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SS あなたとの、これから(2)

2011.01.14 *Fri*
   
   ◇

元旦とはいえ、九時を回ろうかという時間の神社は人もまばらだ。
屋台も大晦日とは違い遅くまではやってないらしく、ほとんどが店終いをしてしまっている。
まさに祭りの後、という感じだ。ここも昨日の夜は大賑わいだっただろうに。
そんな寂寥すら感じさせる中を、私と唯先輩は二人歩く。

「人少ないね」
「そうですね。もうちょっとぐらいはいるかと思いましたけど」

人ごみは好きでないので、別にいいんだけど。

「みんな初詣はもう済ませちゃったのかな?」
「まぁ、大晦日の夜とか今日のお昼とかに行く人が多いんじゃないですか。私達だってお昼に行ったわけですし」

そう、私達はもう初詣に行っているのだ。
それなのに唯先輩が初詣に行こう、だなんて言うもんだから「ああ、ごろごろし過ぎてついにボケてしまったんですか」と思った。というか、言った。
「あずにゃん、ひどいっ」と言う唯先輩の表情は、漫画だったらがーんっという擬音語が背景に描かれそうな感じだった。

「いやいや、今日、皆さんと行きましたよね? 神社」
「うん、行ったね」
「それが初詣。年が明けてから初めて神社とかに参拝することを初詣と言います」
「ぶー、知ってるよ」
「ですよね。というわけで、もう今年の初詣は終わりました。来年まで待ちましょう」
「はぁ、やれやれ。あずにゃんは物分かりが悪いなぁ」
「え?」

「『二人きりでの初』詣、だよっ」

と、まぁそんなやり取りがあって。
私と唯先輩はこの雪がちらつく寒い夜中に、わざわざ近くの神社までやってきたというわけだ。
……全く、『二人きりでの初』だなんて言われたら、断れないじゃないか。

しかし、寒い。

当然外に出かける以上はそこそこの厚着をしているのだけど、それでも寒い。境内を歩く私達に雪交じりの風が吹きつけてきて、否応にもその冷たさを感じる。
首をすぼめてマフラーで口元まで覆う。

「寒いですね」

私はそう言って、手の甲をちょんと唯先輩の手の甲に触れさせてみる。

「寒いね」

唯先輩はそう応えて、ぎゅっと私の掌を握ってくれる。

冬の寒い日はいい。
こうやって手を繋いでてても、腕を組んでも、周りから変な目で見られることはない。仲の良い女の子二人組、という括りで処理され、特に誰の目にもとまらない。
ずっと見ないでいてくれたらいいのに。
放っておいてくれたらいいのに。
そうしたら、私も唯先輩も、何の心配もせずにやっていけるのに。

賽銭箱の前は少しだけ列が作られていた。私達もその列にならんだけど、一分と待たずに私達の番になった。
軽く会釈をしてから、十円玉を一枚賽銭箱に入れる。隣で唯先輩が五百円玉を入れていた。悩みぬいた末(できる限り多く出した方が願いが叶いそう、かといってお札を投げ込むのには抵抗が云々)唯先輩は五百円を入れることにしたらしい。しかし、お昼のと合わせて結局千円の出費。太っ腹なことだ。
私は別に金額に意味があるとも思ってないので、適当にその時一番財布に多く入っている硬貨を入れるけどね。
それからお参りの作法に則って二拍二礼。頭を二回下げてから、ぱんぱんと拍手を二回打つ。
ここで祈願をするわけだけど。

神様にお祈りしたいこと、か。

別に深く考える必要も意味もない。願って叶うのならいくらでも願うし、祈りもするが、そんなわけはないんだから。
適当でいいのだ。世界平和とか、科学進歩とか、経済発展とかそんな誇大妄想なことを祈ってやったっていいし、当然自らの成功、幸せ、無病息災を祈ったって構わない。
神様がいるとかいないとかは知らないけど、私の願いを叶えられるのは神様じゃなくて私自身だけだってことは確実に言える。
他力本願で全てが上手くいくわけなんかない。

ちゃんとわかっている。

それでも。

(どうか)

それでも、願うんだ。願ってしまうんだ。

(どうか、これからもずっと唯先輩といっしょに、唯先輩の隣で生きていけますように)

   ◇

「……唯先輩、どんだけ長いこと願い事してるんですか」

お参りを終えて、私と唯先輩は家路につく。
本来ならおみくじを引いたり絵馬を書いたりするところなんだろうけど、それらはもうお昼にやったし、何より二人ともそろそろ温かいこたつが恋しくなってきたからだ。
しかし、唯先輩には参った。
私が最後に深く一礼して唯先輩を見れば、まだ唯先輩は拝んだ状態で。
最初のうちは「唯先輩のことだし、いっぱいお願いしてそうだなぁ」なんて微笑ましく見ていたものの、一分ぐらい経ってもまだ動こうとしない。後ろに並ぶ人達が少しざわつくのを感じた私は焦って「唯先輩、そろそろ行きましょうっ」と声をかけたのに「えぇ! まだまだお願い事あるのに!」なんて言うもんだから無理矢理引き剥がしてきたのだ。

「あずにゃんのいけず~」
「唯先輩が限度を知らないからです」
「だってお昼の時は人いっぱいだったし、みんなすぐに行っちゃうし全然お願い事できなかったもん。こっちなら人も少ないから気兼ねなくできると思ったのに」

気兼ねなさ過ぎでしょ。呆れて溜め息が漏れる。

「はぁ、一体何をお願いしてたんですか」
「えっと、ギター上手くなりますように、でしょ。おいしいものいっぱい食べられますように、でしょ。可愛いものにいっぱい出会えますように、でしょ、単位取れますように、でしょ――」

指折り数えながら、様々なお願いを挙げていく唯先輩。

今年もたくさんりっちゃんと騒げますように。
今年もたくさんの可愛い澪ちゃんの姿が見られますように。
今年もたくさんムギちゃんとほんわかお喋りできますように。
今年も憂と仲良し姉妹でいられますように。
今年は和ちゃんともう少し遊べますように。
今年も純ちゃんに面白い行動で笑わせてもらえますように。
今年はさわちゃんが幸せになれますように。

また少し雪が積もった道を並んで歩きながら、唯先輩の願い事リストを私は聞く。
挙げられども挙げられども、私の名前は出てこない。
結局唯先輩の家までの道のりの半分ぐらいまで来たところで「う~ん、こんなもんかな」と言い終わったけど、私のことについては何も言われなかった。
多分、何らかの意図があるんだと思う。みんなの名前を挙げておきながら、敢えて私のことには触れない理由。
一瞬だけ、訊くかどうか迷った。
何を言われるのか、怖いと思ったから。
でも、わからないことはもっと怖い。
だから、訊く。

「何で、私に関することは何もお願いしてないんですか?」

もしかしたらからかわれるかな、という考えも過る。「あずにゃん、やきもち~?」だなんてニヤニヤしながら弄られるかもしれない。
それならそれでよかったのに。

でも、そうではなかった。

唯先輩は立ち止る。
ちょうど街灯の真下。まるでスポットライトを浴びているような唯先輩の、その一歩手前で私も立ち止まった。
唯先輩の口が開いた。

「あずにゃんのことは、自分で何とかしなきゃいけないから」

いくらでも、言葉の返し様はあったと思う。
何とかって何ですか、とか。
ギターのことだって、単位のことだって、自分で何とかしなきゃいけないでしょ、とか。

だけど、私の口はまるで凍りついてしまったかのように動かない。口だけじゃない。体全体が、動かない。

街灯に照らされた唯先輩のその表情が、見たことがないほど、大人びていて、強いものだったから。

そんないつもと違う唯先輩を目の当たりにして、その姿を遠く感じて、その衝撃で何も言えなくなってしまったのだ。
見つめあった時間は多分一秒程度。
すぐに唯先輩は笑顔を浮かべて「さ、帰ろ」と歩みを進め出した。
視線が外れたことで、まるで魔法が解けたかのように体が自由になる。
次の瞬間、私はほぼ脊髄反射的に唯先輩のコートの袖を掴んでいた。

「あずにゃん?」
「……に……ですか」
「へ?」

言葉がうまく出てこない。喉に何かが詰まっているような感覚だ。
それでも私は顔を上げて、まっすぐ唯先輩の顔を見据える。そして戸惑った表情の唯先輩に向かって、声を振り絞った。

「何を、考えてるんですか」

唯先輩の考えていることが、わからない。

「どうしたいんですか。何を想っているんですか」

こんなにも近くにいるのに、わからない。

「その目に、ちゃんと私は映っていますか」

わからないことを、わかってあげられないことを恋人失格だと責められるならそれも仕方がないけど、やっぱり言葉にしてもらわないとわからないんだ。

唯先輩は無言で私との距離を縮める。
元々一歩強しかなかったその距離はあっという間に零になって、私は温もりに包まれた。

「最近唯先輩、悩んでるというか、何だか考え込んでることが多い気がして、それに抱きついてくるのも少し減った気がするし」

唯先輩にこうやって抱きしめてもらうのって、どうしてこんなにも気持ちいいんだろう。自然と素直な言葉が口から漏れだす。
ああ、そうだ。これが怖くて、初めのころは抱きつかれるのを嫌がってたんだ。いつか、妙なこと口走ってしまうんじゃないかって。

「よく見てるね」
「だって、唯先輩のことですもん」
「えへへ、そっか」

嬉しいな、と言いながら唯先輩は私の頭を撫でてくれる。私もぎゅっと唯先輩を抱きしめる。
離さないように。どこかに行ってしまわないように。
雪の降る、寒い一月の夜中。街灯の下で抱き合う二人の女子大生。あんまり普通の光景ではないな、と頭の片隅で思った。

「ちょっと、考え事してたんだ」

もちろんあずにゃんとのことでね、と唯先輩は言う。

「あずにゃんがいっしょの大学に来てくれて、またみんなといっしょにバンドを続けられて、私、今が本当に幸せ」
「それは私もです」
「へへ、そうだよね。……でも、だからこそ、考えちゃうのかな。この幸せはいつまで続くんだろうって」

私が考えていたことと同じようなことを唯先輩は言った。

「私達の関係って、やっぱり難しいよ。女の子同士の恋愛をよく思わなかったり、気持ち悪いと思う人だって、きっといるでしょ。これからもあずにゃんと恋人で居続けるってことは、私もあずにゃんも、そういう人に軽蔑されたり嗤われたりすることに耐えなきゃいけないってことだよね」
「……そう、ですね」
「何を言われるかわかんないし、どんな仕打ちを受けるかわかんないし、いっしょにいられなくなるかもしれないし、いても幸せになれないかもしれない」
「……」
「最近、すごく悩んでた」

唯先輩の言葉が、じくりと私の胸を抉る。
どうして、そんな否定的なことばっかり。
やっぱり唯先輩は考えて、変わってしまったのだろうか。私達のこの関係を終わらせようとしているのだろうか。

「だから、決めたの」

すっと、唯先輩が私を抱きしめる腕を離した。私は掴めない。引きとどめられない。顔を上げられない。

「あずにゃん」

優しい声が、私の耳をくすぐる。そっと頬に手が添えられて、私は自然と顔を上げた。
同時に、唇に暖かくて柔らかくて、甘い感覚があった。
視界いっぱいに唯先輩の顔。

ああ、そっか。キス、されてるんだ。

キス。
いつもなら、気持ち良くて、心が満たされて、あったかくなるんだけど、今は少しだけ違う。
唯先輩が何を思ってキスしてきたのかが、わからないから。

ねぇ、このキスの意味は、何?

「誓いだよ」

顔を離してから、まるで私の心の内を読んだかのように、唯先輩はそう言った。
まっすぐに私を見つめる瞳には、しっかりと私が映り込んでいる。強い決意の意志が見て取れる。

「あずにゃん。私が君を守るよ」

唯先輩は、普段の様子からは想像もできないような、はっきりとした口調で、そう言い放った。

「これからどんな辛いことが、悲しいことが私達を待っているのかは知らないけど、あずにゃんは、私が守る。この役目は神様なんかには譲ってあげないもん」

ふんっと意気込む唯先輩を見て、私はようやく気付いた。

唯先輩は少しだけ変わった。周りを見て、これからの行く末を思って、少し大人になった。
でもその変化は、私が恐れていたようなマイナスの変化じゃなくて、プラスへの変化だったみたいだ。

「だからさ、その、これからも私といっしょにいてくれるかな?」

照れくさそうにはにかんで、そう言う唯先輩に。

「――はぁ」

私は溜め息を吐くことしかできなかった。

もう、ほんとにこの人は。
どれだけ私を振り回せば気が済むのか。どれだけ私を悩ませたら気が済むのか。
ほんとに、ほんとにもう。

どれだけ私を嬉しくさせたら気が済むのだろうか。

「あ、あれ? あずにゃん? その、お返事は?」
「嫌って言ったら、どうするんですか」
「えぇぇぇ!?」

唯先輩の表情は、漫画だったらがーんっという擬音語が背景に描かれそうな感じだった。うん、いつもの唯先輩だ。
私は今度は自分から唯先輩との距離を零にして、その暖かい体に抱きついた。

「嘘ですよ」
「もぉ。まぁわかってたけどね」
「むぅ、唯先輩にわかられるとは、何だか癪ですね……」
「あずにゃんのことなら、何でもばっちこい!」
「……でも、わかってないこともありますよ」
「へ?」

きょとんとした表情を浮かべる唯先輩。

そんな表情も愛おしいと思いながら、その唇に私は自らのそれを重ねた。

今度のキスは気持ちがちゃんと通じ合っていて、気持ち良くて、心が満たされて、あったかくなるキス。
いつもの、唯先輩とのキスだった。

「ぷはっ。もう、びっくりしたぁ」
「さっき唯先輩だってやったじゃないですか」
「じゃあ、おあいこ様だね。それで、私がわかってないことって何?」
「……私だって、唯先輩を守ります。守りたいです。どんな辛いことからも、苦しいことからも。守られてるだけなんて、嫌ですから」
「……そっか。だったら、それもおあいこ様だね」

唯先輩はにっこり笑う。私も笑う。
幸せだと、心から思った。

「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「うん。あ、コンビニ寄っていこう。おでん買っていこうよ、おでん」
「いいですね~……って、ああ、こうやって体重が……」
「あずにゃんまで澪ちゃん達みたいなこと言うんだね」
「太る心配がない人はいいですね」
「あずにゃんはもっと太った方がいいんじゃない? この辺とか」
「きゃっ!? もう、どこ触ってるんですか!」

二人で手を繋ぎながら、静まり返った夜の町を歩く。
どこまでこうやって隣を歩けるのか。いつまでいっしょにいられるのか。
わからないことだらけの人生。
過去ですら曖昧で、今は不安定で、未来は不透明。
だからいつだって不安だ。神様に縋りたくもなる。

でも唯先輩は、それでも幸せな未来を願い、信じて、そのために頑張ろうとしている。
きっとそうするしかないし、それが一番なのだろう。

だったら、私も頑張ろう。
未来のために努力しよう。
今が幸せだというなら、これからも幸せでいられるように。
色々なことが変わってしまっても、大切なことはできる限りそのままであれるように。

「……ねぇ、唯先輩」
「ん、なぁに、あずにゃん」

「これからもずっとずっと、いっしょにいましょう」

何の確証もない言葉だけど。神様へのお願いとも何も変わらないような、ただの希望かもしれないけど。

唯先輩が満面の笑顔で頷いてくれる。少なくとも今は、それだけで十分だと思った。

「あ、そうそう。そういえばさっきお家で寝てるとき、夢を見てたんだけどね」
「初夢ですね。どんなのだったんですか?」
「ん~と、あずにゃんと富士山に登ってて」
「富士山?」
「そしたら鷹さんが飛んできて、私達の上をぐるぐる回っててね」
「……鷹、って」
「お腹減ったな~、って言ったら、鷹さんが茄子を落としてくれて、あずにゃんといっしょに焼いて食べたんだ」
「茄子!?」

どうやら、今年も幸多き一年となりそうだ。




というわけで、新年初SSでした。
今年が皆様にとって幸多き年になりますように!
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COMMENT

No title
なんでだろう、久しぶりに癒された気がする。

いやー、やっぱりいいですねぇ・・・
癒されましたww(2回目)

そして妄想力をものすごい使いますねw

唯梓は最強ですね!w
2011/01/15(土) 17:19:38 | URL | くろ #- [Edit
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2011/01/16(日) 13:25:47 | | - # [Edit

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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

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