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SS November ~ I was born……~(1)

2010.12.08 *Wed*
※唯梓
※梓誕生日記念+5万HIT記念+記事番号100記念
※梓視点



『November ~ I was born……~』

十一月って曖昧だ。
秋と言うには寒すぎるような気もするし、冬というのも何だかしっくりこない。立冬を迎えるから冬と言えなくもないのかもしれないが、それは秋分と冬至の中間を意味する言葉でもある。
まぁ、それを言ってしまえば春と夏、夏と秋、冬と春だってその区別は曖昧だし、二月なんて四年に一度日数が変わってしまうほど曖昧だ。
そもそも月日の存在に対して『曖昧』という表現することそのものが曖昧だなんていうトートロジー的な考えも浮かばないでもない。
ただ、テレビ番組で紅葉狩り特集をやっていたかと思えばその直後のCMで遊園地のクリスマスイベントの宣伝をやっているような、まったく違う季節を感じさせるものが当然のように混在している時期は一年のうちでも今ぐらいなんじゃないだろうか、と私は思うのだ。
だから、十一月は曖昧だと思う。曖昧で、よくわからない。

そういうのは、好きじゃない。
はっきりしてほしいと思う。よくわからないのは、やっぱり嫌だ。

私、中野梓はそんなどうでもいいことを考えながら、少し冷たい風が吹きつける中、通学のために歩を進めていた。
空は一面を鉛の板で覆ったかのような、一切の切れ目もない曇天だった。今にも大粒の水滴が零れてきそうだ。しかし、朝の天気予報で、お天気おねえさんは『本日の降水確率は十パーセントです』と朗らかに言っていた。
通学中の生徒達を見れば、みんなその実際の空と予報のギャップに戸惑っているようで傘を持ってきている人、いない人、半々ぐらいだ。私も家を出る直前に持っていくべきか、必要ないか悩まされた。念のため折りたたみの傘を鞄に忍ばせてはいるが、果たして活躍の機会はあるのか、ないのか。

「……もう、はっきりしてよ」

大したことではない。天気が曖昧だなんてよくあること。天気予報だって完璧じゃないのだ。完璧なら、それは最早予報ではなく予告だろう。
そう、だから大したことじゃない。
はずなのだが。

「私、何でこんなにイライラしてんだろ」

はぁ、と溜め息が口を吐いた。ここ二、三日、ずっとこんな感じだ。
溜め息を吐くと幸せが逃げるという俗説を訊いたことがあるけど、それって本当だと思う。
だって、私はちょっと前までとても幸せだったはずなのだ。

大好きな先輩達が今も私が通う桜が丘高校を卒業したのはもう半年以上も前のことだ。

私は高校三年生へと進級してから、親友の平沢憂、鈴木純と共に軽音部存続のために、自分で言うのも何だが必死で頑張った。絶対に軽音部を潰すものか、絶対にこの部を守ってみせるという強い決意が私の中にはあったのだ。
それが私の高校生活を最高のものにしてくれた先輩達への恩返しだと思ったから。
部長という慣れない肩書に戸惑い、一体どうすれば部員が入ってくれるかと悩み、新歓ライブのためにと猛練習をして。

その頑張りはどうにかこうにか実を結んで、晴れて四名の新入生を軽音部に迎えることができた。

ギターをやってみたいという子が一人。前からベースをやっている子が一人。一応ドラムを少しは齧ったことがあるという子が一人。ピアノをやっていたのでキーボードがしたいという子が一人。
まるで先輩達の再現みたいな組み合わせに、私と憂と純は顔を見合わせて笑ったものだ。
別にベースの子とドラムの子が幼馴染だったりキーボードの子がお嬢様だったりはしないし、それにギター志望の子が可愛いもの好きの天然さんだったりもしないのだけど。

新しい仲間達を迎えて、私が率いる新生軽音部が始動したのは新緑が陽の光を浴びて輝く五月のことだ。
初めての後輩(トンちゃんをカウントしなければ、だけど)に私は最初どう接していいか、わからないでいた。
でも、憂と純が支えてくれた。あの二人には感謝してもしきれない。きっと二人がいなきゃ駄目だった。
それに、後輩達も明るくて優しい子ばかりだった。すぐに打ち解けることができた。私も、あの四人のためにも頑張ろうと思えた。

六人の仲間と過ごしたこの半年間。
後輩にギターを教えたり、先生を含めて一緒にティータイムを楽しんだり、みんなで演奏をしたり、休日は遊びに行ったり、夏休みには勉強の合間を縫って合宿に行ったり。
笑いあって、からわれてからかって、たまに怒って、すぐに仲直りして、また笑いあって。
その日々は、先輩達との二年間に負けないくらいきらきらと輝いていた。

そしてつい先日、私達は桜高文化祭でライブを行った。

後輩達にとっては初めてのライブ。それから、私と憂と純にとっては引退ライブだった。
まず舞台に上がったのは後輩四人。みんな、傍目から見てまるわかりなほどがちがちに緊張していた。
その初々しい姿が可愛らしくて笑うと、「も~、慣れてる先輩と違ってこっちは心臓ばくばくなんですからね……」なんて言われたっけ。
しかし、実際のところ私だって心臓ばくばくだったのだ。
自分達の演奏にではなく、後輩達の演奏に、だ。
舞台袖で見守りながら、彼女達はうまくやれるだろうか、ちゃんと練習の成果を発揮できるだろうか、こけてパンツを公衆の面前に晒してしまわないだろうか、なんてずっとぶつぶつ呟いていて、憂に苦笑されて、純に「ちょっと落ち着きなよ」と窘められた。
だって、本当に心配だったんだ。
仕方がないじゃないか。半年の間、一緒に過ごして色々教えてあげた後輩達の、初の晴れ舞台なのだから。
どうか成功しますように、と心の内で祈りながら私は舞台袖から彼女達を見守った。
結果から言えば、心配は杞憂に終わった。
彼女達は舞台に立つと、まるでさっきまでの緊張っぷりが嘘のように堂々と振舞った。やっぱり演奏のレベルはまだまだだけど、それでも練習してきたことを完璧に出し切っていた。
そして何より、本当に楽しそうだった。
舞台に立つ後輩達が、先輩達と重なって見えた。私が尊敬する、本当に音楽を愛しているあの四人の先輩に。
心の底から「この子達になら、軽音部をまかせていける」と思えた。
彼女達が演奏を終えて舞台裏へ戻ってきたとき、私は一言「お疲れ様」と言った。ギターの子が一言「頑張ってください」とだけ言って、笑った。
それだけの短いやり取りで十分だった。

後輩達が最高潮に盛り上げてくれた場。その舞台へ、私達三年生は上がった。

クラスメイトがいて、先生がいて、両親がいて、その他の観客がいて。
そして見に来てくれた四人の先輩がいて。
みんなの目の前で、私は精一杯演奏した。
今でも躰が鮮明に記憶している。
純のベース、憂のドラム、それから私のギターが奏でる音が絡み合って、音楽が紡がれる。講堂全体を包み込むような一体感。自分の奥底から湧き出てくる、みんなに伝えたい想い。感謝の気持ち。
その時間はあっという間で、でも永遠のようで。
自然と、ちょうど一年前のライブが思い起こされて。
私の高校生最後のライブは、高校生活の集大成と言って過言ない、最高のライブになった。

全部が終わって音楽室に戻ってから、私は泣いた。それこそ去年の文化祭ライブの後に先輩達が泣いたように、みんなの目の前で大泣きしてしまった。
涙の理由としては終わってしまった寂寥感というよりも、やり切れた満足感の方が大きかったように思う。
そんな私に、後輩達や、来てくれた先輩達、憂と純(この二人もかなり涙ぐんでいた)は代わる代わる声をかけてくれ、それから私をぎゅっと抱きしめてくれた。
今思い返すとすごく恥ずかしいけど、でも、それはとても暖かくて、幸福な時間だった。

そうして、私は高校生活を実りあるものにしてくれた軽音部を引退したのだ――が。

「おもしろくない……」

私は今、面白くない状況にあった。
面白くない、というのは部活を引退したから学校に行くのがつまらない、とかいうわけではないし、受験勉強がつまらない(まぁ、つまらなくない、とも言い難いが)というわけでもない。

そんな風にぼんやりと今までのことを振り返りながら歩いていたら、いつの間にか教室のドアの前だ。我ながら注意力が散漫になり過ぎていると思う。
ドアを横に滑らして、開く。入口付近にいたクラスメイトが「おはよう」と声をかけてきたので、私も「おはよ」と返す。いつものやり取りだ。
それから、クラス全体をざっと見回して、ちょうど中央辺りに憂と純の姿を見つけた。憂の席の前に純がしゃがみこんでいる。二人とも、机の上に何かの用紙を置いて真剣に話をしていた。

(また、か)

私はゆっくりと二人の方へと向かう。憂が私に気がついて手を振った。それを見て、純もこちらを振り返って、それから同じようにぴっと手を上げた。

「おはよう、梓ちゃん」
「やっほー、梓」

二人とも、何食わぬ顔で私に声をかけてきた。
でも、私はちゃんと気が付いている。

私を見た瞬間、憂が机の上にあった用紙をすっと机の中に仕舞ったのを。

ここ数日、二人がよそよそしい。

妙にこそこそしているというか、私に何か隠し事をしているというか。とにかく、はっきりしないのだ。
今みたいに私抜きで何かを相談しているようなこともあれば、昨日は二人とも用事があるなんて言って、いっしょに帰らなかった。
明らかに何かある。なのに、二人は私に何も言ってくれない。

別に、今すぐに全部を話してくれなくたっていい。
憂も純も大切な親友だからいつだって彼女達のことはわかっていたいという気持ちはあるけれど、でもそれは単なる私の我儘に過ぎない。
それに、もうそこそこ長い付き合いだ。
今は言えなくても、言ってくれなくても、いつかはきっと言ってくれる。それぐらいには、私はあの二人からの信頼を得ていると自負している。

実際、私はそうだった。

私も、秘密を作ったときがあった。大きな声では言えない秘密だった。ある人と、二人だけの秘密だった。下手をすれば、今まで築き上げてきた人間関係を壊してしまいかねない、それはそんな秘密だった。
だから憂にも純にも、すぐには言えなかった。
でも私は、いや『私達』は結局親しい人達にその秘密を打ち明けた。話してもいい、というより、話したい、訊いて欲しい。隠し事をしたくない。そう思う人達に。
私達が考えるその『親しい人達』に当然憂と純も含まれていて、だから私は二人に秘密を話したのだ。
彼女達は信頼に答えてくれた。私の秘密を受け入れてくれた。
だから、きっと彼女達が何かを隠していて、それが私に言いにくいことでもきっと話してくれると思うのだ。私が二人に秘密を打ち明けたように、二人も私に話してくれると思うのだ。

思うのだ、けれど。

「ああ~、眠い~」
「どしたの、寝不足?」
「まぁね、ちょっと夜更かししちゃって……」
「とか言って、どうせ純のことだから十一時ぐらいでも夜更かしって言うんでしょ」
「違うよ~。昨日は一時ぐらいまで起きてたんだから……」
「え、何でそんな時間まで。勉強?」
「いや、そりゃあ、演奏の練習を」
「は? 練習? もう文化祭も終わったのに?」
「え、えと、それって勉強やろうとすると別のことやりたくなるってやつだよね、純ちゃん!」
「へ? どしたの憂……って、あっ、うん、そ、そう、それ! いやぁ、勉強しようと思ってもね、ついついね~」 
「何、唯先輩みたいなこと言ってんの……」
「あはは……」

何気なく交わされる会話。その節々にも、何だかぎこちなさがある。何かを隠そうとしている感じがする。
言いたくないなら仕方がないとは思いつつ。隠し事の一つや二つ受け入れられないで何が親友だと思いつつ。

(やっぱり、気になる……)

そう思ってしまうのが人間というもので。
だから、妙にイラついて、面白くなくて、ちょっと参っている、そんな最近なのだった。




November ~ I was born……~(2)


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松中 竜馬

Author:松中 竜馬
百合が大好きなしがない人間。
唯梓は至高。
趣味はスポーツ観戦・麻雀・小説書き。

ブログの内容は二次創作百合小説が中心となります。
なので、こう言うのも何ですが、そういうのが苦手な方は見ないことをおすすめします。

ジャンルはけいおん!がメイン 
カップリングは唯梓

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