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SS November ~ I was born……~(3)

2010.12.08 *Wed*
 ◇

こういう時、どうしたらいいのだろう。
ぼんやりとしながら、ぼんやりと歩いて、家について、ああそういえば今日から数日両親は仕事でいないんだっけとか、誕生日いっしょにお祝いできなくてごめんねって言われたっけとか、子供じゃあるまいしそんなの気にしないのにとか、そんなことを思って、自室に入って、着替えもせずにベッドに倒れこむ。
そして、鞄から携帯を取り出した。

どうしたらいいかはわからない。けれど、したいことは明白だった。

自然と指が動いて、履歴を呼び出す。
そこには『唯』の文字がずらっと並ぶ。そりゃあ、毎日電話してるんだし、当然か。
そのままボタンを押して、発信。

一回目のコール音が鳴る。

何だか、寒い。今日は一段と冷える。まるで真冬のようだ。

二回目のコール音が鳴る。

でも、今感じている寒さは私の内側に問題があるようにも思う。

三回目のコール音が鳴る。

寒くて、何だか無性に、唯先輩の声が聴きたかった。猫がこたつを求めるように。

四回目のコール音が鳴る、その前に『もしもし~』という温かい声が耳に届いた。

「……もしもし」
『ん? あずにゃん、どうしたの? 何か元気ないね』

一言発しただけだというのに気付かれるとは。そんなにも私の声は力のないものに聞こえたのだろうか。

「唯先輩、私」
『どしたの?』

次の言葉が出てこない。何て言えばいいのかわからないのではない。
ただ、それを認めてしまいたくないだけだ。それを言葉にすること、いや、考えることすらしたくないだけだ。
でも、脳内に先ほどの光景がちらつく。

私がいない軽音部の光景が。

それが私のちっぽけな心を揺さぶって、撹拌して、ごちゃごちゃにする。

私。

「私、憂と純に嫌われたかもしれない……」

口にして、実感する。
嫌いになったから、よそよそしくなったのかもしれない。
嫌いになったから、隠されるのかもしれない。
嫌いになったから、仲間外れにされるのかもしれない。

いや、そもそも信頼していたのは、好きだったのは私の方だけだった? 嫌いになったんじゃなくて、元々私のことなんてそんなに好きじゃなかった?

『え、えぇ!?』と慌てふためく唯先輩の声がする。

絶望的な想像はどんどん加速する。

もし、憂と純が私を嫌っているのなら、後輩達も私のことを嫌っているかもしれない。仲良くなれたと思っていたのは私の方だけだったのかもしれない。

『あずにゃん、何があったの!?』

ああ、もしかしたら、律先輩も澪先輩も、ムギ先輩だって。

鼓動が嫌な感じに加速する。寒いのに、汗ばむような錯覚。

もしかしたら。

唯――

『あずにゃん!!!』

下手をすれば鼓膜が破れるんじゃないか、というほどの声量で、唯先輩が叫んだ。思わず、携帯電話を耳元から遠ざける。

『黙ってちゃ、わかんないよ! どうしたの? 何があったの? ちゃんとお話して!』

怒気を含んだ、強い口調。こんな唯先輩の声を聴くのは――あの、別れ話以来だろうか。
しかし、おかげで私は正気に戻る。
早合点、思いこみ、一人よがりもいいところだ。
いくら何でも、考え過ぎ。思考がネガティブ過ぎる。
私は大きく息を吸って、吐いてから「すいません」と謝った。

『うん、それでどうしたの?』
「はい、あのですね、今日も憂と純がいっしょに帰ってくれなかったんです」
『う、うん』
「それで、まぁ私はちょっと今日くらいは音楽室に顔をだして後輩達に会おうと思ったんです」
『……あ』
「そしたら、まぁ、そこに二人がいたわけで……」
『え~と、何してた?』
「普通にお茶してました」
『そ、そっか』

何故か喉が痛くなってきた。声が詰まって少し掠れる。

「憂と純と後輩達がいて、でも軽音部の空気は変わってなくて、私の存在がなくても成り立ってて」
『絶対そんなことはないよ!』
「そうでしょうか? でも、本当にそう感じたんです。全然、違和感なくて」
『あずにゃん……』

あの光景が、また目の前にちらつきだす。

「何してるだろう、何で私だけ除け者にされてるんだろう、って思って」
『除け者だなんて』
「結局、考えてもわからないんですけど」
『うぅ~……』
「私、あの二人が嫌がること、したのかもって」
『……』

視界が軽くぼやける。目尻に濡れた感触。ああ、このままじゃ泣いてしまいそう。

「嫌だよぅ、憂にも、純にも、嫌われたく、ないよぅ……」

自分でも驚くくらい、素直な本音が口から零れた。

『……っ! あずにゃんっ!』

突如、意を決したように唯先輩が声を張り上げる。突然だったから、私は面食らってしまう。

「は、い?」
『あのね、違うから!』

違う? 私は首を傾げる。
意味がわからない。何が違うと言うのか。

『う~ん、と、とにかく憂も純ちゃんもあずにゃんのこと嫌いになったとか、そんなんじゃなくて、むしろ大好きというか』

一体唯先輩は何を言わんとしているのか。それはやっぱりわからない。
でも私は思い至る。
さっきから、唯先輩はずっと私のネガティブな発言を否定している。それはまぁ、励ます人間として当然と言えば当然のことだろうけど、でもその否定の仕方がえらく断定的ではないだろうか。
高校の時ならいざ知らず、今は憂とも離れ離れで何も知らないはずの唯先輩が、どうして?

もしや。

「唯先輩は憂達が何を隠してるか、知ってるんですか?」

電話の向こうで唯先輩が息を呑んだ。
一瞬の静寂。
しかし、すぐにはぁっという溜め息が聞こえてきた。
どうやら、ビンゴだったらしい。

『あぁ、やっぱり私じゃ隠し通せないよぉ……』 

あずにゃんのあんな泣いちゃいそうな声を聴いて、黙ってられるわけないじゃん。
そんなことを呟いてから、唯先輩は話し始める。
昨日、私と電話をした後、唯先輩は気になって憂に直接連絡をしたのだという。その時に、憂と純が私に内緒で『あること』を進めているのだと聞いたそうだ。

「その『あること』って何ですか?」

それが、一番重要な所だ。何を隠しているというのか。何を内緒で進めているというか。
でも、唯先輩は。

『ごめんね、それは話せない』

そう言って、教えてはくれなかった。

『でもね、これだけは信じて。憂も純ちゃんも、あずにゃんのことをすごく考えてて、すごく大好きだから。絶対に、あずにゃんを嫌ったりはしてないから』

必死に唯先輩は訴えかけてくる。
あの二人を信じて、と言う。
私を信じて、と言う。

『そりゃね、詳しいことを何も言わない憂と純ちゃんは悪いし、知りながら言わない私も悪いけど、言わないっていうか言えないんだけど、詳しく言ったら意味がないというか、ううん、意味がないってことはないんだけど』

私が黙っているから不安になったのか、唯先輩は早口で捲し立てる。

その様子が何だかおかしくて、笑みが零れた。

「いいですよ」
『へ?』
「だから、もういいです。信じますよ。悪い意味で私に隠し事をしてるんじゃ、ないんでしょ?」

うん、唯先輩がそこまで言うのなら、多分、大丈夫だ。
憂も純も、私を嫌いになったわけじゃない。隠し事だって、言わないのは私のため。
きっと、そうなのだ。
私はそっと胸に手やる。鼓動は、落ち着いていた。

『あ、あうにゃぁん……』

くぐもった声と、ぐすっという鼻を啜る音が聞こえる。

「って、何で唯先輩が泣きそうなんですか!?」
『だって、だってぇ、何だか今、あずにゃんが何思ってるのかなって思ったら……』

もう、簡単に人に感情移入するんだから。……私のことだから、特に、だったら嬉しいけども。

『ううぅ、今目の前にあずにゃんがいれば思いっきり抱きしめて、思いっきり甘やかしてあげるのに』
「け、結構です。子供じゃないんですから」

口ではそう言っていながら、でも、もし目の前に唯先輩がいたら甘えちゃうだろうな、という確信もある。
いや、こうやって電話を通してだけでも、私は十分に甘えさせてもらっている。

「ありがとう、ございます」

だから、ちゃんと感謝の気持ちを言っておかなきゃ。普段素直になれない私だけど、その言葉はすんなりと口をついて出てきた。
唯先輩は『え? 何が?』と困惑していたけど。
ありがと、唯先輩。

  ◇

零時零分。
十一月十一日になった、私が十八才になった、その瞬間。
携帯電話の着信音が鳴り響いた。
何通もの誕生日を祝うメールが届いている。
唯先輩、律先輩、澪先輩、ムギ先輩、後輩達、クラスメイト、両親。
それから。
憂、純。
二人のメールには、私の誕生日を祝う文面以外に共通して同じことが書かれていた。

『朝七時半に、講堂に来てください』




November ~ I was born……~(4)

 

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Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

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