--.--.-- *--*
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

SS ぷれぜんと!(2)

2010.12.17 *Fri*
 ◇

「唯先輩に私をもらってほしいんですけど」

「……は?」

そのあまりにも突然で唐突で突発的で脈絡の欠片もなくて意味不明な告白に私、田井中律は面食らって、適当に眺めていた音楽雑誌から視線を声の方へと向けた。

そこにはソファに座ってギターを構えている、後輩の中野梓の後ろ姿があった。

何、この感じ。すっごいデジャブ。どこかで抱いたのと同じような感覚。

ていうか、昨日だった。

「……」
「……」

痛々しい沈黙が、場を支配する。聴こえるのは水槽の中の清浄機がたてるぽこぽこという音だけ。こちらから見てソファは後ろ向きなので、梓がどんな表情をしているのかはわからない。

私も、梓も、動かない。
その重すぎる静寂は五秒ほど続いて、

「うわわぁぁぁぁぁ!」

という梓の悲鳴によって破られた。次の瞬間、私の目の前に顔をゆでダコのように真っ赤にした梓の姿があった。
え、何、お前、瞬歩つかえたの? いくらムスタングが軽めとはいえ、ギターを持ってのその移動速度は尋常じゃねぇぞ。次のライブのときなんかパフォーマンスでもやるか?
そんな益体もない思考によって現実逃避を図ろうとする私に、梓はぐっと詰め寄ってくる。

「違うんです!」
「お、おう」

そのあまりの剣幕に、私は意味もわからず頷くことしかできない。

「ぃ、いや、実は違わないんですけど」
「違わないのかよ」

うん、違ってて欲しかったな、先輩。

「えっと、今の発言には深い訳がありまして」

いや、別に説明してくれんでもいいのだが。絶対に厄介な事になるという自信がある。

「とりあえず私達の今の状況を説明しますと音楽室にて、澪先輩とムギ先輩の教室掃除、唯先輩の個人面談が終わってやってくるのを待ちながら、律先輩は受験生なはずなのに勉強する素ぶりも見せず雑誌を読み耽っていて、まぁだったら私も気を遣わなくていいやと思ってギターの練習をしていたわけですが」
「誰に説明してんだ」

しかもさりげなく私に対する嫌味を言いやがって。

「で、まぁ一曲弾き終わって、明日は唯先輩の誕生日だなと思いまして」
「ああ。そうだな」
「いや、もちろんプレゼントはちゃんと用意してるんですよ。子犬柄のペンケース」
「へ~、いいんじゃないか」

子犬ってのが唯に似合ってる。ペンケースというのなら普段から使えるし、もらって困るものでもないしな。

「はい。すっごく悩んで、毎日憂と純に相談しましたから」
「そうか。そりゃ、災難だったな」

憂ちゃんと純ちゃんが。
梓がしょっちゅう「あぁ、唯先輩への誕生日プレゼントどうしよう……」って二人に言ってる姿と、それに苦笑している二人が想像できた。

「でも、本当にそれだけでいいのかな、と思いまして」
「え?」
「だって、唯先輩にはすごくお世話になってますし、いや、もちろん他の先輩方にもお世話になってるんですけど、でもこんなこと言うのも何ですけど、唯先輩は私の中で特別というか」
「ほぅ。特別、ねぇ」

いや、まぁ、梓が私達四人の中でも特に唯に懐いているのはわかってるが。ちょっとからかってやろうと思って、敢えて触れる。

「はっ! い、いや、深い意味はないですよ!? ただ、ほら、同じギタリストですし! 帰り道よく二人きりになりますし! たまに二人で遊びに行きますし!」
「へ~、それは初耳だな」
「あっ、いや、たまに、ですよ。たまに! 日曜日に勉強会ってことで一緒に図書館行ったり、その帰りにちょっと寄り道したりとか、実は前日の夜からお泊りだったりとか、たまにしてるってだけですっ。まさか毎週なんて、そんなことはないですからね!」

語るに落ちてんぞ。
どんだけテンパってるんだよ。さっきからぼろぼろと暴露し過ぎだろ。そういえば昨日、唯が成績よくなったのを梓のおかげと言っていたが、なるほどそういうことか。
……ここまでの会話で終わってれば可愛らしいお話だったのにな。

「そんなわけで、唯先輩には用意したプレゼント以外にも何かあげられないかなって考えて」
「ほうほう」
「わ、わたしがプレゼント、とか、どぉかなぁって」
「はい、そこおかしいよ」

唯先輩にペンケースともう一つ何かあげたい→そうだ私をあげよう。

→の間に次元を飛び越えるほどの飛躍がある気がするのは、私だけだろうか。

梓は言葉に詰まってしまったようだ。そのまま「う、ぐっ」としばらく唸っていた。
しかし。
突然「ああ、もう!」と叫ぶと、きっ、と鋭い視線を私に向けて言い放った。

「だって、思いついちゃったんですもん!」

その目からは、全ての柵を捨てて何もかもふっ切ったような、強固な決意と意思と意地を感じた。
お、おいおい、開き直る気かよ……。
しかし、心なしかその私の睨む瞳には光彩を欠いているような。

「好きな人へのプレゼントと言えば『自分自身』っていうのは定番でしょっ」
「勝手に定番にするなと」

しかも好きな人っつったぞ。

「どんな格好したら唯先輩悦んでくれるかなって」
「悦んでって漢字は卑猥だ!」
「メイド服とかセーラー服とか体操服とかスクール水着とかバニーガールとかチャイナドレスとか婦警さんとか忍者とか色々考えたんです」

選択肢多っ。いや、そんなことより。

「わかったから、ちょっと落ち着こう? な?」
「でも、私気付いたんですよ」
「だから、落ち着けと」

顔を真っ赤にして、完全に興奮状態の梓。
やべぇ、コイツ、全く人の話が耳に入ってない。

「結局、ネコミミと首輪付けて『あなたのペットにしてください』って言うのが私にとってもきっと唯先輩にとっても一番いいんです!」
「落ち着け!」
「全裸で!」
「変態二号め!」

あずさ は こんらんしている! 某RPG風に言うと、そんな感じ。
というか、そんな過激なこと考えてやがったのか。唯の発言以上に衝撃的だわ……。

何にせよ、このままでは喋る猥褻物と化してしまいそうな後輩を野放ししておくわけにはいかない。

「カムバック、梓! お前、自分が何を言ってるかよく考えるんだ!」

私は、がしっと梓の両肩を掴んで、揺さぶる。それが効いたようで、梓は「はっ!」と正気に立ちかえった。
途端。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

世界中の絶望という絶望を一気に味わったかのような、いつか教科書で見たムンクの叫びを彷彿とさせるような、絶叫。
梓はそのままうずくまってしまう。
しーんとなる、私と梓の二人だけの音楽室。

……いや、これどうしよう。

いきなり妄想を語りだして、いきなり絶叫して、それから黙り込む後輩が目の前に居た。いや、これもう私のキャパでは対処し切れる気がしないのだが。
とにかく声をかけてみようと思って、そろりと私も隣にしゃがみ込む。
気分はまるで猛獣への餌やりだ。

「あ、梓~……?」
「……い……ですよね」

小さな声で梓は何かを呟いた。よく聴こえなかったので私はできる限り優しい声で「ん? どした?」と聞き返す。

「気持ち、悪いですよね?」

梓が顔を上げて、私の顔を見る。視線がぶつかった。

その時の私は、多分変な顔をしていたと思う。

だって、気持ち悪いも何も、私、唯からも梓に対する変態的発言を聞かされてるし。
梓が気持ち悪いってなら、唯も、それから澪で同じような妄想をしちまった私も気持ち悪いってことになるんだが。

いやほんと、昨日は唯、今日は梓。
二人、揃いも揃って、妙な妄想を私に語ってきやがって。しかも、どっちも似たようなもんだし。
聞かされる私の身にもなれってもんだ。

唯は誕生日プレゼントとして梓自身がほしいって言って。
梓は誕生日プレゼントとして唯に自分自身をもらってほしいって言って。

全く。

私は、小さく溜め息を吐く。

全く、どうして、お前らはそんなにもお似合いなんだよ。

確かに言ってることは無茶苦茶だし、変態だけど、でも唯も梓もお互いのことをこんなにも想い合っている。
想い合うって、実はすごいことだと思う。
それを簡単な事のようにやってのけて、しかも行き過ぎ感まであるこの二人が、ちょっと私は羨ましかった。

ちくしょう、いいなぁ。

……いきなり押し寄せた感傷に浸って、梓の質問に何も答えなかった私が悪かったのだけど。
黙ってしまった私を見て、梓は。

「う、うぇ、ひっく……」

泣き出した。

「って、ええぇ!」
「ぐすっ、ずいまぜん、ごんな気持ち悪い後輩で……」

ひっく、ひっくとしゃくり上げながら、梓は謝罪の言葉を口にする。

「だっで、唯先輩のこと、大好きで、ぐず、何か気づいたら唯先輩のごとばっがり考えてて」

梓は唯への想いを、自分の胸の内を吐露する。

「自分でも、おがしいって、ひっく、思ってるんでずけど、でもどんどんエスカレートじて……。最近、そんなことばっかり考えで」

そんな梓に、私は戸惑うばかり。

「ごめんなざいっ……」

だけど。

「もう、こんな気持ち悪い私は消えますから。ここには、来ません、がら。……ぐっす。部活、やめますから」

そんな言葉が耳に入ると、私はそうしようと頭で思う前に、梓を抱きしめていた。

「……りつ、せんぱい?」
「馬鹿やろう」

梓はやろうじゃないけど。

「勝手に決め付けんなよ。誰が、気持ち悪いだなんて言った?」
「え……」

私は、体を離す。それから、梓の顔を真っすぐ見すえる。
はぁ、世話のかかる後輩だぜ。
そんな想いを抱えながらずっとやってきたのかよ。今みたいに爆発するまで溜めこむ前に、もっと早く相談してくれたってよかったのに。
私が、私達がお前を拒絶するわけがないだろ?
私は笑顔で言ってやった。

「気持ち悪くなんて、ねぇよ。好きな人を想うことを気持ち悪いだなんて言うヤツは、私がぶっ飛ばしてやる」

梓はポカンと口を開けたままの間抜け面で私を見てくる。そんな梓の頭をわしゃわしゃと撫でてやった。

「唯のこと大好きなんだろ? ま、確かにちょっと暴走気味だったけど。でも、好きなら仕方ないって」

一緒にいたいって思う。触れたいって思う。色々な顔が見たいって思う。色々な声が聴きたいって思う。
好きってそういうもんだろ。

「もっと、自分の『好き』に自信持てよ。んで、本当に唯にあげたいなら、あげちゃえばいいじゃん」
「へ?」
「もらってほしいんだろ、自分自身を」

私がそう言ってやると、再度、顔を真っ赤にして梓は俯いてしまった。ったく、具体的なことまで自分で言ってた癖に。
とは思いつつ、そんな梓を可愛いな、と思ってしまった。
うむ、唯の気持ちが少しはわかったかもしれん。

「……ありがとう、ございます」

梓がようやく笑った。泣いた後の笑顔って、誰でもこんなに魅力的なんだろうか。何だか気恥かしくて「いやいや、礼には及ばんでごわすよ」と少し茶化した風に言ってしまった。
ううむ、普段つんつんしてる分、素直な梓ってのにどう対処していいもんだか。
まぁ、適当にもう一回撫でておいてやろう。
そう思ってぽんと梓の頭に手を置いた瞬間、梓は立ち上がろうとしていたのだろう、バランスを崩してしまう。

「うわ」
「おっと」

そして、私の方へと倒れ込んできた。
尻もちをついて梓を受け止める私。あ~あ、スカートが汚れちまった……。

「大丈夫か?」
「は、はい。申し訳ないです」

しかし、この体勢……何だか、微妙にいかがわしい感じだな。床にぺたり座り込んで完全に密着してるし、梓なんて涙目だし、まるでこれからキスでもするかのようだ。
はは、これができの悪い陳腐な物語とかだったら、ここで唯辺りが登場して、勘違いされて、って展開になるんだろうな。
まぁ、ありがたいことにこれは現実だ。
そんな悪夢のようなことは起こるはずがないさ。

そう思った、本当に直後だったんだ。
がちゃり、というドアノブが回される音が聞こえたのは。

「やっほー。面談終わ……」

どうやら、これは出来の悪い陳腐なお話だったらしい。

  ◇

それからのことを少しだけ語ろう。
まぁ、わかると思うがあの時部屋に入ってきたのはまさに唯本人だった。
いや、もう、心臓が止まるかと思ったぜ。
床で絡み合う私と梓を見た瞬間、唯はすごい速さで、いや、もうそれは、世界陸上で金メダルが取れるんじゃないかってぐらいの早さで近づいてきて、梓を私から引っぺがした。
そんで、見たこともないほど恐い顔して言うんだ。

「だめ! いくらりっちゃんでも、あずにゃんだけは絶対にだめ!」

そっからは大変だったね。
私と梓で必死に弁明したんだが、それでも中々唯は機嫌を直してくれなかった。
いやはや、どうしたもんかと私は頭を悩ませていたんだが、梓が突然、唯に何かを囁いたんだ。
するとどうだろう。
突然、唯が笑顔になって「も~、あずにゃんがそう言うなら許してあげるよ」なんて言い出したのだ。
許すも何も、私は別に悪い事はしてないんだが。
梓が何を唯に言ったのかは気になったが、それからすぐに澪とムギがやってきて、有耶無耶になってしまったのだ。

それが昨日の、あの後の部室でのこと。

それ以降に、唯と梓の間に何があったかなんて、当然私は知らない。

今日は唯の誕生日。ということで、平沢家で誕生日会が催されている、わけだが。

「なぁ、律」
「……何だ」
「あの二人、どうしちゃったんだ?」

あの二人、とは訊くまでもなかろう、唯と梓である。
で、どうしちゃってるかというと。

「はい、あずにゃん、あ~ん」
「あむ、むぐむぐ、おいひぃです」
「そかそか♪ じゃあ、もいっこ」
「むー」
「ん、どしたの」
「今度は私がやります。はい、あーん」
「わーい、あーん」

まさに、甘ーい!(さて、このコンビは最近どうしているのだろう)である。
来てすぐにそんな二人を見せつけられたもんだから、私達はリビングの扉の前で唖然としてしまった。

ムギはすぐに撮影モードに切り替えていたが。その適応力だけは尊敬に値する。

適応力、と言えば、そんな二人と居ながらいつものように「いらっしゃい、皆さん」と笑顔で迎えてくれた憂ちゃんも中々ではある。
いや、憂ちゃんとの方でも、何らかの話があったのかもしれないけど。
それは、私の関知しないところだ。
ただ、あの様子から察するに、上手くいったのだろう。
……結局、梓はどこまでやったのだろうか。唯はどこまで要求したのだろうか。
気にはなる。なるが。

「あずにゃん、ほっぺにクリームついてるよー」
「え、どこですか?」
「ここ。えいっ、ぺろっと」
「ひゃわっ……。もう、皆さん見てるんですから……」

少なくとも今それを訊ねるのは、野暮というものだろう。

何にせよ、良かったな、お二人さん。

「あの会話、あのやり取り、あの空気、しかもずっと手握り合っちゃって」

隣で澪が顔を真っ赤にしてあわあわとしている。
うん、やっぱり澪の赤面が一番可愛いな。

「羨ましいのか、澪」
「え!? い、いや、別にそんなわけじゃ」
「私でよかったら、いちゃいちゃしてやろうか?」
「ふぇ!? ばっ、馬鹿!」

グーでぶん殴られた。

それをちょっと気持ちいいと思ってしまう私も、変態なのかもしれないな、と思った。




あれれー? りっちゃんカワイソス(´・ω・) なSSのつもりだったのに、ちょっとイケメン化しちゃったよ? 何で?
まぁいいや。唯ちゃん、遅れましたが、お誕生日おめでとう!

スポンサーサイト

COMMENT

Comment Form


秘密にする
 


TRACKBACK

TrackBack List



10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31

時計



最新記事



プロフィール

松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

当ブログは、リンクフリーとさせていただきます。
コメント、拍手等でご報告いただければ、相互リンクさせていただきたいと思います。



カテゴリ

openclose



カレンダー

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -



月別アーカイブ



リンク



検索フォーム



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



Copyright © 青春桜花 All Rights Reserved.
テンプレート配布者: サリイ  ・・・  素材: chaton noir  ・・・ 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。