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SS November ~ I was born……~(4)

2010.12.08 *Wed*
 ◇

「ふわ……ぁ」

朝早くの、誰もいない学校の門の前で私は大あくびをする。今日は晴天だ。空は高く、うろこ雲が悠々と空を泳ぐ。
うん、何だかんだ言って、十一月は秋の色の方が濃い。
まだ掃除されていない、積もった落ち葉を踏みならしながら、私は講堂に向かって歩く。

朝の七時半なんて、授業が始まる一時間以上前の時間だ。

そんな時間に、しかも講堂に呼び出して何をしようというのか。
ただ、きっと最近憂と純が私に隠してきた何かについてだろうということは、予想がつく。
だから、別に不安はない。

講堂の前につくと、壁にさわ子先生がもたれかかっていた。

「おはよう、梓ちゃん」
「お、おはようございます」

さわ子先生がいるというのには少し驚いた。さわ子先生も絡んでいるのだろうか。

「まったく、相変わらず軽音部の先生遣いの荒さには苦労させられるわ」

さわ子先生はやれやれ、と言った感じで肩をすくめる。それから、携帯電話を取り出すと、耳に当てた。

「……あ、もしもし。梓ちゃん、来たわよ。……ええ、はいはい」

苦笑浮かべて、さわ子先生は電話を切る。それから、私の方を向いて、今度はにっこりと笑った。

「まぁでも、これまた相変わらず、軽音部って素敵な子達ばかりね、梓ちゃん?」
「え、えっと」
「じゃあ、中へどうぞ」

先生は講堂のドアを開いて、私を中へと促す。
朝だというのに、中は暗い。カーテンを閉め切っているようだ。
私が一歩踏み出すと、さわ子先生はゆっくりと扉を閉める。
その時に「お誕生日おめでとう」と言ってくれたのだけど、振り返った時には完全に扉は閉じられていた。

私は、前を向く。それから、ゆっくりと幕が下ろされたステージの方へと歩いていく。

講堂。
何度もここでライブをして、その度に私に色々な思い出をくれた、大切な場所。
目を閉じれば、様々な映像が浮かんでくる。
唯先輩が風邪をこじらせたりギターを忘れたりして、大変だったけど、無事に成功した最初のライブ。
ライブはうまくいったけど、勧誘のベクトルがずれていて結局新入部員をゲットできなかった二年生の時の新歓。
先輩達との、最後のライブ。唯先輩の「私達は、いつまでも放課後です!」の迷台詞が未だに忘れられない。
私だけ取り残された軽音部に憂と純がやってきて、三人で目一杯頑張った、三年生の新歓ライブ。
それから、つい先日の私達の引退ライブ。

どれもが、自分で言うのも恥ずかしいけど、輝かしい記憶だ。

そんな素晴らしい思い出をくれる、この講堂で、今日は何が待っているのだろう。

そんなことを思った、その時。

がしゃん、という音がして、幕があがっていく。
そして、幕があがり切ると同時に。

「「「ハッピーバースディ!!!」」

ぱぁん、という破裂音がして、一気に照明が点灯した。

「わぁ……」

そこには。

クラッカーを持って、マイクスタンドの前に立つ憂と純。
それから、その後ろで各々の楽器を構えた後輩達。

そして。

掲げられた大きな横断幕。
踊る言葉は。

『お誕生日おめでとう&今までお疲れ様でした! 梓部長!』

もう、それだけで十分だった、

喉に突っかかていたものがすとんと腑に落ちた感覚。すぐに全部を理解することができた。
つまり、このためだったんだ。
憂と純がよそよそしかったのも。昨日私以外のみんなが音楽室に集まっていたのも。
私の誕生日を祝うために、準備していたんだ。してくれていたんだ。

「えっへへ、どうよ、梓。驚いた?」

どこか誇らしげに純が言う。うまく言葉が出てこなくて、こくりこくりと頷くことしかできなかった。

「純ちゃんがね、梓ちゃんの誕生日をお祝いする計画を立ててね」

楽しそうに憂が言うと、後輩も続く。

「軽音部として何をプレゼントしようって考えたんです。でも、やっぱりそれなら音楽だろうと思って」

なるほど。それで講堂というわけか。
セッティングから見て、憂と純がボーカルらしい。

「どうせやるならじゃあいっちょ盛大にやりますか! ってことで」
「講堂を貸切状態にしてみました~」

ギターの子とベースの子が愉快そうに言う。

「もぅ、大袈裟なことして……」

生徒一人の誕生日のためにこんな許可をよく学校も出したものだ。

「ほんと、苦労したんだからね、梓。さわ子先生にも協力してもらってさ」
「ふふ、純ちゃん、頑張って交渉してたもんね」
「でも、結局憂先輩の説得で決まりましたよね」

みんなの会話を聞きながら、思う。
やっぱり唯先輩を信じて良かった。私の大好きなみんなを疑うなんて、どうかしていた。

「私、歌超上手くなったよ! 聴いて驚け!」
「私も頑張って練習したから、ちょっと恥ずかしいけど、聴いて下さい!」
「梓先輩がいないから、演奏のレベルは大分落ちちゃいますけど」
「でも、私達、部長のために一生懸命練習したんですよ!」
「文化祭の直前と同じくらいやったよね~」
「いや、もっとかも」

後輩達はみんな悪戯っぽい笑顔を浮かべている。無性に気恥ずかしくて、私は目を逸らす。
憂がマイクを手に持つ。

「では早速演奏を……といきたいところですが、その前に! 梓ちゃんにもう一つ、サプライズプレゼントがあります!」
「え、え?」

もう一つ、サプライズ? 
一体何だろう、と疑問を頭に浮べているとき、それは後ろから突然やってきた。

私を抱きしめる柔らかい感触、鼻を擽る甘い香り、何だか落ち着く優しい鼓動。
それは、私が大好きな暖かい感覚。

あまりにも突然のことで一瞬体が強張ったけど、でもすぐにわかる。
振り返る必要もない。

私は体に回された腕に、そっと手を添えた。

「……もう、吃驚するじゃないですか、唯先輩」
「あれ、何でわかったの?」

抱きしめられたまま、首だけを回して後ろを確認する。
至近距離に、可愛らしい笑顔。耳元で聞こえる、ほんわかとした優しい声。

私の恋人が、そこにいた。

「そりゃあ、今まで何度抱きしめられたと思ってるんですか」

あなたに抱きしめられる心地はすっかり覚えてしまいましたよ。

「う~ん、もう千回は超えてるんじゃないかな」
「ふふ、それって、私達が出会ってからの日数より多いですよね」
「一日に何回抱きついたって抱きついたって、飽きないからね~。あずにゃん分は無限に補給可能なのです。というわけで、ええい、もっと補給だぁ」
「もう、なんですかそれ、ってくすぐったいですよ」

唯先輩はすりすりと私に頬摺りをしてくる。ああ、やっぱりこうやって唯先輩と触れ合える時間が、私は大好きだ。電話だけでは物足りない。
気持ちが緩んでいくのを感じる。何だか、心がへにゃっとなる。

「ん~、あずにゃ~ん」
「えへへ……」

ああ、もうこのままで――

「あの~、らぶらぶな空気を醸し出しているところ悪いのですが、私達の存在忘れないでね?」
「はっ!」

純の声で、私は我に返った。
や、やってしまった。私ったら、みんなの前で何ということを……! ライブの日以来の『生』唯先輩に、ついつい我を忘れてしまった……。

「いや~、お熱いですな~」
「すごいね~。抱きしめられただけでわかるんだぁ……」

後輩が口ぐちにからかってくる。やばい、顔から火が出そうとはまさにこのことだ。いや、もう火が出るどころか、噴火してしまいそう……。
ちなみに、後輩達も私と唯先輩の関係を知っている。
ばれたのは本当に最近で、しかも驚くほど寛容に受け入れられて吃驚した。 

「て、ていうか、何で唯先輩がここに!? 大学は!?」

恥ずかしさを誤魔化すという意味もあったが、事実として疑問に思ったことを口に出す。だって、今日は平日。学校があるんじゃないのか。

「今日の講義は二限からなのです!」
「でも、わざわざ……」
「だって大好きな彼女の誕生日だよ? それをこうやってみんながお祝いするってのに、私がいないわけにはいかないじゃん」

唯先輩は、ふんすっと意気込んでそんな恥ずかしいことを言う。また顔が赤くなったのを感じた。
それから唯先輩はステージの方に目をやる。

「みんな、あずにゃんの誕生日をお祝いしてくれて、ありがとう」

みんなは、少し照れくさそうに笑った。
私もステージ上の六人を、一人一人見やる。
本当にみんな、私のために色々と考えてくれたんだ。私の誕生日をどう祝うか、どうすれば私が喜ぶか。

心がぽかぽかしてきた。ああ今、私、すごく幸せだ。

「それじゃ、お二人揃ったところでそろそろ始めますか」

純がそう言うと、みんなが頷いた。

「まずは、梓ちゃん、ごめんね」
「え、何が?」

憂の突然の謝罪に、私は困惑する。

「だって、不安にさせちゃったみたいだから……」

不安にさせた? 一体何を――と考えて、一つの可能性に思い当たる。

「……唯先輩、もしかして私のこと憂に言ったんですか?」

私を後ろから抱きしめたままの唯先輩に、私はじとっとした視線を送ってやる。視線を受けた唯先輩はあせあせという擬音語ぴったりな様子だ。

「え、だ、だって、あずにゃんがすっごく不安そうだったし……。私にできることは何かなって考えたら、やっぱり憂に私からちゃんと言うしかないって……。えと、駄目だった、かな?」

ということは、私が唯先輩に話したことは全部憂にも純にも伝わっているのか。何それ、すごく恥ずかしいんだけど。
まぁでも。

「……別に、駄目ではないです」

唯先輩が私にためにやってくれたことなんだったら、悪い気はしない。……というか、そんな上目遣いで訊かれちゃ、そう答えるしかないじゃないか。

「うん、やっぱりらぶらぶだね。選曲は間違ってなかった」

純がうんうんと頷きながら、そんなことを言う。選曲? と問う前に憂と目が合う。

「今から演奏する曲は、梓ちゃんだけじゃなくて、梓ちゃんとお姉ちゃんの二人に送る歌です」
「「へ?」」

私と唯先輩の声が重なった。
憂はにっこりと微笑んだ。その笑顔が合図だったかのように、後輩達は楽器を、ボーカル担当の憂と純はマイクを構える。
純が、にかっと快活に笑う。

「よっし、いくよ! 改めて、ハッピーバースディ、梓! それから……唯先輩といつまでもお幸せに!」

そして、言い放った。

「曲はQueenで『I Was Born to Love You』!」

ドラムの子がリズムを刻んで、私を、私達を祝福する音楽が始まった。




November ~ I was born……~(5)


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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

感想、ネタ振り、唯梓への想い等、コメントを頂けると非常に嬉しいです。百合好きな方、唯梓好きな方は色々と語り合いましょう!

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