰宅しようとして。
律先輩と唯先輩が澪先輩をからかって、澪先輩がそれに怒って(でもげん骨を食らうのは律先輩だけだ)、ムギ先輩はそんなやり取りを楽しげに見つめ、私も呆れ顔を作りながらも楽しんでいる、そんないつもの私達。
いつもと違ったのは、私が下駄箱を開けたときからだった。

「お? 梓、何か落ちたぞ?」

何かが滑り落ちて、律先輩が『それ』を拾い上げた。

「え、あれ、それって」

私の下駄箱の中に入っていたらしいそれは、可愛らしい封筒だった。
丁寧にハートマークのシールなんか張っつけて、裏に『中野梓さんへ』と書かれている。
そう、まるで――

「……もしかして、らぶれたー?」
「「「「ええぇぇ!?」」」

澪先輩の言葉に、私含め残りのみんなが驚愕する。

「だ、だってそんな可愛い感じの封筒だし。下駄箱に入ってるなんていかにもだし」
「いやいや、わからんぞ。不幸の手紙とか果たし状とかかもしれん」
「……あずにゃんに、らぶれたー」
「ねぇねぇ、梓ちゃん。開けてみない!?」
「ム、ムギ先輩、興奮し過ぎですよっ」

私はいきなりテンションの上がったムギ先輩の勢いに押されるように、封筒の口を開ける。

「……便箋、ですね」
「で、何て書いてるんだ?」
「ちょ、ちょっと待って下さい。えっと」

後で思えば別に読まなくてもよかったのに、私は流されるままそこに記されていることを読みあげてしまった。

「『中野梓さんへ。前々からどうしても言いたかったことがあります。もしよろしければ、本日、部活動終了後で構いませんのでにお会いして頂けませんでしょうか。無理にとは言いません。でも、来て頂けたら嬉しいです。お待ちしております』」

便箋にはそれだけのことと、会う場所として指定されたクラス、差出人の名前が書かれていた。私は知らなかったが、どうやら先輩達と同じ学年の人らしい。

「この子、知ってるよ。確か学年でトップクラスの成績の子だよな」
「ああ、そうだそうだ。同じクラスになったことないから喋ったことはないけど。結構有名人じゃん」
「やっぱりこれ、言いたいことって告白かしら?」

私を置いてけぼりにしてやいやいと騒ぐ先輩達。

「でもさ、告白ったって、なぁ」
「そう、だよな~」
「そうよねぇ」

澪先輩、律先輩、ムギ先輩が揃って顔をある方向に向ける。
その視線の先には、さっきから押し黙っている唯先輩。

「あずにゃんに、らぶれたー」
「おおい、唯! 帰ってこい!」

いや、正確にはぶつぶつ小声で呟いている唯先輩、だが。俯き気味で表情が暗く、ちょっと怖い。

「あずにゃんに、らぶれたー」
「うわぁ、駄目だ。おい、梓なんとかしてやれ」
「何で私なんですか……」
「何で、ってそりゃ」

律先輩はばちんとウィンクを決めて、それから

「唯の面倒をみるのは『恋人』であるお前の役目、だろ」

からかいの口調でそう言った。

そう、私と唯先輩は付き合っている。付き合い始めたのは進級する前のことだったから、かれこれ半年ぐらい、だが。
どうしてか、私は唯先輩から目が離せなくなっていて。気がつけば唯先輩を目で追っていて。
本当に不思議だと思う。
ぐーたらで、マイペースで、練習はしないし、変なあだ名付けてきたり過剰なスキンシップで私を困らせてばかりの人なのに。

絶対に嫌いになんてなれなかった。
絶対に好きにしかなれなかった。

私が今までで出会ったどんな人よりも、好きになった。
恋を、したんだ。

同じ女の子同士で、しかもよりにもよって相手は唯先輩で。だから、報われることなんてないと思っていたんだけど。

(人生、何が起こるかわからないもんなんだな)

そんなことを思いつつ、私は恋人の、唯先輩の肩をゆする。

「唯先輩、正気に戻ってくださいっ!」
「はっ! おお、あずにゃ~ん!」
「わっ」

いきなり抱きつかれた。これはある意味正気に戻ったと言っていいのだろう。正気に戻って公衆の面前で抱きつかれるのなら、戻ってもらわなくて結構だが。
いくら恋人同士になれたからといっても、恥ずかしさの感情は変わらないのに。いや、そういう関係の二人として見られるから余計に恥ずかしい。

「わわわっ」
「いやいや、お熱いことで」
「もうちょっとそのままで! 今ビデオカメラ準備するから!」

真っ赤な顔の澪先輩、にやにや顔の律先輩、鼻息荒いムギ先輩。……いや、この三人になら見られても、もうそこまで恥ずかしくないんだけどね。

「で、どうすんだ、梓」
「どうするって?」
「その呼び出し、行かなくてもいいのか」
「ああ」

律先輩に言われて、便箋のことを思い出す。
正直に言って、このときはまだ、自分がラブレターをもらったなんて実感はほとんどなかった。
どこか非現実的というか、自分のことではないような感じというか。
文面が事務的だったこともあって、ただ単にこの人が私に何らかの用事があるだけなんじゃないのかとさえ思っていた。突然のことで頭が回っていなかったのだ。

「とりあえず行ってきます。何だか待っててくれてるみたいですし。何のお話かわかりませんから」
「まぁ、確かにそうだけど……。唯はいいのか?」

澪先輩が唯先輩にそんなことを訊く。
私に抱きつく唯先輩の体が一瞬強張った、気がしたけど、すぐに「行ってきたらいいと思うよ? あ、でもお話終わったら連絡してね。迎えに行くから」といつもの柔らかい声色でそう言った。

私は馬鹿だった。何でもうちょっと頭を使わなかったんだ。何でもう少し唯先輩の気持ちを考えなかったのか。
自分が逆の立場だったら気にならないわけがないと、どうして少しでも考えなかったのだろう。

私は唯先輩の言葉に「わかりました」とだけ応えると、一端先輩達と別れ、指定された教室へと向かった。

ああ、やっぱり天気予報ならぬ、人生予報があればよかったのに。
明確なものでなくていい。ただ、「明日は傘を持ってお出かけしましょう」みたいに「明日は呼び出されても行かないでおきましょう」とだけでも言ってくれれば。
そうすれば、唯先輩を傷つけずに済んだのに。

三年生の教室がある階はしんと静まり返っていた。それもそうだ。部活動が終わる様な時間に、教室に残っている生徒なんて滅多にいない。
あまりに静けさに、ちらっと「もしかしていたずらだったりとかも」と思ったりもした。

そうだったらよかったのに。

指定された教室に着くとドアを軽くノックしてから、横に滑らせる。
その薄暗い教室では未だ雨の降りやまぬ曇天の空をバックに、一人の生徒が電気も点けず佇んでいた。

綺麗な人だった。

薄暗くて逆光だし、ドアから窓際までということでそこそこ距離もあるけど、それでもわかるほど整った顔立ち。綺麗な黒髪を肩の辺りで切り揃えていて、ムギ先輩とはまた違う、お嬢様然とした雰囲気を持つ人だと思った。

「あ、あの」
「来てくれてありがとう」

その人はそう言うと数歩、こちらに歩みを進めてくる。私も少し早歩きでその人も近くへと歩みよった。
そして近くで見て、確信した。
その人は、すごく美人だった。
和風美人とでも言おうか。着物なんかがものすごく似合いそうだ。凛とした空気を身に纏っていて、『高潔』なんて言葉が脳裏に浮かぶ。
ただ、目は少し吊り気味で勝気な印象だ。ちょっと苦手なタイプかも、なんてことをちらっと思う。私は、やっぱり唯先輩みたいにほんわかとした雰囲気の人の方が――
って、いやいや会って早々そんな風に決めつけちゃいけない、と心の中で頭を振る。
決めつけてしまうのは楽だけど、それだけでは何もできない。どんな関係も築けない。ちゃんと相手を見て、考えなきゃいけない。
唯先輩に出会って、私が学んだことでもある。

「ええっと、これの差し出し人の方ですか」

そう言って、私は便箋を見せる。にこりと優雅に微笑んで「ええ、そうよ」とその人は頷いた。
やっぱり笑顔も綺麗だった。ただ、テレビで女優さんが見せるような笑顔というか、どこか作り物のようというか、少しだけ胡散臭さを感じる。
う~ん、私は唯先輩のような素朴な笑顔が好きだな。

「中野さん」

声もよく通る、澄んだ声だ。ボーカルに向いてるかも。
いやいや、でも私は唯先輩の可愛らしい声の方が好きだけど。
と、そこでさっきから自分が目の前の人物と唯先輩を比較して「唯先輩の方がいい」と結論付けてばかりいることに気づいて、何だかんだ言って、私って唯先輩に完璧に惚れてるんだなと少し照れくさくなる。
そんな惚気たことを考えていたから、その人の次の発言にすぐに反応できなかったのだ。

「あなたのことが好きです。付き合ってくれない?」

「……へ?」

そのときの私の顔は、恐ろしく間抜けなものだったろうと思う。
その人は手を口元に当てて、くすくすと可笑しそうに、でも上品に笑う。

「あら、もしかして告白されるだなんて思ってもいなかった?」
「え、えっと」
「私、文章が下手だから、情熱的な口説き文句なんてとても書けなくてね。直接言っちゃう方がずっと簡単だから、来てもらったの」

わざわざ放課後の教室に呼び出されるんだからそういう心持ちでいてくれると思ってたけど、と言って、その人はまじまじと私を見る。何だか居心地が悪い。
とにかく、何か言わなくてはと思って、私は口を開いた。

「あ、あの、私はあなたと初体面だと思うんですが、もしかしてどこかで会ってたりとかします?」
「ううん、話すのは初めて」

そのとき、私を見る視線が熱を持ったように感じた。居心地の悪さがさらに増す。

「ずっと見てたの。去年、中野さんが文化祭のライブでステージに上がってから。可愛い子だなって思って」

両肩を掴まれた。それが何だか怖くて、少しだけ後ずさりする。それには気付かずにその人は言葉を続ける。

「私、この際だから打ち明けるけど女の子しか好きなれないの。それでね、こんなこと言うのも恥ずかしいんだけど、中野さんに一目惚れしちゃって」

視線だけでなく、言葉にも熱が籠る。肩を掴む力が少し強くなる。
はっきり言って、怖かった。
このままこの言葉を聴き続けているのは良くない。そう思うのに、まるでメドゥーサの首に魅入られてしまったかのように、私の体は、口は上手く動かなくなっていく。

「中々想いを打ち明けるかどうかも迷ったんだけどね。でも、もう限界。見ているだけなんて飽き飽きだわ」

そして、その人は言葉を放つ。
魔法のようであり、同じくらい、呪いのようでもある、そんな言葉。

「あなたが好きです」

ぞくりっと背筋に嫌な感覚が走った。
嫌。嫌なんだ。

「あなたが好き。初めて話した人にこんなこと言われるのも吃驚だろうけど、でも私の素直な気持ちなの」

その言葉を、全く知らないあなたのような人に言われたくない。そんな真剣な眼で見つめられて、言われても嬉しくない。困るだけだ。
私がその言葉を望むのはたった一人の相手だけ。

「ごめんなさい」

私は気持ちを奮い立たせて、大股で一歩、後ろに下がる。肩から手が外れて、心の中でほっと息を一つ吐いた。
それから、相手の目を見据える。
その目には一瞬驚きの色が見えて、それから落胆の色へと変わっていった。
そんな様子を見て、少し可哀そうだと思ったけど、でも仕方がない。どうしようもない。

「私はあなたとは付き合えません」
「……そう」

その人は顔を伏せてしまった。表情が窺えない。
辺りを静寂が包む。雨の音すら聴こえない。少しだけ心臓の鼓動が速い。でも、これはあまり気持ちのいいドキドキではなかった。
ともかく俯いてしまったその人に何と声をかけよう、と悩んでいると、ぽつり呟くような声が私の耳に届いた。

「理由、訊いてもいい?」

理由、か。
そんなのは決まり切っている。

「やっぱり、女の子同士なんておかしいから?」
「違います。私は女の子同士の恋愛はありだと思ってますから」
「じゃあ、初対面の人といきなり付き合うのは、無理、とか。やっぱり性急過ぎたかしら」
「そういうわけでもないです。まぁ、確かにちょっと戸惑いましたけど……」
「だったら」
「付き合ってる人がいるんです」

このまま律儀に質問に答え続ける意味もない。ただ一言、そう言ってしまえばお終いだ。
付き合ってる人がいるから、あなたとは付き合えません。
告白を断る際の応答としては、百点満点だろう。
これで、この居心地の悪い空間からおさらばだ。せっかく告白してくれたこの人には悪いけど、そろそろこの空気に耐えられない。
さっさと出ていって唯先輩に連絡を取ろう。今ならまだ追いつけるかも。
そんなことを考えていたときだった。
相手の人が顔を上げた。

「ねぇ、もしかしてその付き合っている人って、平沢唯さん?」
「えっ? な、何で」
「あら、やっぱりそうなの?」

いきなり唯先輩の名前が出てきて、びくっとする。いや、私をライブで見たというのなら唯先輩のことも当然知っているか。同級生でもあるし。
ただ、なぜ、私が付き合っている人として出てきたのかはわからない。
だって、わざわざ私に告白してくるってことは私が唯先輩と付き合っているということは知らないはずだ。

「何で、そう思うんですか」
「さっきも言ったでしょう。私はずっとあなたのこと見てたの。あなただけじゃなくて、あなたの周りの人も。その中で一番親しそうだったからまさかと思って訊いてみたのだけど」
「そう、ですか」
「その反応を見る限り、どうやら当たりみたいね。何だ、あなたも女の子と付き合ってるんじゃない」
「まぁ、そうですけど」
「ふ~ん、そっかぁ」

そう言って、相手は笑った。

くるり。

そんな音がした、と思った。

「せっかくそういう嗜好をもって女子高にいるのに、何で平沢さんなのかな」
「え?」

どういう意味なのか。そう問い返そうとして、でも、目が合って、私は何も言えなかった。
相手の人は笑っている。
でも、それはさっきまでの綺麗な笑みではない。

正確に言えば、嗤っていた。

熱を持っていた視線が、今は冷たい。綺麗だった瞳の輝きが、濁っている。口の形が、醜く歪む。
『くるり』と裏返って見えた表情。
それは、悪意に満ちた表情だった。

「わからないなぁ。何であんな子と付き合ってるのか。まぁ、ほっとけなさそうなタイプではあるかもね。あ、もしかして中野さんってああいうの守ってあげたくなるタイプ?」

何を、言ってるのか。
私には全く理解できなかった。

「私、無理なのよね、ああいう人。ちょっと可愛いからって、にこにこ笑っていれば他の人が何でもやってくれると思ってるでしょう。自分では何もしないし、できない癖に」

何なの。
やめてよ。
唯先輩はそんな人じゃない。

「いつも変な行動してるじゃない? それもやっぱりみんな『可愛い可愛い』って言って許してるけどね、私は正直イライラさせられるわ」

何で、あなたに唯先輩を貶されなきゃいけないの。
何も知らない癖に。
何もわかってない癖に。

「秋山さんとかならわかるけど、平沢さんは止めておいた方がいいんじゃないかしら。中野さんには吊り合わないわよ、あんなどんくさい子」

一気に私の中が、心がかっと熱くなっていく。
怒りで燃えていく。
唯先輩がどれだけ優しい人で、どれだけ頑張りやさんで、どれだけ私を助けてくれているか、知りもしないで、よくも。

「ね、女の子がいけるなら、平沢さんなんかとはさっさと別れて私と――」
「ふざけないで」

自分でも驚くほど低い声が喉から漏れて、次の瞬間、手が動いた。
ぱしん、と乾いた音が、教室に響く。
どうやら私は相手の頬を叩いたらしい。そんなことしようとは思ってなかったけど、条件反射的にやってしまった。
でも、それぐらい私は激昂していたのだ。

すぐに私は踵を返すと、部屋のドアへと向かっていく。
こんな所に、あんな人の前にもう一秒でも、一瞬でも居たくなかった。

ドアに手を掛けた所で、私は首だけ回してちらっと後ろを確認する。その人は私に打たれた頬に手を当てて、呆然としていた。
もう会話なんてしたくなかったけど、でもどうして一言だけ、言っておきたいことがあった。

「唯先輩は、あなたなんかよりもずっとずっと、何百倍も何千倍も、素敵な人です」

相手の声をもう聴きたくなかったから、私は言うだけ言って、ドアを開けて出ていこうとして。

そこでドアに聴き耳を立てるようにへばりついていた唯先輩を発見した。

「……へ?」
「……えっと、や、やっほー」




ウェザーリポート(2)
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COMMENT

No title
お久しぶりですーw

いやいや・・・

あぁゆう人いたら怖いですねーww

続きも頑張ってください!
2011/01/30(日) 12:08:09 | URL | くろ #- [Edit
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2011/01/31(月) 00:48:29 | | - # [Edit
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2011/02/03(木) 14:58:04 | | - # [Edit

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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

当ブログは、リンクフリーとさせていただきます。
コメント、拍手等でご報告いただければ、相互リンクさせていただきたいと思います。



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