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SS あなたとの、これから(1)

2011.01.14 *Fri*
※唯梓
※梓視点
※お正月SS
※シリアス




『あなたとの、これから』

一富士、二鷹、三茄子。
多くの人が知る、初夢に見ると縁起が良いとされるものを表す諺だけど、果たして本当にそんなものを見た人が存在するのかどうかは怪しいものだ。
少なくとも私は見たことがない。
寝る前に富士山のこととか、鷹のこととか、茄子のこととかばかり考えていれば見れなくもないのだろうか。でも、見れたとしてもそれだけで無駄に今年の運を使ってしまうような気がする私は、ケチくさい人間なのかもしれない。

どうして急に初夢なんかのことを、という問いに答えるならば、それは今日が1月1日、元旦だからである。

初日の出だったり、初詣だったり、年賀状だったり、お年玉だったり、かるたや羽根突きといった遊びだったり。お正月は楽しい事でいっぱいだ。
それから忘れちゃいけないお雑煮、おせち料理。
おいしいくて、しかも普段食べるようなものでもないから、ついつい箸が出てしまう。
……毎年のことだけど、お正月太りには気を付けなくては。どっかの誰かさんと違って、食っちゃ寝の生活をしていると体重計の針が軽快に回り出してしまう。
そう思いながら、私は隣でこたつに潜り込んで眠っている『どっかの誰かさん』こと平沢唯先輩の頭をそっと撫でる。ふわふわの髪の手触りが心地良い。私の髪を撫でては「綺麗でさらさらだよね~。羨ましいなぁ」なんて言ってくるこの人だけど、私はこっちの方がずっと好きだ。私には似合わない、とっても可愛らしい感じ。

「んぅ……むにゃ」

唯先輩が声を発したので、一瞬起こしてしまったかと思ったけどどうやら寝言だったらしい。
自然と零れた笑みのまま、私はその頭を撫で続ける。

私、中野梓は今唯先輩の家にいる。

昨日の大晦日は例年通り先輩達、憂、純と唯先輩の実家で過ごし、そのまま泊まっていっしょに年を越して、今日は初詣に行った。
おみくじで律先輩と純が仲良く凶を引いていたり、澪先輩とムギ先輩が体重の話で凹んでいたり、唯先輩はふらふら屋台を回っていたり、私と憂でそんな唯先輩が迷子にならないように見張っていたり。
とにかく、いつもの私達らしく賑やかに新年を迎えて。
それからお昼過ぎまで、またもや平沢家でまったりと過ごした後、一人暮らしをしているこっちの街まで戻ってきたのだ。
もう少し実家の方にいても良かったのだけど、新年会を兼ねた学内ライブが近くにある。その練習もしなくてはいけない。

で、何で私が唯先輩の家にいるのかと言えば、まぁ特段理由もなく「あずにゃん、うちで一緒にごろごろしよ~」なんて新年早々怠惰なことを言い出した唯先輩に連れてこられたというわけで。
そもそもさっきまで実家でだって、何をするでもなくごろごろしてたというのに。どれだけだらだらしていたいんだろうか、この人。

それにしても、と私は唯先輩の顔に焦点を合わせる。

すごく幸せそうな表情だ。安心し切っているというか、無防備というか。見ているこっちが癒される、そんな寝顔。

「どんな夢を見てるんだろ……」

こんな顔をしておきながら、実はすっごい怖い夢を見ていました、なんてこともないだろう。
流石に富士山や鷹や、茄子が出てきたりはしていないと思うけど、でもきっとそれは楽しい夢に違いない。
この人にとって幸せな光景に違いない。

私は思う。

ねぇ、私の愛しい人。あなたは今何を見ていますか。

ねぇ、私の恋人さん。あなたは今何を想っていますか。

ねぇ、唯先輩。

「その夢の中に、私はいますか……?」

  ◇

唯先輩と出会って四年目。今年の春で五年になる。
唯先輩と付き合いだして二年目。今年の春で三年になる。
私は現在、先輩達と同じN女子大に通う大学一回生だ。
私だけではない。憂も純も、同じ大学。つまり、桜が丘高校軽音部メンバーは全員N女子大に進んだのだ。
大学生になって、唯先輩、澪先輩、律先輩、ムギ先輩、それから私の5人でのバンド活動を再開してからの日々は、賑やかで慌ただしくて、でもやっぱり「放課後ティータイム」らしくどこかまったりしていて。
憂や純とも相変わらず仲良くやっていて。
充実していて、楽しい毎日。
私は今年の春まで高校生だったわけだけど、どうしてか、あの桜が丘高校軽音部で日々が遠い昔のことのように思える。
初めて先輩達のライブを、唯先輩を見た日のことも。
軽音部の扉を開けた日のことも。
緩すぎる空気に戸惑いながらも、少しずつ馴染んでいった日々のことも。
気がつけば唯先輩を目で追っている自分に、違和感を覚えた日のことも。
唯先輩を好きだと自覚して、そんな自分をキモチワルイと思って悩み泣いた日のことも。
自分の中の想いがどうしようもないほどに膨らんで、唯先輩に告白した日のことも。

唯先輩が満面の笑みで告白に応えてくれたくれたときのことも。

全部全部覚えているけど、セピア色だ。

たった数年前のことなのにね、と自嘲気味に呟く。その声に反応したのか、こたつで寝ている唯先輩が身じろいだ。

忘れてしまうのだろうか。

辛かったこと、苦しかったことは忘れたい。そんなものは自分の中に蓄積したくない。消したい。吐きだしたい。
楽しかったこと、嬉しかったことは忘れたくない。ずっと覚えていたい。永遠に鮮明なままで。

そんなご都合主義を、私の脳みそは認めちゃくれない。
辛かった記憶も苦しかった記憶も、楽しかった記憶も嬉しかった記憶も、平等に薄れていく。忘却曲線の餌食になる。
そのくせ、完全には消え去らない。中途半端に覚えている。細部は忘れていても。その時の気持ちは忘れていても。
だから、辛かったことや悲しかったことは中途半端に頭に残り、嬉しかったことや楽しかったこともまた然り。
それが当然のことなのだとは理解している。どうにかしようだなんて思っているわけではない。
ただ、記憶というものの曖昧さを少し嘆いているだけだ。
今この瞬間だって、すぐに過去になる。記憶されるべきものとなる。
時間には「点」の今と、長い過去と未来しかない。
未来はわからない。今はすぐに過去となる。そして、過去は記憶と記録でしか確認できない。
だからこそ、記憶は頼りなのに。記憶を確認することでしか、今を知れないのに。
記憶の中の唯先輩はいつも笑顔で、いつも私に愛情を注いでくれて、いつも「大好き」と言ってくれて、私に安心をくれるのに。
それが曖昧だなんて。いつか忘れちゃうかもしれないなんて。

とどのつまり、私は不安なのだった。

別に、目の前の唯先輩が素っ気ないとか愛想を尽かされたようだとか、そんなことはない。スキンシップも愛情表現も相変わらずだ。
やっぱり笑顔だし、私に愛情を注いでくれるし、「大好き」だと言ってくれる。
『今』の唯先輩と、私の『記憶』の唯先輩は同じように見える。

だけど。

私は唯先輩を起こしてしまわないように、そっとこたつを抜け出した。少し身震いする。いくら部屋の中とはいっても、温かいこたつの中よりは気温は低い。
ふと「今、外ってどれぐらい寒いのかな」なんてことを思って、ベランダに出てみた。

「さむっ」

部屋の中とは比べようもないほど、寒い。寒過ぎて、笑っちゃうぐらい。一瞬で体の芯まで冷え切ったような感覚すら覚えた。
当たり前だ。1月の夜だし、それにいつの間にやら雪まで降ってるぐらいだもの。
私達が戻ってきた夕方頃には降ってなかったから、夜になってから降りだしたのか。
外は白銀の世界――とまでは流石にいかないが、ちらほらと積もった雪が街灯に照らされて白く輝いている。
とても綺麗だと思うけど、あれが朝になって溶けたり車に轢かれたり人に踏まれたりしてぐちゃぐちゃになってしまうことを思うと、少し寂しい。
私は桟にもたれかかって、空を見上げる。月も星も、厚い雲に覆われ隠された夜。代わりに白い雪が蝶にようにひらひらはらはら舞う。
元旦の町は、雪に音を吸われてしまったかのように、しんと静まり返っていた。
はぁ、と洩らした息は白かった。

最近、唯先輩は何か思い悩むような表情を浮かべることがある。
それはほんの何気ない瞬間に見せる表情。頻繁にというわけでもない些細な、でも、私を不安にさせるのには十分な変化。
それに、唯先輩から抱きつかれる回数が少しだけ減ったことにも、私はちゃんと気づいている。
多分、人に話せば、別に大したことはないと笑い飛ばされるだろう。気にし過ぎだと。そんなに神経質になる必要はないだろうと。

でも、私達の関係は普通の恋愛関係よりも簡単じゃないから。

別に男女の恋愛が簡単だなんていうつもりも、ましてやマイノリティな自分達を可哀そうだなんていうつもりも毛頭ない。
ただ、厳然たる事実として、私と唯先輩の関係が成り立つ土台は脆い。
いつ周りから冷たい目を浴びせられるかわからない。
私がその目に耐えられるかどうかわからない。
唯先輩がその目に耐えられるかどうかわからない。
簡単に壊れてしまいそうな、難しい二人の関係。
幸い、理解ある人達に囲まれてここまで来たから、付き合いだしてからそれほど嫌な目にあったことはない。

でも、これからもそうだという保証はどこにもないんだ。

絵に描いたような幸せの日々はきっと長くは続かない。私の記憶にある日々は、本当に幸運に恵まれていただけ。
だからこそ、ちょっとした変化に憶病になる。
何がきっかけで、この幸せが崩れるかわからないのだ。みんなとの、唯先輩との時間が音を立てて崩壊していく光景を幻視すれば、寒さとは関係なく体が震える。
変わりたくない。ずっとこのままでいたい。
それはきっと叶わぬ夢なのだけど。この世で変わらないものは、『変わる』ということだけなのだから。

もし、唯先輩の中で何かが変わろうとしているのなら。その変化に私がついていけなかったら。変わってしまった唯先輩が私を不要としたら。
考えたくもない。

「くしゅん」

本格的に体が冷えてきたようだ。
流石に部屋着で外にいるのはそろそろマズイかな。風邪を引いてしまう。
そう思って、部屋に戻ろうと私が振り返った途端、がらがらっと引き戸が勝手に横に滑った。

「うぉ、寒い! あずにゃん、こんなとこにいたんだ~」

どこで見つけてきたのか『あけおめ』なんて文字がプリントされたTシャツ、赤い半纏、寝ていたせいだろう、少しぼさっとした髪の毛。
何だかだらしない、でも私が大好きな彼女の姿。

「……起きたんですね、唯先輩」
「うん。起きたらあずにゃんがいないからびっくりしたよ。帰っちゃったのかと思った」

そんなことしませんよ。私が黙ってあなたの前からいなくなることなんて、あり得ませんから。ううん、黙ってじゃなくたって、あり得ない。

「おおぉ、雪降ってる~!」

唯先輩は目を輝かせるとベランダに飛び出してきた。その子供っぽい様子が唯先輩らしくて私は笑う。

「あずにゃん、雪見てたんだね」
「ええ、まぁ」

別に雪を見ようと思って外に出たわけではないんだけど。出てみたら降ってたってだけだし。まぁこの際それはどっちでもいい。

「この町も結構雪降るんですね」
「そうだね~。去年なんか一回雪で休校になったことあったし」
「え~、そこまで降られると色々とめんどくさいような……」
「そっかなぁ。すごくテンション上がって、みんなと雪合戦したよ!」
「ふふ、何だか光景が想像できます」

唯先輩、律先輩、ムギ先輩がはしゃいで、澪先輩がおろおろしていたら律先輩に雪の塊をぶつけられて、とか。

一端会話が途切れて、そのまま二人で舞い散る雪を眺める。
さっきよりも少しばかり雪の勢いが増した様に思える。夜中いっぱい降り続ければ、本当に辺り一面真っ白になるかもしれない。
唯先輩はこの雪を見て、何を思うんだろう。
ふとそんなことが頭に浮かんで、ちょっと訊いてみようかなんて思った瞬間、唯先輩の「あ、そうだ!」という大声が私の鼓膜を震わせた。
突然のことに驚いて、体がびくっとなる。何なんだ、急に。

「も、もぅ、夜中なんですよ。大声出さないで下さい」
「あ、ごめんごめん」
「はぁ、で、どうしたんですか」

呆れた表情でもって私は訊く。唯先輩の唐突な発言には碌なものがない。だから、どうせまた変なことを言い出すんだろう。
そんな唯先輩の気ままな発言に振り回されるのには慣れっこだ。本音を言えば、そんな時間もまた私の好きな時間だったりする。
そして、案の定というか何というか、唯先輩はやっぱり妙なことを言い出したのだった。

「初詣に行こうっ!」




あなたとの、これから(2)
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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

当ブログは、リンクフリーとさせていただきます。
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